行政書士 民法 問86:内縁・事実婚の法的保護
内縁(事実婚)に関する次のア〜オの記述のうち、現行法の規定および判例の趣旨に照らして**正しいもの**はどれか。
- ア内縁の夫婦は、婚姻届を提出していないため、婚姻費用の分担義務を相互に負わない。
- イ内縁の配偶者が死亡した場合、生存している内縁配偶者は、法定相続人として死亡した内縁配偶者の遺産を相続することができる。
- ウ内縁が不当に破棄された場合、不当破棄をした者は相手方に対して不法行為に基づく損害賠償責任を負いうる。正答
- エ内縁の夫婦の間に生まれた子は、法律上当然に嫡出子とみなされる。
- オ内縁の夫婦間の財産については、婚姻の財産制(夫婦財産契約・法定財産制)が当然に適用される。
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内縁とは、婚姻意思と共同生活の実態があるにもかかわらず、婚姻届を提出していない夫婦関係です。判例は内縁に対して婚姻準拠(準婚理論)を認め、内縁破棄が不当な場合は不法行為責任(民法709条)を認めています。これがウの根拠で正答です。アは誤りで、判例は内縁の夫婦間にも婚姻費用分担義務を類推適用します。イは誤りで、内縁配偶者は相続人ではないため法定相続権がありません(これが内縁の最大の不利益)。エは誤りで、内縁の夫婦間の子は認知がなければ非嫡出子の身分であり、嫡出子とは扱われません。オは誤りで、夫婦財産制(民法762条等)は法律婚のみに適用されます。
正答はウです。判例は内縁を「準婚」として婚姻に準じた法的保護を与えることを認めており(最大判昭33.4.11参照)、内縁の不当破棄に対しては不法行為責任(民法709条)を認めています。内縁が相手方の一方的な意思で不当に破棄された場合、破棄された側は精神的損害(慰謝料)のみならず財産的損害についても損害賠償を請求できます。
各選択肢を確認します。ア(誤):判例は内縁の夫婦間にも婚姻費用の分担義務を類推適用しており(最判昭33.4.11参照)、届出のみを理由とする否定はされていません。イ(誤):内縁配偶者は相続人(民法890条)に含まれないため、法律上の相続権はありません。内縁配偶者に財産を残すためには遺言(遺贈)が必要です。エ(誤):内縁の夫婦間の子は、嫡出推定(民法772条)が及ばないため嫡出子ではなく(父から)認知されることで法律上の父子関係が成立します。オ(誤):夫婦財産制(民法762条・婚姻費用分担・夫婦財産の帰属)は法律婚にのみ適用され、内縁には直接適用されません(類推適用される部分もある)。
【理論的背景】
内縁(事実婚)の法的地位については、「準婚理論」と呼ばれる考え方が判例・学説上確立しています。最高裁(最大判昭33.4.11)は、内縁に対して婚姻に関する規定の多くを類推適用することを認め、内縁の法的保護を大幅に拡充しました。しかし、内縁が法律婚と異なる点も多く、最大の違いは相続権(内縁配偶者は相続権なし)と嫡出推定(内縁の子は嫡出子でない)です。内縁の選択は、当事者が婚姻届という形式を避けながら共同生活を営む選択であり、その実態を尊重して一定の法的保護を与えつつ、法律婚と同一視はしないバランスを取っています。
【実務・条文構造】
内縁に類推適用・不適用となる主な規定を整理します。類推適用される規定:婚姻費用の分担(民法760条類推)、日常家事債務の連帯責任(民法761条類推)、財産分与(民法768条類推・内縁解消時)、不当破棄への損害賠償(民法709条・不法行為)。内縁に適用されない規定:相続権(民法890条・内縁配偶者は相続人でない)、嫡出推定(民法772条・内縁の子は嫡出子でない)、夫婦財産制(民法762条等)、氏(民法750条・内縁では氏の変更なし)。なお、内縁配偶者には一定の場合に借家権の承継(借地借家法36条)・遺族年金受給権(各種社会保険法)が認められており、実質的な保護範囲は広がっています。
【試験での位置づけ】
行政書士試験での内縁の論点は、(1)相続権なし(内縁配偶者は法定相続人でない)、(2)嫡出推定なし(内縁の子は非嫡出子・認知で父子関係成立)、(3)不当破棄への不法行為責任(判例上確立)、(4)婚姻費用分担の類推適用が中心です。「内縁配偶者も相続できる」(イ)は最も一般的な誤解を問う引っかけです。なお、内縁解消時の財産分与は民法768条の類推適用が認められており(財産分与類似の請求として)、この点も重要です。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 誤り。婚姻費用分担義務(民法760条)は法律婚にのみ直接適用されるが、判例は内縁の夫婦にも類推適用することを認めている。内縁の夫婦間で一方が収入を独占して他方の生活を維持しないような場合、不当破棄に加えて婚姻費用不分担による損害賠償が問題となる。
- イ: 誤り。内縁配偶者は民法890条の「配偶者」に含まれず、法定相続権がない。これが内縁最大の不利益。内縁配偶者に財産を残すには遺言(遺贈)が必要。なお、一定の要件の下で特別縁故者として相続財産の分与を受けられる可能性はある(民法958条の2)。
- ウ: 正しい(正答)。判例(最大判昭33.4.11等)は内縁不当破棄に対する不法行為責任を認めている。「不当な破棄」かどうかは諸般の事情(破棄の経緯・内縁の継続期間・経済的依存度等)を総合的に考慮して判断される。
- エ: 誤り。内縁の夫婦間の子には嫡出推定(民法772条)が及ばず、非嫡出子として扱われる。父子関係は父からの認知(民法779条)によって成立し、認知がない場合は法律上の父子関係が生じない。
- オ: 誤り。夫婦財産制(民法762条等)は法律婚にのみ適用される。内縁解消時の財産分与は民法768条の類推適用として認められる場合があるが、婚姻中の財産帰属について法定財産制が当然適用されるわけではない。
【根拠条文】
民法 第709条(不法行為)、第760条(婚姻費用分担・類推適用)、第768条(財産分与・類推適用)、第772条(嫡出推定・内縁には不適用)、第887条以下(相続権・内縁配偶者は相続権なし)、第890条(配偶者の相続権・法律婚のみ)
【参照判例】
内縁保護(最大判 昭和33年4月11日)
【補足】
内縁の最大の不利益は「相続権なし」と「嫡出推定なし(認知が必要)」の2点。不当破棄への不法行為責任・婚姻費用分担義務の類推適用は判例上確立。試験上は「内縁配偶者には相続権がない」を確実に押さえること。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 判例・民法 第709条(不法行為)、民法 第887条以下(相続)、民法 第772条(嫡出推定) 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。