民法97民法物権・担保物権

行政書士 民法 問97:民法物権・担保物権

留置権の成立要件に関する次のア〜オの記述のうち、**正しいもの**はどれか。

  • 留置権は、他人の物を占有している者が、その物に関して生じた債権を有する場合に成立するが、不法行為によって占有を始めた場合でも成立する。
  • 留置権は、被担保債権の弁済期が到来していなくても成立し、債権者は弁済期前であっても目的物を留置することができる。
  • 留置権は、占有を失うことによって消滅するが、代わりに相当の担保を提供することで留置権を消滅させることはできない。
  • 建物の賃借人が建物に有益費を支出した場合、その費用の償還を受けるまで建物を留置する権利を有するが、この場合の被担保債権と物との間に牽連性が認められる。正答
  • 商人間の取引において留置権の成立要件は民法の留置権とは大きく異なり、被担保債権と物との間に牽連性(個別の関連性)が必要とされる。
正答:建物の賃借人が建物に有益費を支出した場合、その費用の償還を受けるまで建物を留置する権利を有するが、この場合の被担保債権と物との間に牽連性が認められる。

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エが正しいです。建物の賃借人が建物に有益費(建物の価値を増加させる費用)を支出した場合、民法295条1項の「その物に関して生じた債権」(有益費償還請求権)として、建物と有益費償還請求権の間に牽連性が認められ、留置権が成立します。アは誤りで、不法行為によって占有を始めた場合は留置権が成立しません(民295条2項)。イは誤りで、民295条1項ただし書により被担保債権の弁済期が到来していなければ留置権は成立せず、弁済期前には目的物を留置できません。ウは誤りで、相当の担保提供によって留置権を消滅させることができます(民301条)。オは誤りで、商法上の留置権(商521条)は牽連性(個別関連性)が不要という点で民法の留置権より成立要件が緩和されています。

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エが正解です。留置権の成立要件として「物と債権との牽連性」があります。建物賃借人が有益費(建物の価値を客観的に増加させる費用・民608条2項)を支出した場合、有益費償還請求権(被担保債権)はその建物(留置物)から生じた債権であり、牽連性が認められます(最判昭51.6.17等)。したがって、建物の返還を求める貸主に対して、有益費の返還を受けるまで建物を留置することができます。

アは誤りです。民295条2項は「ただし、占有が不法行為によって始まった場合は、この限りでない」と規定しており、不法占拠の場合は留置権が成立しません。

イは誤りです。民295条1項ただし書は「ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない」と規定し、被担保債権の弁済期の到来を留置権の成立要件としています。弁済期が到来していなければ留置権は成立せず、弁済期前に目的物を留置することはできません。「弁済期前であっても留置できる」というイの記述は誤りです。

ウは誤りです。民301条は「留置権者は、債務者に相当の担保を供させることによって留置権を消滅させることができる」と解されており(民301条は相手方の担保提供請求権を規定)、担保提供によって留置権を消滅させることは可能です。

オは誤りです。商法上の留置権(商521条)は「当事者双方が商人である場合において、双方のために商行為となるべき行為によって生じた債権を有するとき」に成立し、民法上の留置権の「牽連性」が不要という点で要件が緩やかです(個別の物と債権の関連性を問わない)。「牽連性が必要」とするオは誤りです。

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【理論的背景】

留置権(民295条〜302条)は、他人の物を占有している者が、その物に関して生じた債権を有する場合に、その債権の弁済を受けるまで物を留置できる権利(担保物権)です。留置権の本質は「公平の原則」であり、物に関連して費用を支出したり損害を被った者が、当該費用・損害の返還を受けるまで物の返還を拒絶できるという均衡を図るものです。留置権の法定担保物権性(当事者の合意不要・法律上当然に発生)と、牽連性要件(物と債権の関連性)が重要です。

【条文構造】

留置権の成立・消滅に関する条文を整理します。

民295条1項:成立要件

①他人の物を占有していること(自己の物は不可)、

②その物に関して生じた債権を有すること(牽連性)、

③その債権が弁済期にあること(弁済期到来)。

民295条2項:不成立事由(不法行為による占有開始)。

民296条:留置権の不可分性(債権全額の弁済を受けるまで物全体を留置できる)。

民299条:留置権者の費用償還請求権(留置中の必要費・有益費の請求可)。

民301条:担保提供による留置権の消滅(相当担保の提供で留置権消滅)。

民302条:占有の喪失による留置権の消滅(占有を失った場合に消滅・ただし代わりに供託等した場合は例外あり)。

商法521条:商法上の留置権(牽連性不要・両当事者が商人・双方のために商行為であることが要件)。

【試験での位置づけ】

行政書士試験における留置権の典型論点は、①成立要件(占有・牽連性・弁済期到来)、②不成立事由(不法行為による占有開始・民295条2項)、③担保提供による消滅(民301条)と占有喪失による消滅(民302条)、④商法上の留置権との比較(商521条・牽連性不要)の4点です。不動産賃借人の有益費償還請求権と留置権(牽連性あり)の組み合わせは典型事例として出題されます。また、「留置権は認めても担保提供で消滅させられる」という点も重要です。

【各選択肢の発展補足】

  • ア: 誤り。民295条2項の不成立事由(不法行為による占有開始)が適用。不法占拠者(例:無断で他人の建物に居座る者)が建物の修繕費用を支出したとしても、不法行為による占有であるため留置権は成立しない。なお、悪意の占有者(例:他人の物とは知りつつ占有)は、占有開始が不法行為でなければ留置権が成立しうる(注意)。
  • イ: 誤り。民295条1項ただし書により、被担保債権の弁済期が到来していることが留置権の成立要件。弁済期前には留置権は成立しない(例:賃借人の有益費償還請求権は賃貸借終了時=目的物返還時に発生するため、それまでは留置権を行使できない)。「弁済期前でも留置できる」は誤り。
  • ウ: 誤り。民301条(担保の提供)は「債務者は、相当の担保を供して、留置権の消滅を請求することができる」と規定しており、担保提供により留置権消滅が可能。「消滅させることはできない」は誤り。実務上、多額の留置権が主張された場合に担保提供(供託金等)で解決するケースが多い。
  • エ: 正答。有益費償還請求権と建物の牽連性(民295条1項「その物に関して生じた債権」)。賃貸借契約終了後に賃借人が留置権を主張するケースは実務上重要。有益費の例:壁の改装・バリアフリー化工事等。なお賃貸借契約に「有益費特約(退去時に有益費請求しない旨の合意)」がある場合は留置権が消滅するという判例もある(民608条2項の特約)。
  • オ: 誤り。商法521条の商事留置権は牽連性不要(双方が商人・双方のために商行為の債権があれば成立)という点で民法留置権より要件が緩い。例:問屋(商人)が委託者から受託した商品を保管中に、委託者が別取引の代金を支払わない場合でも商事留置権が成立しうる(物と債権の個別的関連性不要)。

【根拠条文】

民法 第295条第1項(留置権の成立要件)、第295条第2項(不法行為による占有の場合の不成立)、第301条(担保提供による留置権の消滅)、第302条(占有喪失による消滅)

商法 第521条(商事留置権・牽連性不要)

【補足】

民法留置権の成立要件は「占有+牽連性+弁済期到来」。不法行為による占有開始は不成立。担保提供(民301条)で留置権を消滅させることができる。商事留置権(商521条)は牽連性不要という民法との重要な相違点。

出典・根拠について

本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 民法 第295条(留置権の成立)、第296条(留置権の不可分性)、第302条(留置権の消滅) 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。

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