行政書士 民法 問99:民法総則
次の事例のうち、公序良俗(民法90条)に違反して無効となる可能性が最も高いものはどれか。
- アAがBに対して「私の所有する土地を更地にして引き渡す」という内容の売買契約を締結した。
- イAとBが、Bの将来の相続分を一切放棄する旨の書面を作成した(被相続人Aが生存中)。
- ウAがBに対して、賭博で負った債務について弁済することを約束する契約を締結した。
- エAとBが、AがBの競合商品の販売を行わない旨を内容とする競業避止特約を締結した。
- オ労働者Aと使用者Bが、労働契約において「Aが自発的に退職する場合は6か月分の賃金を違約金として支払う」という条項を含む契約を締結した。正答
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オが最も公序良俗違反として無効となる可能性が高いです。「退職する場合に多額の違約金を支払う」という条項は、労働者の退職の自由(職業選択の自由)を不当に制限し、かつ労働基準法16条(賠償予定の禁止)に違反するため、民法90条の公序良俗違反として無効となります。アは通常の売買契約であり有効です。イは相続開始前の相続分の放棄(遺産分割前の放棄合意)は、判例上は完全には拘束力が認められないことがありますが、直ちに公序良俗違反ではありません。ウは賭博債務の弁済約束ですが、賭博債務自体が不法原因給付(民708条)の問題となり得るものの、公序良俗違反かどうかは具体的状況による。エは競業避止特約として一般的に有効とされる合理的なものは許容されます。
オが最も公序良俗違反として無効となる可能性が高いです。民法90条は「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする」と規定しています。オの「退職時に多額の違約金(6か月分の賃金)を支払う」という条項は、①労働者の退職の自由・職業選択の自由(憲22条)を著しく制限し、②労働基準法16条(損害賠償予定の禁止・労働者が契約違反をした場合に違約金・損害賠償の予定を禁止)に違反するものであり、民法90条の公序良俗違反として無効となります。
アは有効です(通常の売買契約)。イの相続開始前の相続分放棄合意は、相続開始後の遺産分割協議と異なり、現行法上の効力は不明確な部分がありますが、直ちに公序良俗違反とはなりません。ウの賭博債務の弁済約束については、賭博そのものが不法であり、賭博を目的とする法律行為は公序良俗違反(民90条)として無効ですが、賭博「後に生じた」弁済契約の効力は別問題です(民708条不法原因給付との関係)。エの競業避止特約は、合理的範囲(期間・地域・補償金等)であれば有効とされる契約です。
【理論的背景】
公序良俗(民90条)は、法律行為の内容が「公の秩序」または「善良の風俗」に反する場合に無効とする規定です。公序良俗違反の類型として、学説・判例は多様なカテゴリーを認識しています。①犯罪・違法行為に関するもの(賭博債務・薬物取引等)、②人身拘束・奴隷的拘束(過度な労務の強制・退職制限)、③射倖行為(ギャンブル等)、④不公正な取引(暴利行為・著しく不均衡な対価)、⑤家族関係の支配(不倫関係の継続を条件とする遺贈等)、⑥競争制限(不当な競業避止)などです。オの退職時の多額の違約金条項は、特に②の人身拘束・労働の自由の観点から問題があります。
【条文構造】
公序良俗違反に関する規律を整理します。
民90条:「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする」(強行規定・絶対的無効)。
民91条:任意規定と法律行為の解釈(任意規定は当事者の特約で変更可・強行規定は不可)。
民708条:不法原因給付(不法な原因のために給付した場合の返還請求禁止)。
労働基準法16条:賠償予定の禁止(使用者は、労働契約の不履行について違約金または損害賠償額を予定する契約をしてはならない)。
公序良俗違反の効果:絶対的無効(誰からでも・いつでも主張可能)。追認によって有効にはならない。不法原因給付(民708条)との関係:不法な給付を受けた場合、返還請求できない場合がある(公序良俗違反を行った側の保護を否定する機能)。
【試験での位置づけ】
行政書士試験における公序良俗の典型問題は、①賭博・犯罪に関する法律行為の効力、②労働者の自由を不当に制限する条項(退職違約金・過度な競業避止特約)、③暴利行為(著しく過大な利息・不均衡な対価)、④不倫関係を条件とする遺贈・贈与の効力の4パターンです。特に労働基準法16条(損害賠償予定の禁止)と民法90条の関係(労基法違反→公序良俗違反→民法上も無効)は最重要論点です。「合理的な競業避止特約は有効」という点も頻出(エとの対比)。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 有効(通常の売買)。「更地にして引き渡す」という条件付き売買も有効な法律行為であり、公序良俗上の問題はない。更地化の費用負担・条件違反の処理は契約の解釈問題。
- イ: 相続開始前の相続放棄は民法上の「相続の放棄」(民938条)とは異なり、相続開始後でなければ家庭裁判所への申述による放棄ができない(民938条は「相続の開始後」を前提)。遺産分割前の「相続分の放棄合意」の法的効力は判例・学説上不確定な部分があるが、直ちに公序良俗違反とはならない。
- ウ: 賭博(賭博罪・刑法185条)のための債務は原則として公序良俗違反(民90条)として無効だが、賭博後に負けた側が「弁済する」という約束の効力は、不法原因給付(民708条)や賭博そのものの無効との関係で複雑。この問題は「弁済約束が独立して有効か」という論点で、直ちにオと同列には論じにくい。
- エ: 競業避止特約の有効性は合理性の判断(期間・地域・職種・代償の有無)による。「Bの競合商品の販売をしない」という企業間の競業避止は、合理的な期間・範囲であれば有効とされる(独占禁止法との関係も考慮)。期間・地域・代償が設定されている合理的な特約は公序良俗違反とならない。
- オ: 正答。労基法16条違反+民法90条公序良俗違反の典型。「6か月分の賃金」という過大な違約金は労働者の退職の自由を実質的に制限する。退職抑制目的の違約金は裁判例でも繰り返し無効とされている。なお、使用者が実際の損害を証明して損害賠償請求するのは別問題(労基法16条が禁止するのは「損害額の予定(事前合意)」)。
【根拠条文】
民法 第90条(公序良俗違反・無効)、第708条(不法原因給付)、労働基準法 第16条(賠償予定の禁止)
【参照判例】
退職時の違約金条項(労基法16条・民法90条):多数の裁判例が無効としている。
【補足】
公序良俗違反の典型類型:労働の自由を制限する違約金条項(労基法16条+民90条)・賭博・暴利行為・不倫関係の継続を条件とする給付等。競業避止特約は合理的範囲であれば有効。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 民法 第90条(公序良俗)、労働基準法 第16条(賠償予定の禁止) 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。