衛生管理者 労働生理 問13:呼吸
肺でのガス交換に関する次の記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア肺胞でのガス交換において、酸素(O₂)は肺胞から毛細血管へ、二酸化炭素(CO₂)は毛細血管から肺胞へ移動するが、これは両者が能動的に輸送されるためである。
- イ酸素分圧は動脈血よりも静脈血の方が高く、二酸化炭素分圧は静脈血よりも動脈血の方が高い。
- ウ肺胞気中の酸素分圧は大気(外気)よりも低く、肺胞気中の二酸化炭素分圧は大気よりも高い。正答
- エ末梢組織での内呼吸においては、O₂は組織から血液へ、CO₂は血液から組織へ移動する。
- オ肺胞壁(肺胞上皮と肺毛細血管内皮)を介したガス移動速度は、O₂の方がCO₂より速く、CO₂の拡散障害が先に起きる。
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正しいのはウです。肺胞の中の空気(肺胞気)は、外の空気(大気)と比較して酸素分圧が低く、CO₂分圧が高くなっています。なぜなら肺胞では酸素が血液に取り込まれ(酸素分圧が下がる)、CO₂が血液から放出される(CO₂分圧が上がる)からです。
各誤りの要点: ア→ガス交換は分圧差による受動拡散(能動輸送ではない)です。イ→酸素分圧は動脈血の方が高く、CO₂分圧は静脈血の方が高い(選択肢と正反対)。エ→末梢組織ではO₂は血液から組織へ、CO₂は組織から血液へ移動します(選択肢と逆)。オ→CO₂の方がO₂より約20倍拡散しやすく(拡散障害は先にO₂で起きる)、CO₂が先に拡散障害を起こすという記述は誤りです。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(誤): 肺でのガス交換(外呼吸)は分圧差による受動拡散で行われます。エネルギー(ATP)を必要とする能動輸送ではありません。O₂は肺胞気中の高い分圧から毛細血管中の低い分圧へ、CO₂は毛細血管中の高い分圧から肺胞気中の低い分圧へ、それぞれ分圧勾配に従って自然に拡散します。
- イ(誤): 肺でO₂を受け取った後の動脈血はO₂分圧が高く(約95〜100mmHg)、組織でO₂を渡した後の静脈血はO₂分圧が低い(約40mmHg)。CO₂については組織でのCO₂発生を受けた静脈血がCO₂分圧が高く(約46mmHg)、肺でCO₂を放出した後の動脈血がCO₂分圧が低い(約40mmHg)。選択肢の記述は正反対です。
- ウ(正): 大気のO₂分圧≒159mmHg(大気中O₂=約21%、大気圧760mmHg)。肺胞気のO₂分圧≒100mmHg(大気より低い)。肺胞気のCO₂分圧≒40mmHg(大気ではほぼ0.03%=約0.3mmHg、肺胞気はCO₂が多い)。
- エ(誤): 末梢組織(内呼吸)では代謝によりO₂が消費されてO₂分圧が低く(約20〜40mmHg)、CO₂が発生してCO₂分圧が高い(約46〜50mmHg)。このためO₂は血液から組織へ(血液のO₂分圧>組織のO₂分圧)、CO₂は組織から血液へ(組織のCO₂分圧>血液のCO₂分圧)移動します。
- オ(誤): CO₂は水への溶解度が高く(水溶性が高い)、ガスの拡散係数もO₂より約20倍大きいとされます。したがって肺胞壁のガス移動速度はCO₂の方がO₂より速く、肺胞拡散障害(間質性肺炎等)ではO₂の拡散障害が先に出現します。
【理論的背景】
呼吸の本質は「外呼吸(肺でのガス交換)」と「内呼吸(組織でのガス交換)」の連鎖によって、大気中のO₂を細胞内ミトコンドリアへ届け、代謝産物のCO₂を肺から排出することにあります。
ガス交換の物理的基礎(フィックの法則):
- 拡散速度 ∝ (分圧差 × 拡散係数 × 面積)/ 厚さ
- 拡散係数 ∝ ガスの溶解度 / √分子量
- CO₂: 溶解度は約24倍(O₂と比較)・分子量44(O₂の32より若干大)→拡散係数はO₂の約20倍
- したがって同じ分圧差なら、CO₂の方がO₂よりはるかに速く拡散する
- これが「間質性肺炎・肺線維症ではO₂の拡散障害が先に現れ、CO₂蓄積は通常起きにくい」理由
主要ガス分圧の正常値(mmHg):
| 部位 | PO₂(mmHg) | PCO₂(mmHg) |
|---|---|---|
| 大気(乾燥・海面) | 159 | 0.3 |
| 肺胞気 | 100 | 40 |
| 動脈血 | 95〜100 | 38〜42(≒40) |
| 静脈血(混合) | 40 | 46 |
| 組織 | 20〜40 | 46〜50 |
【実務・条文構造】
職場での低酸素・ガス交換障害の実際:
換気血流比(V/Q比)ミスマッチ:
- 肺胞が換気されているが血流がない(死腔換気: V/Q→∞): 肺塞栓症、肺気腫
- 血流があるが換気されていない(シャント: V/Q→0): 無気肺、肺炎、RDS
- V/Q不均等→O₂の効率的な移動が妨げられ、低酸素血症が起きやすい
高山・低気圧環境での労働:
- 高山(例: 3,000m)では大気圧が約530mmHg→大気O₂分圧≒111mmHg(海面の70%)
- 肺胞O₂分圧が低下→ヘモグロビンの酸素飽和度(SpO₂)低下→組織低酸素
- 建設業・山岳作業での高山病リスク管理が重要
酸素欠乏症(酸欠)との区別:
- 酸欠則の定義: 酸素濃度18%未満の状態(通常21%)
- 酸素濃度18%未満では大気O₂分圧が低下→肺胞O₂分圧低下→動脈血PO₂低下→組織酸素供給不足→意識障害・死亡
- 坑道・タンク・地下ピット等の酸欠危険場所での作業は酸欠則の規制対象
CO₂の血中輸送の3様式:
1. 溶解(物理的溶解): 約7〜10%
2. カルバミノ化合物(ヘモグロビンとの直接結合): 約15〜25%
3. 重炭酸イオン(HCO₃⁻)として: 約60〜70%(最多)
→ CO₂ + H₂O ⇌ H₂CO₃ ⇌ H⁺ + HCO₃⁻(炭酸脱水酵素で促進)
【試験での位置づけ】
ガス交換問題では「ガス交換は分圧差による受動拡散(能動輸送ではない)」「動脈血:O₂高・CO₂低、静脈血:O₂低・CO₂高」「末梢組織:O₂は血液→組織、CO₂は組織→血液」「CO₂の方がO₂より拡散しやすいためO₂の拡散障害が先に出る」の4点が最頻出です。アのような「能動輸送」誤り、イやエのような方向の逆転誤りは典型的な引っかけです。
【各選択肢の発展補足】
- ア: なぜ生体のガス交換が受動拡散で十分なのか。肺胞の表面積は成人で約70〜100m²(テニスコートの半分程度)という巨大さと、肺胞壁(約0.5μmの薄さ)の組み合わせにより、高い拡散効率が得られます。これが能動輸送なしに血液を完全に酸素化できる理由です。
- ウ: 肺胞気O₂分圧が大気より低い(159→100mmHg)のは、(1)肺胞気は呼気中のCO₂で希釈されること、(2)肺胞からO₂が常に血液へ移動しているため、の2つの理由によります。「肺の中は真新しい大気で充満している」という誤解を修正しましょう。
- オ: 間質性肺炎・肺線維症では肺胞壁が厚く・硬くなるため、O₂の拡散障害が起きます。CO₂は拡散力が強いため、間質性変化が進んでもCO₂蓄積(高CO₂血症)は起きにくく、むしろ低O₂血症が先行します。これが間質性肺炎患者が「息苦しいのにCO₂は正常」という病態(I型呼吸不全)を示す理由です。
【根拠】医学的事実(確立した生理学)。ガス交換が分圧差による受動拡散であること・O₂とCO₂の分圧の関係・CO₂の高い拡散係数は呼吸生理学の基礎概念として確立。
【補足】肺胞でのガス交換は受動拡散(能動輸送でない)。動脈血はO₂高・CO₂低、静脈血はO₂低・CO₂高。末梢組織ではO₂は血液から組織へ、CO₂は組織から血液へ。CO₂はO₂より拡散しやすく、拡散障害ではO₂が先に障害される。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した生理学)。肺胞気の組成・ガス交換が分圧差による受動拡散であることは確立した知識。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。