衛生管理者 労働生理 問14:呼吸
ヘモグロビンと酸素の結合に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- アヘモグロビンの酸素飽和度(SpO₂)は、動脈血の酸素分圧(PaO₂)が高いほど高くなる傾向がある。
- イ酸素解離曲線はS字(シグモイド)型を示し、PaO₂が60mmHg以上の範囲ではSpO₂の低下が相対的に緩やかである(高い値を保つ)が、PaO₂が60mmHg未満になると急激にSpO₂が低下する。
- ウ体温の上昇・血液pH低下・PCO₂上昇は、酸素解離曲線を右方移動させ、ヘモグロビンから組織への酸素放出を促進する(ボーア効果)。
- エ胎児ヘモグロビン(HbF)は成人ヘモグロビン(HbA)より酸素親和性が低く、胎児は母体から効率よく酸素を受け取ることができる。正答
- オ一酸化炭素中毒では、COがヘモグロビンに結合してカルボキシヘモグロビン(COHb)となり、残存するヘモグロビンの酸素解離曲線が左方移動するため、組織への酸素放出がさらに障害される。
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誤りはエです。胎児ヘモグロビン(HbF)は成人ヘモグロビン(HbA)より酸素親和性が高い(低いではない)。だからこそ胎児は母体の血液からO₂を「奪い取る」ように受け取ることができます。HbFの酸素親和性が高い(酸素解離曲線が左方移動している)→同じO₂分圧でもHbFの方が多くO₂を結合できる→胎盤での母体HbAから胎児HbFへのO₂移動が効率的に起きるのです。
その他の選択肢はすべて正確です。酸素解離曲線はS字型でPO₂60mmHg未満で急落する(イ)、ボーア効果(右方移動)で組織への酸素放出が促進される(ウ)、CO中毒では残存Hbの曲線も左方移動して組織への酸素放出がさらに障害される(オ)はいずれも正確です。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): PaO₂が高いほどHbの酸素飽和度(SpO₂)は高くなります(酸素解離曲線の右上方向)。PaO₂が約100mmHg(正常動脈血)ではSpO₂は約97〜98%。
- イ(正): 酸素解離曲線のS字型の形状は臨床的に重要です。PaO₂が60mmHg以上では曲線が平坦部にあり、酸素分圧が多少低下してもSpO₂はあまり下がりません(予備能があります)。PaO₂が60mmHg未満になると曲線の急峻部に入り、PaO₂が少し低下するだけでSpO₂が急激に低下します。「SpO₂90%=PaO₂約60mmHg」が臨床的なアラームの目安です。
- ウ(正): ボーア効果(Bohr effect)は運動時に非常に重要です。運動中の筋肉では体温上昇・乳酸産生によるpH低下・CO₂産生増加が起きます→酸素解離曲線が右方移動→HbからO₂が解離しやすくなる→筋肉に必要なO₂が効率的に供給されます。「体温↑・pH↓(酸性)・PCO₂↑→右方移動→O₂放出促進」と覚えましょう。
- エ(誤): HbFは2,3-ジホスホグリセリン酸(2,3-DPG)への親和性が低く、その結果として酸素親和性が高くなっています(酸素解離曲線が左方移動)。これにより胎盤において母体HbAよりも低いO₂分圧でも高いSpO₂を保てるため、母体のHbAから胎児のHbFへのO₂移動(「O₂を奪い取る」方向)が起きます。「低い」と「高い」が逆になっている点が誤りです。
- オ(正): CO中毒の二重毒性。①COHb形成によりO₂運搬能が直接低下する。②残存OHbの酸素解離曲線が左方移動(2,3-DPGの機能変化等)し、組織へのO₂放出能も低下する。これにより同じPaO₂でも組織が受け取れるO₂量が著しく減少します。
【理論的背景】
酸素解離曲線(ODC: Oxygen Dissociation Curve)は、ヘモグロビンの酸素飽和度(SpO₂またはSaO₂)と酸素分圧(PO₂)の関係をグラフ化したもので、S字(シグモイド)型を示します。このS字型は協同効果(1つのサブユニットにO₂が結合すると他のサブユニットもO₂を結合しやすくなる「アロステリック効果」)によって生まれます。
ODCの右方・左方移動の原因と意義:
| 要因 | 移動方向 | O₂親和性 | 意義 |
|---|---|---|---|
| 体温↑ | 右方移動 | ↓(O₂放出↑) | 運動・発熱時に組織へO₂を供給しやすくする |
| pH↓(酸性化) | 右方移動 | ↓ | ボーア効果:乳酸・CO₂増加環境での酸素放出促進 |
| PCO₂↑ | 右方移動 | ↓ | ボーア効果と同等 |
| 2,3-DPG↑ | 右方移動 | ↓ | 貧血・高山低酸素での代償応答(O₂を放出しやすくする) |
| CO結合(COHb) | 左方移動 | ↑(O₂放出↓) | 組織へのO₂放出障害(毒性の二重機序) |
| HbF(胎児Hb) | 左方移動 | ↑ | 胎盤での母体→胎児へのO₂移動を促進 |
| 体温↓ | 左方移動 | ↑ | 低体温時はO₂を放出しにくい(心停止患者の低体温保護) |
P₅₀(SpO₂が50%になるPO₂):
- 正常値: 約26〜27mmHg(成人、体温37℃・pH7.4)
- 右方移動(P₅₀上昇): O₂親和性低下・組織へのO₂放出促進
- 左方移動(P₅₀低下): O₂親和性増加・組織へのO₂放出抑制
【実務・条文構造】
パルスオキシメーター(SpO₂モニター)の原理と限界:
- 原理: OHb(酸素化Hb)とHHb(脱酸素化Hb)の光吸収の差(赤色光と赤外光)を利用して非侵襲的にSpO₂を測定
- 測定できないもの: COHb(COHbはOHbと近似した光吸収を示すため、CO中毒でも見かけ上のSpO₂は高く表示される)
- 実務的注意: CO中毒疑いの患者でSpO₂が正常でも、実際の機能的酸素飽和度は低い可能性がある(COHbを検出するには血液ガス分析が必要)
職場での低酸素状態の評価:
- SpO₂ < 90%(PaO₂約60mmHg以下): 重篤な低酸素血症の基準
- SpO₂ 90〜94%: 軽〜中等度の低酸素血症
- 長時間低酸素曝露(坑内作業・高山作業)では SpO₂ のモニタリングが重要
胎児循環と出生後の変化(知識の深掘り):
- 出生前: HbF優位(2,3-DPG結合しにくい→高い酸素親和性→胎盤でのO₂移動に有利)
- 出生後6ヶ月頃までに: HbFからHbAへの切り替え(γ鎖→β鎖の遺伝子発現の変化)
- 異常: HbFが成人になっても残存する場合は鎌状赤血球症・サラセミア等の血液疾患との関連
【試験での位置づけ】
酸素解離曲線問題では「ボーア効果(体温↑・pH↓・PCO₂↑→右方移動→O₂放出促進)」「PO₂ 60mmHg付近でSpO₂が急落する(S字カーブの急峻部)」「HbFはHbAより酸素親和性が高い(低いではない)」「CO中毒は残存Hbの曲線も左方移動して二重に毒性」が最頻出です。エのようにHbFの酸素親和性が低いとする誤りは典型的な引っかけです。
【各選択肢の発展補足】
- イ: SpO₂90%=PaO₂60mmHgという対応値は臨床・産業医学で最重要の数値です。「SpO₂90%ライン」を覚えておきましょう。酸素投与の必要性の目安として使われます。PaO₂が100mmHgから60mmHgまで低下してもSpO₂は97%→90%(-7%しか下がらない)のに、PaO₂が60から40mmHgに低下するとSpO₂は90%→75%(-15%も急落する)というS字の特性が命取りになります。
- ウ: 2,3-ジホスホグリセリン酸(2,3-DPG)は赤血球内に存在し、貧血・高山低酸素環境では赤血球内2,3-DPG濃度が上昇します。これはO₂親和性を下げ(右方移動)組織への酸素放出を促進する代償機構です。輸血で長期保存された血液(2,3-DPGが減少)は組織へのO₂放出効率が低下するという問題もあります。
- エ: HbFとHbAの違いの分子的根拠: HbAはα₂β₂四量体、HbFはα₂γ₂四量体。γ鎖はβ鎖と比べて2,3-DPGへの結合能が低い→Hb分子内の2,3-DPG結合によるO₂親和性低下効果が弱い→全体としてHbFはO₂親和性が高い(酸素解離曲線が左方移動)。
- オ: CO中毒の「左方移動」がなぜ起きるかの詳細: CO結合したHbサブユニットが残存サブユニットの構造変化を誘導し、他のO₂結合サブユニットのO₂解離を抑制します(アロステリック相互作用)。これをHボーア効果と区別して「COヘモグロビン効果」と呼ぶこともあります。
【根拠】医学的事実(確立した生理学)。HbFの高い酸素親和性・ボーア効果・酸素解離曲線の右方・左方移動の因子は血液生理学の基礎概念として確立。
【補足】HbFはHbAより酸素親和性が高い(低いは誤り)→胎盤で母体から胎児へのO₂移動を促進。ボーア効果=体温↑・pH↓・PCO₂↑→右方移動→O₂放出促進。CO中毒は残存HbのODCも左方移動して二重に毒性。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した生理学)。胎児ヘモグロビンは成人ヘモグロビンより酸素親和性が高い(低いではない)。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。