衛生管理者 労働生理 問33:感覚器
騒音性難聴(雑音性難聴)に関する次の記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア騒音性難聴は耳小骨(ツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨)の損傷が主な原因であり、補聴器や外科手術で改善が可能である。
- イ職業性騒音曝露による難聴では、まず低音域(500Hz前後)の聴力が障害され、進行するにつれて高音域にも拡大する。
- ウ騒音性難聴は感音性難聴の一種であり、内耳(蝸牛)のコルチ器の有毛細胞が不可逆的に損傷することで生じる。正答
- エ騒音性難聴の初期に特徴的な聴力低下は8,000Hzの周波数帯域で最初に現れるため、高音域検査(8,000Hz以上)が必須スクリーニングとなっている。
- オ個人差はほとんどなく、同一の騒音環境に曝露された場合、すべての労働者がほぼ同程度の聴力低下を示す。
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正しいのはウです。騒音性難聴は内耳の蝸牛にあるコルチ器の有毛細胞が損傷されて起きる感音性難聴で、一度壊れた有毛細胞は再生しません(不可逆性)。補聴器は音を増幅するだけで、傷ついた有毛細胞を治すことはできません。
各誤りの要点: ア→耳小骨の損傷ではなく内耳の有毛細胞損傷が原因(伝音性難聴ではなく感音性難聴)。イ→最初に障害されるのは低音域ではなく4,000Hz(高音域)です。エ→最初に障害される周波数は8,000Hzではなく4,000Hz。オ→騒音感受性には大きな個人差があります。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(誤): 騒音性難聴は耳小骨の損傷ではなく、内耳の蝸牛(コルチ器)の有毛細胞の損傷が原因です。耳小骨の損傷による難聴は「伝音性難聴」(中耳炎・外傷等)であり、手術で改善できる場合もあります。しかし騒音性難聴は「感音性難聴」であり、有毛細胞は再生不能のため基本的に不可逆的です。補聴器は残存聴力の補助であり、有毛細胞を修復しません。
- イ(誤): 騒音性難聴の最初の特徴的な聴力低下は4,000Hz(C5dip・4kHzディップ)です。低音域(500Hz前後)が最初に障害されるのは誤りです。会話音域(1,000〜2,000Hz)の障害は進行例で生じます。
- ウ(正): 蝸牛のコルチ器には内有毛細胞(約3,500個)と外有毛細胞(約12,000個)があります。外有毛細胞が騒音で先に損傷され、特に4,000Hz付近の周波数に対応するコルチ器基底部外有毛細胞が選択的に傷つきます。有毛細胞は哺乳類では再生しないため永続的な難聴になります。
- エ(誤): 最初に障害される周波数は4,000Hzであり、8,000Hzではありません。4,000HzのC5dipが騒音性難聴の早期診断のマーカーです。
- オ(誤): 騒音感受性(個人感受性)には大きな個人差があり、同じ騒音環境でも聴力低下の程度は個人によって著しく異なります。また年齢・既往疾患・薬剤(アミノグリコシド系抗生物質等の耳毒性薬)も聴力低下を修飾します。
【理論的背景】
蝸牛(cochlea)は内耳にある渦巻き状の器官で、音波を電気信号に変換する役割を担います。
蝸牛のトノトピックマップ(音域の空間的分布):
- 蝸牛の入口(底部・基底): 高周波(高音)に対応
- 蝸牛の奥(頂部・頂端): 低周波(低音)に対応
- 4,000Hzに対応する領域は底部から約13mm付近で、血液供給が相対的に乏しく物理的な機械的ストレスも受けやすい
- これが騒音性難聴で4,000Hzが最初に障害される解剖学的理由
有毛細胞損傷の細胞生物学:
1. 過剰な音圧→基底膜の過振動→外有毛細胞の不動毛(stereocilia)に機械的損傷
2. 活性酸素(ROS)の産生増加→有毛細胞の酸化的ストレス→アポトーシス(細胞死)
3. 内有毛細胞は外有毛細胞より耐性が高いため、外有毛細胞から先に損傷される
4. 有毛細胞は哺乳類では再生不能(鳥類・魚類は再生可能であり研究対象)
音が聞こえるまでの経路:
音波→外耳道→鼓膜振動→耳小骨(ツチ骨→キヌタ骨→アブミ骨)振動→蝸牛窓→リンパ液波→基底膜振動→コルチ器有毛細胞変形→蝸牛神経→聴覚野(大脳皮質側頭葉)
【実務・条文構造】
騒音性難聴の労働衛生管理(衛生管理者の実務):
| 管理手法 | 具体的内容 |
|---|---|
| 工学的対策(最優先) | 機械の防音カバー・低騒音型機械への更新・振動吸収材・遮音壁 |
| 管理的対策 | 騒音発生時間の短縮・ローテーション・曝露時間の制限 |
| 保護具 | 耳栓(NRR/SNR値で遮音性能を確認)・防音イヤーマフ(高遮音)|
| 健康診断 | 騒音作業特殊健康診断(半年ごと): 250・500・1,000・2,000・4,000・8,000Hzの純音聴力検査 |
騒音の基準値(安衛則):
- 作業場の騒音規制: 管理区域(第2管理区分以下)では個人曝露量の把握・保護具使用が義務
- 騒音障害防止のためのガイドライン(平成4年): 1日8時間曝露の等価騒音レベル85dBが基準
C5dip(4kHzディップ)の診断的意義:
- 純音聴力検査で4,000Hzのみが選択的に低下し、1,000Hz・2,000Hzは正常範囲という所見
- 騒音性難聴の最も早期の客観的所見
- 進行すると4,000Hz以外の周波数も障害され会話音域(1,000〜2,000Hz)に及ぶと日常会話に支障
【試験での位置づけ】
騒音性難聴の問題では「最初に障害されるのは4,000Hz(C5dip)」「感音性難聴(内耳の有毛細胞)」「不可逆性(回復しない)」が最頻出の3点セットです。イの「低音域から障害」・エの「8,000Hzが最初」はどちらも周波数を誤らせる引っかけで、4,000Hzを確実に押さえてください。アの「耳小骨損傷・手術で改善」は伝音性難聴との混同であり、騒音性難聴が感音性難聴であることを理解していれば即座に誤りと判断できます。オの個人差否定は、騒音感受性の個人差が大きいこと(騒音曝露の疫学研究で明確に示されている)から誤りと判断できます。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 伝音性難聴の原因としては、耳垢塞栓・中耳炎(滲出性・慢性)・耳小骨連鎖断絶・鼓膜穿孔があります。これらは骨導聴力が正常で気導聴力が低下(気骨導差がある)という特徴を持ち、一部は手術や薬物治療で改善可能です。感音性難聴(騒音性難聴・老人性難聴・突発性難聴)は気導・骨導ともに低下し、基本的に不可逆です。
- イ: 低音域(低周波数)が最初に障害される難聴は「低音障害型感音難聴」と呼ばれ、内リンパ水腫(メニエール病の初期など)で見られることがあります。騒音性難聴とは全く異なる病態です。
- エ: 8,000Hzの聴力低下は老人性難聴でも早期から見られますが、老人性難聴は加齢による有毛細胞全体の退化であり、騒音特異的なC5dipとは異なります。騒音性と老人性の鑑別には職歴聴取と4,000Hzのディップのパターンが重要です。
- オ: 騒音感受性(TTS/PTS感受性)の個人差は遺伝的要因が大きく関与します。同一の騒音環境で10年以上曝露された集団でも、ほとんど難聴が生じない「強い耳」を持つ人と急速に進行する「弱い耳」を持つ人がいます。また抗生物質(アミノグリコシド系:ゲンタマイシン等)、利尿薬(フロセミド)、抗がん剤(シスプラチン)などの耳毒性薬との相乗効果も個人差を生む要因です。
【根拠】医学的事実(確立した職業医学・耳鼻咽喉科学)。騒音性難聴が4,000HzのC5dipを特徴とする感音性難聴(内耳有毛細胞の不可逆的損傷)であることは確立した知識。
【補足】騒音性難聴は感音性難聴(コルチ器有毛細胞損傷)で不可逆。最初に障害されるのは4,000Hz(C5dip)。低音域から障害・8,000Hzが最初・個人差なし、はすべて誤り。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した職業医学・耳鼻咽喉科学)。騒音性難聴が感音性難聴(有毛細胞の不可逆的損傷)であることは確立した知識。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。