衛生管理者 労働生理 問32:感覚器
視覚および明暗順応に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア明順応とは暗い場所から明るい場所へ移動したときに視力が回復する過程であり、暗順応と比べて所要時間が短い(数十秒〜数分程度)。
- イ暗順応は、まず錐体細胞が感度を高め(約5〜7分)、次いで杆体細胞が感度を高める(約20〜40分)ことで完成する。
- ウ杆体細胞(桿体)は網膜の周辺部に多く分布し、低照度(薄暗い環境)での光感受性が高いが、色の識別はできない。
- エ錐体細胞(錐体)は網膜の中心窩に集中して分布し、明るい環境での色覚および高い視力(解像度)を担う。
- オ明順応が完成するまでの時間は個人差が少なく、暗順応が完成するまでの時間も通常10分程度で、急な照度変化の影響は作業安全上ほとんど問題にならない。正答
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誤りはオです。「暗順応が10分程度で完成」という部分が誤りで、実際の暗順応は20〜40分程度かかります。また「作業安全上ほとんど問題にならない」も誤りで、トンネル内への入退場・夜間・照度変化の大きい職場では暗順応の遅れが事故リスクになるため、安全管理上重要な問題です。
その他の選択肢は正しい内容です。明順応(数十秒〜数分)は暗順応(20〜40分)より速く完成します(ア・正)。暗順応は錐体が先に感度を高め、次いで杆体が感度を高めます(イ・正)。杆体は周辺網膜に多く・低照度対応・色覚なし(ウ・正)。錐体は中心窩に集中・明所視・色覚担当(エ・正)。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): 明順応(暗い→明るい場所への移動時の視力回復)は、明るい光でロドプシン(視紅)が急速に分解され、錐体が作動し始めることで起きます。数十秒〜数分で完成し、暗順応よりはるかに速い。
- イ(正): 暗順応の二相性は重要知識です。第1相(〜7分程度)は錐体の感度上昇、第2相(〜40分程度)は杆体のロドプシン再合成による感度上昇です。感度曲線は「クニック(kink)」と呼ばれる折れ曲がりを示します。
- ウ(正): 杆体(rod cell)は網膜全体に約1億2000万個存在し、周辺部に多い。ロドプシンを含み、1光子でも反応できる高感度な光受容体ですが、1種類の視物質しか持たないため色の識別は不可能です。
- エ(正): 錐体(cone cell)は約600〜700万個が主に中心窩に集中。L・M・S錐体(赤・緑・青に感受性)の3種類が色覚を担います。
- オ(誤): 暗順応は20〜40分かかり、「10分程度」は明らかな過小評価です。また急な照度低下(トンネル入坑・夜間構内作業など)は視力が著しく低下する期間があり、転倒・落下・車両事故のリスクが高まるため、照明管理・順応時間の確保が安全対策として重要です。
【理論的背景】
視覚系は「光→視物質の光化学反応→膜電位変化→視神経インパルス→視覚野」という変換を行います。明暗順応の時間差は視物質(ロドプシン)の化学反応速度と再合成速度の非対称性から生じます。
視物質の光化学反応:
- ロドプシン(杆体視物質): オプシン(タンパク質)+ 11-cis-レチナール(ビタミンAの誘導体)の複合体
- 光が当たると11-cis-レチナールがall-trans-レチナールに異性化→ロドプシンが分解(光退色)→電気シグナル発生
- 暗所では酵素によってall-trans→11-cisに変換されロドプシンが再合成される(これが20〜40分かかる)
- ビタミンA欠乏→ロドプシン再合成不全→夜盲症(鳥目)の機序
色覚の3色説(ヤング・ヘルムホルツ説):
- L錐体: 長波長(赤)に感受性のピーク(約560nm)
- M錐体: 中波長(緑)に感受性のピーク(約530nm)
- S錐体: 短波長(青)に感受性のピーク(約420nm)
- 3種の錐体からの信号の組み合わせで色を識別
- 色覚異常(先天性): L錐体欠損(第1色覚異常)・M錐体欠損(第2色覚異常)が多い
【実務・条文構造】
職場における視覚・照明管理の実際:
| 環境変化 | 順応の種類 | 所要時間 | 安全リスク |
|---|---|---|---|
| 屋外→トンネル入坑 | 暗順応 | 20〜40分 | 坑内で視力低下→転倒・車両接触 |
| トンネル→屋外出坑 | 明順応 | 数十秒〜数分 | 短時間だが一瞬まぶしくて前方視認困難 |
| 夜間照明点灯→消灯 | 暗順応 | 20〜40分 | 停電時の避難誘導に影響 |
| 暗室作業(写真現像・精密組立等) | 暗順応を維持 | — | 急な照明ON→暗順応リセット→作業不能 |
照度基準(安衛則第604条)との関連:
- 精密作業: 1,500lx以上(高照度が必要=錐体視が主体)
- 普通作業: 300lx以上
- 粗な作業: 100lx以上
- 緊急避難通路: 最低限の照度確保(停電時も非常灯で1lx以上)
騒音性難聴(次問との対比)との違い: 視覚は暗順応に時間がかかるが回復可能。騒音性難聴は不可逆性であるという対比が試験でよく問われます。
【試験での位置づけ】
視覚問題の最頻出論点は「明順応<暗順応(時間)」「杆体=低照度・色覚なし・周辺網膜」「錐体=高照度・色覚あり・中心窩」です。オのような「暗順応が10分程度・安全上問題ない」という誤りは、所要時間の過小評価と安全上の重要性の否定という二重の誤りを含む典型的な引っかけです。産業安全の文脈では「暗順応の遅さは職場安全リスク」という視点が重要で、照明設計・順応時間の作業計画への組み込みが衛生管理者の実務に直結します。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 明順応が速い理由は「光によるロドプシン分解→感度低下」という過程が速いためです。暗い場所でロドプシンが蓄積(暗順応完成)した状態で突然明るい光が当たると、ロドプシンが急激に分解されて一瞬「まぶしい」だけでなく「見えない」状態になります(例:トンネルからの出口での眩惑)。
- イ: 暗順応のクニック(折れ曲がり)は、錐体の限界感度に杆体が追いついた点で生じます。クニックを境に杆体主体の視覚(暗所視)に切り替わります。錐体の絶対感度の限界(閾値)が杆体より約2〜3log単位(100〜1000倍)低い(感度が低い)ことを示しています。
- ウ: 杆体が色の識別をできない理由は「ロドプシン1種類しかない」ためです。1種類の視物質は光の波長の違いを識別できません(1色=色なし)。夕暮れ時に色が分かりにくくなる(プルキンエ現象)のは照度低下に伴い錐体から杆体への移行が起き、色覚が失われるためです。
- エ: 中心窩(中心窩、fovea centralis)は直径約1.5mmの小さな領域で視力(解像度)が最も高い。ここには杆体がなく錐体のみが高密度に存在します(約200,000個/mm²)。黄斑変性(加齢性黄斑変性・AMD)は中心窩を含む黄斑部が障害される疾患で、中心視力が低下します。
【根拠】医学的事実(確立した生理学・眼科学)。明暗順応の時間特性・杆体/錐体の分布と機能・ロドプシンの光化学反応は視覚生理の基礎概念として確立。
【補足】暗順応=20〜40分(「10分程度」は誤り)。明順応<暗順応(時間)。杆体=周辺・低照度・色覚なし。錐体=中心窩・高照度・色覚あり。暗順応の遅さは職場安全リスク(照明管理・順応時間確保が必要)。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した生理学・眼科学)。明暗順応の所要時間・杆体/錐体の特性は確立した視覚生理の基礎知識。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。