衛生管理者 労働生理 問37:血液
血液凝固および線溶系に関する次の記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア血液凝固の最終段階では、フィブリノゲン(可溶性)がトロンビンの作用でフィブリン(不溶性)に変換され、血小板凝集と組み合わさって血栓が形成される。正答
- イ血液凝固に関与するほとんどの凝固因子はリンパ節で産生されており、ビタミンKは第Ⅸ因子(ヘモフィリアBに関連)の産生に特に重要である。
- ウフィブリン血栓が形成された後、プラスミノゲンはそのまま線溶作用を発揮してフィブリンを分解するため、組織型プラスミノゲン活性化因子(t-PA)は不要である。
- エ抗凝固作用を持つヘパリンは、フィブリンを直接分解することで血液凝固を抑制する。
- オ血友病AはビタミンK依存性凝固因子の欠乏が原因であり、ビタミンK投与によって治療できる。
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正しいのはアです。血液凝固の最終段階は「フィブリノゲン(血漿中の溶けるタンパク質)がトロンビン(酵素)によってフィブリン(溶けない繊維状タンパク質)に変換され」、血小板のかたまりと絡み合って血栓を形成します。「フィブリノゲン→トロンビン→フィブリン」という変換が血液凝固の核心です。
各誤りの要点: イ→凝固因子はリンパ節ではなく肝臓で産生(ビタミンKはⅡ・Ⅶ・Ⅸ・Ⅹ因子に関与)。ウ→プラスミノゲンはそのままでは不活性で、t-PA(組織型プラスミノゲン活性化因子)によってプラスミンに活性化されてからフィブリンを分解する。エ→ヘパリンはフィブリンを直接分解するのではなくアンチトロンビンを活性化してトロンビンを不活化する。オ→血友病Aは第Ⅷ因子(ビタミンK非依存性)の欠乏でビタミンKでは治療できない。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): 血液凝固カスケードの最終共通経路: プロトロンビン→トロンビン(第Ⅱa因子)、トロンビンがフィブリノゲン(第Ⅰ因子・可溶性)をフィブリン(不溶性繊維)に変換します。フィブリンが血小板血栓を強化・固定して安定した血栓が完成します。第ⅩⅢ因子(フィブリン安定化因子)がフィブリン繊維を架橋結合させて血栓を安定化します。
- イ(誤): 凝固因子の大多数は肝臓で産生されます。ビタミンK依存性凝固因子は第Ⅱ(プロトロンビン)・Ⅶ・Ⅸ・Ⅹ因子の4種類です。ビタミンKは肝臓でこれらの因子の活性化(γ-カルボキシグルタミン酸の形成)に必要なコファクターです。
- ウ(誤): プラスミノゲンは不活性な前駆体(チモーゲン)で、組織型プラスミノゲン活性化因子(t-PA) によってプラスミン(活性型)に変換されてからフィブリンを分解します。t-PAは血栓溶解療法(脳梗塞・心筋梗塞の急性期治療)として臨床応用されています。
- エ(誤): ヘパリンはフィブリンを直接分解しません。ヘパリンの作用機序はアンチトロンビン(AT)を強力に活性化し、トロンビン・第Ⅹa因子などを不活化することによって血液凝固を抑制します。フィブリン分解(線溶)ではなく凝固抑制(抗凝固)です。
- オ(誤): 血友病Aは第Ⅷ因子(抗血友病因子)の欠乏が原因のX染色体連鎖性疾患です。第Ⅷ因子はビタミンK非依存性凝固因子であるため、ビタミンK投与では治療できません。治療は第Ⅷ因子製剤の補充です。血友病BはⅨ因子欠乏(ビタミンK依存性)ですが、ビタミンK投与だけでは治療できません(Ⅸ因子製剤が必要)。
【理論的背景】
血液凝固は傷口からの出血を止めるための多段階の「カスケード(滝)反応」です。少量の初期シグナルが次々と増幅され、最終的に大量のフィブリンが形成されます。
血液凝固の二つの経路:
1. 内因系(接触活性化経路): 血液が異物表面(コラーゲン・ガラス等)に接触→第ⅩⅡ(ハーゲマン因子)→Ⅺ→Ⅸ→Ⅹ(最終共通経路へ)
2. 外因系(組織因子経路): 血管外の組織因子(TF)が露出→TF+Ⅶa複合体→Ⅹa(最終共通経路へ)
3. 共通経路: Ⅹa+Ⅴa(プロトロンビナーゼ複合体)→プロトロンビン(Ⅱ)→トロンビン(Ⅱa)→フィブリノゲン→フィブリン
生理的には外因系(組織因子経路)が生体内凝固の主役で、内因系は体外での血液検査(APTT測定)に重要です。
ビタミンK依存性凝固因子(「1972」で覚える):
- Ⅱ(プロトロンビン)・Ⅶ・Ⅸ・Ⅹ
- ワルファリン(抗凝固薬)はビタミンKのエポキシド還元を阻害→これら4因子の活性化阻害→抗凝固作用
線溶系(血栓を溶かす仕組み):
1. 傷が治癒→内皮細胞からt-PA(組織型プラスミノゲン活性化因子)が分泌
2. t-PAがプラスミノゲン→プラスミンに変換
3. プラスミンがフィブリンを分解→フィブリン分解産物(FDP・D-dimer)が放出
4. プラスミンはα₂-アンチプラスミンによって速やかに不活化(過剰な線溶を防ぐ)
【実務・条文構造】
凝固・線溶と職場・産業保健の接点:
ワルファリン服用者(心房細動・人工弁・深部静脈血栓症等)の就業管理:
- 出血リスクが高まるため: 切創・打撲を受けやすい業務(機械操作・重量物取扱等)では就業上の配慮が必要
- PT-INR(凝固能指標)のモニタリング状況を産業医・衛生管理者が把握する
- 納豆・大量の緑黄色野菜(ビタミンKを多く含む食品)がワルファリンの効果を弱めることを職場保健指導で伝える
直接経口抗凝固薬(DOAC: アピキサバン・リバーロキサバン・ダビガトラン等)の普及:
- ワルファリンに替わり普及中
- 食事(ビタミンK)の影響を受けにくい
- 就業上の注意点はワルファリン同様
深部静脈血栓症(DVT)・肺塞栓症の職場リスク:
- 長時間のデスクワーク・長距離フライト・長時間立位作業
- 下肢の筋ポンプ作用低下→静脈うっ滞→血栓形成リスク
- 予防: 定期的な下肢運動・弾性ストッキング・水分補給
- 「エコノミークラス症候群」は乗り物(飛行機・バス)だけでなく職場でも起きる
DIC(播種性血管内凝固):
- 重篤な感染症・外傷・産科合併症で凝固系が全身的に活性化
- 微小血栓が全身の毛細血管に形成→臓器不全
- 同時に凝固因子・血小板を消費→出血傾向
- 労働災害重傷者の二次合併症として重要
【試験での位置づけ】
血液凝固の問題では「フィブリノゲン→トロンビン→フィブリン(血液凝固の最終段階)」「凝固因子は肝臓で産生(リンパ節ではない)」「ビタミンK依存性凝固因子はⅡ・Ⅶ・Ⅸ・Ⅹ(ワルファリンが阻害)」「プラスミノゲンはt-PAでプラスミンに活性化されフィブリンを分解」「ヘパリンはアンチトロンビン活性化でトロンビンを不活化(フィブリン直接分解ではない)」が最頻出です。オの「血友病AはビタミンKで治療できる」は血友病Aが第Ⅷ因子欠乏(ビタミンK非依存性)であることを理解していれば即座に誤りと判断できます。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 第ⅩⅢ因子(フィブリン安定化因子)はトロンビンによって活性化されると、フィブリン繊維間に共有結合(ペプチド結合)を形成し、血栓を機械的に安定化します。第ⅩⅢ因子欠乏は稀な出血性疾患で、創傷の一次止血は正常でも数時間〜数日後に再出血することが特徴です。
- イ: 肝硬変・肝不全では凝固因子の産生が低下し、出血傾向(鼻血・消化管出血・皮下出血)が生じます。PT(プロトロンビン時間)は外因系+共通経路の評価に使われ、肝機能の指標の一つです。肝機能障害の職業性有害物質(四塩化炭素・塩化ビニル・有機溶剤等)に曝露される労働者の健康管理では、肝機能検査とともに凝固能の確認も重要です。
- ウ: t-PAは脳梗塞急性期(発症4.5時間以内)の血栓溶解療法として静脈内投与されます。フィブリン表面に選択的に結合しプラスミノゲンを活性化→血栓を溶解→脳への血流再開。職場での脳梗塞発症時の対応フロー(FAST:Face・Arm・Speech・Time)の中で、「早期搬送→t-PA治療の時間窓」を衛生管理者が認識することが重要です。
- オ: 血友病A(Ⅷ因子欠乏)・血友病B(Ⅸ因子欠乏)はともにX染色体連鎖性劣性遺伝(男性に発症・女性はキャリア)。ただしⅨ因子はビタミンK依存性であり、ビタミンK欠乏でもⅨ因子活性が低下しますが、血友病Bはビタミン欠乏ではなく遺伝子欠損が原因のため、ビタミンK補充では治療できません。ビタミンK投与で改善するのは「ビタミンK欠乏による凝固障害(新生児出血・抗生物質長期使用による腸内細菌減少・胆汁分泌障害による脂溶性ビタミン吸収低下)」です。
【根拠】医学的事実(確立した生理学・血液学)。フィブリノゲン→トロンビン→フィブリンの変換・t-PAによるプラスミン活性化・ヘパリンのアンチトロンビン活性化・凝固因子の肝臓産生・血友病Aの第Ⅷ因子欠乏は確立した知識。
【補足】血液凝固最終段階:フィブリノゲン→(トロンビン)→フィブリン。凝固因子は肝臓産生。ヘパリン=アンチトロンビン活性化(フィブリン直接分解ではない)。血友病A=第Ⅷ因子欠乏(ビタミンK非依存性・ビタミンKでは治療不可)。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した生理学・血液学)。フィブリノゲン→フィブリンへの変換がトロンビンによる最終凝固過程であることは確立した知識。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。