労働生理38血液・体温調節

衛生管理者 労働生理 問38:血液・体温調節

体温調節および熱中症に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。

  • 体温調節中枢は視床下部にあり、体温が設定値(セットポイント)より上昇すると、皮膚血管拡張・発汗などの放熱機構が働く。
  • 発汗は気化熱を利用した放熱機構であり、高温環境や運動時に有効であるが、湿度が高い環境では汗が蒸発しにくくなるため放熱効率が低下する。
  • 熱けいれん(heat cramps)は大量発汗後に低塩分の水分のみを補給することで血中ナトリウム濃度が低下し、筋肉のけいれんが起きる病態で、塩分を含む水分補給が有効である。
  • 熱射病(heat stroke)は体温調節機能が破綻した最重症の熱中症であり、意識障害・体温上昇(40℃以上)・無汗(皮膚が乾燥)の3徴候が典型的で、緊急冷却が必要である。
  • 人体の体温は朝が最も高く、夕方から夜間にかけて低下するという概日リズム(サーカディアンリズム)を示す。正答
正答:人体の体温は朝が最も高く、夕方から夜間にかけて低下するという概日リズム(サーカディアンリズム)を示す。

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初心者向けまずはここから。やさしく要点を解説

誤りはオです。体温の概日リズムは「朝(起床前後)が最も低く、夕方(14〜18時頃)が最も高い」というパターンです。「朝が最も高い」は逆です。なお早朝に分泌が最高となるコルチゾールと混同しないよう注意してください。

その他の選択肢は正しい内容です。体温調節中枢=視床下部・セットポイントで制御(ア・正)。発汗による気化熱放熱・高湿度環境では効率低下(イ・正)。熱けいれんは低ナトリウム血症による筋けいれん・塩分補給が有効(ウ・正)。熱射病は最重症・意識障害・40℃以上・無汗の3徴・緊急冷却が必要(エ・正)。

標準試験対策の基準レベル

各選択肢の正誤と根拠:

  • ア(正): 体温調節中枢(視床下部の前視床・視索前野)はセンサーとして機能し、体温変化を感知してセットポイントと比較します。体温上昇時: 皮膚血管拡張(放熱増加)・発汗(気化熱放熱)・呼吸促進(一部動物では主役)が働きます。体温低下時: 皮膚血管収縮(保温)・立毛(保温効果は小)・ふるえ産熱(骨格筋の不随意収縮で発熱)が働きます。
  • イ(正): 発汗は1g蒸発で約580calの熱を奪う気化熱を利用します。外気温が体温(36〜37℃)より低い場合は皮膚からの輻射・伝導・対流で放熱できますが、高温環境(体温以上の気温)では発汗が唯一の有効な放熱機構となります。相対湿度が高いと大気の水蒸気量が多く、汗の蒸発が妨げられ気化熱による放熱が機能しなくなります。
  • ウ(正): 熱けいれんは高温環境での大量発汗後に低張液(水分のみ・塩分なし)を摂取した場合に生じます。汗は塩分(主にNaCl)を含む低張液ですが、大量の汗+水のみ補給→希釈性低ナトリウム血症→筋肉の電解質バランス異常→有痛性筋けいれん(ふくらはぎ・腹部等)が起きます。経口補水液・スポーツドリンク(0.1〜0.2%食塩水)での補給が有効です。
  • エ(正): 熱射病(古典的熱射病とexertional heat stroke)は体温調節の破綻で、直腸温40℃以上・中枢神経症状(意識障害・昏睡)・多臓器不全に至る緊急事態です。DIC(播種性血管内凝固)・横紋筋融解症(rhabdomyolysis)・急性腎障害を合併します。治療は体表冷却(冷水浴・氷嚢)・輸液の緊急実施です。
  • オ(誤): 体温の概日リズムは「早朝4〜6時頃が最も低く(約36.0〜36.2℃)、夕方14〜18時頃が最も高い(約37.0〜37.2℃)」というパターンです。「朝が最も高い」は誤りで、コルチゾールの概日リズム(朝高・夜低)と混同しないことが重要です。
上級誤答論破・根拠法令まで深掘り

【理論的背景】

体温調節は生体の恒常性(ホメオスタシス)維持の中心的な機能で、視床下部-体温調節機構の精密な制御によって約37℃(腋窩温)の範囲内に維持されます。

体温の産熱と放熱のバランス:

産熱源: 基礎代謝(安静時の化学反応)・筋肉運動(安静時の20〜25%→激運動時は最大10倍以上)・消化・食事誘発性体熱産生(DIT)・ふるえ(寒冷時)・非ふるえ産熱(褐色脂肪組織:新生児・冬眠動物で重要)

放熱機構とその割合(安静・常温環境の概算):

  • 輻射(赤外線放熱): 約60%
  • 蒸発(発汗+不感蒸泄): 約22%
  • 対流: 約12%
  • 伝導: 約3%
  • その他: 約3%

※高温環境や運動時は蒸発(発汗)の割合が飛躍的に増加(最大100%近く)

体温の概日リズムの生物学的意義:

  • 概日リズムは視交叉上核(SCN)の時計遺伝子(CLOCK・BMAL1・PER・CRY等)によって制御
  • 体温最低点(早朝)は睡眠の最深期に相当し、代謝が最も低い
  • 体温上昇(午後)は覚醒・活動の最適化と関連
  • 夜勤・交替勤務者では体温リズムが乱れ→睡眠障害・認知機能低下・慢性疲労の一因

熱中症の分類と病態(日本救急医学会分類):

| 分類 | 症状 | 意識 | 体温 | 処置 |

|---|---|---|---|---|

| Ⅰ度(軽症:熱けいれん・熱失神) | 筋けいれん・めまい・立ちくらみ | 正常 | 正常〜軽度上昇 | 涼しい場所・水分塩分補給 |

| Ⅱ度(中等症:熱疲労) | 頭痛・嘔気・全身倦怠感・冷感・顔面蒼白 | 正常 | 上昇 | 医療機関・輸液 |

| Ⅲ度(重症:熱射病) | 意識障害・40℃超・多臓器不全 | 障害 | 40℃超 | 緊急搬送・冷却 |

【実務・条文構造】

高温作業と熱中症予防の産業衛生管理:

WBGT(湿球黒球温度)と熱中症リスク評価(詳しくはeisei科目区分と関連):

  • 熱中症予防の指標としてWBGTが広く使用
  • WBGT基準値(屋内:軽作業=30℃・中等度作業=28℃・重作業=25℃)
  • WBGTは湿球・黒球・乾球温度の重み付け平均: 屋内=0.7×湿球+0.3×黒球

職場の熱中症予防の4本柱:

1. 作業環境管理: WBGT測定・冷却設備・休憩場所確保

2. 作業管理: 高温時間帯を避けた作業スケジュール・休憩回数・順化(acclimatization:高温環境への2週間程度の段階的曝露で発汗能力を高める)

3. 健康管理: 睡眠・体調確認・糖尿病・心疾患等ハイリスク者への配慮・アルコール前日摂取抑制

4. 労働者の教育: 熱中症の症状・水分塩分補給の方法・異常時の報告・AED等緊急対応

脱水と発汗の関係:

  • 体重の2%の脱水(70kgの人で1.4L喪失)でパフォーマンス低下・集中力低下
  • 4〜5%の脱水で頭痛・倦怠感・熱中症リスクが著しく上昇
  • 「のどが渇いてから飲む」では遅い→定期的な摂取(20〜30分ごとに100〜200mL)

【試験での位置づけ】

体温調節・熱中症の問題では「体温調節中枢=視床下部」「発汗は気化熱を利用(高湿度では効率低下)」「熱けいれん=低ナトリウム血症・塩分補給」「熱射病=最重症・意識障害・40℃超・無汗・緊急冷却」「体温の概日リズム=早朝最低・夕方最高(朝最高は誤り)」が最頻出です。オの誤りは「朝最高」という概日リズムの方向を逆にした引っかけで、コルチゾールの概日リズム(朝高・夜低)と体温の概日リズム(朝低・夕高)の区別が問われています。

【各選択肢の発展補足】

  • ア: セットポイント(体温の目標値)が上昇するのが「発熱(fever)」で、感染・炎症で産生されるプロスタグランジンE₂(PGE₂)が視床下部のセットポイントを上昇させます。これに対して体温は新しいセットポイントに追いつくよう上昇します(ふるえ・血管収縮)。NSAIDs(アスピリン・イブプロフェン等)はPG合成を阻害してセットポイントを下げ、解熱します。熱中症はセットポイントの上昇ではなく「産熱と放熱のバランス破綻による体温上昇」であり、PGE₂は関与しないため解熱剤は無効です。
  • イ: 不感蒸泄(insensible perspiration)は汗腺からではなく皮膚・気道粘膜から絶えず水分が蒸発する現象で、約1日900〜1,000mLです。発熱で体温が1℃上がるごとに不感蒸泄が約15%増加します(発熱患者の水分補給量増量の根拠)。体温計測では腋窩温の測定時に「脇を乾かす」必要があるのは、発汗・不感蒸泄による気化熱が体温計の値を下げるためです。
  • ウ: 熱失神(heat syncope)はⅠ度熱中症の一形態で、高温環境での皮膚血管拡張と脱水による静脈還流量低下→脳血流低下→一過性の意識消失(失神)です。熱けいれんとは原因が異なります。作業中の熱失神→転倒・転落リスクがあるため、作業開始前の体調確認と高所作業・機械操作中は特に注意が必要です。
  • エ: 「横紋筋融解症(rhabdomyolysis)」は筋肉の細胞が壊死して筋タンパク(ミオグロビン)が血中に放出される状態で、熱射病・過度の運動・打撲等で生じます。ミオグロビンは腎尿細管に沈着→急性腎障害(ミオグロビン尿:コーラ色の尿が特徴)を引き起こします。重篤な熱中症(Ⅲ度)ではDIC・横紋筋融解症・急性肝障害を同時に来たす多臓器不全に至ります。

【根拠】医学的事実(確立した生理学・時間生物学)。体温の概日リズム(早朝最低・夕方最高)・発汗の気化熱原理・熱中症の病態分類・体温調節中枢(視床下部)は確立した知識。

【補足】体温の概日リズム=早朝が最低・夕方が最高(「朝が最高」は誤り)。コルチゾール(朝高・夜低)と逆。発汗は気化熱放熱・高湿度では効率低下。熱けいれん=低Na血症・塩分補給有効。熱射病=意識障害・40℃超・無汗・緊急冷却。

出典・根拠について

本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した生理学・時間生物学)。体温の概日リズムは朝低・夕高が正常パターンであり、「朝が最も高い」は誤り。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。

関連論点

体温調節・発汗と熱中症の病態頻出度A

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科目別に解いて、衛生管理者に合格

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