労働生理41神経・筋

衛生管理者 労働生理 問41:神経・筋

大脳の機能および記憶に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。

  • 大脳皮質の運動野(中心前回)は随意運動を支配し、感覚野(中心後回)は皮膚・筋・関節からの感覚情報を受容する。両者は中心溝(ローランド溝)を境として隣接している。
  • ブローカ野(前頭葉の下前頭回付近)は運動性言語中枢(話す機能)を担い、ウェルニッケ野(側頭葉の上側頭回後部)は感覚性言語中枢(言語の理解)を担う。多くの人でこれらは左半球に優位に存在する。
  • 陳述記憶(意識的に想起できる記憶:エピソード記憶・意味記憶)の形成には海馬が必要であり、手続き記憶(運動スキル・習慣:自転車の乗り方等)は海馬ではなく小脳・基底核が重要な役割を担う。
  • 前頭葉の前頭前野は、計画・判断・抑制・ワーキングメモリなどの「実行機能」を担い、加齢やアルツハイマー病では早期から障害されやすい。
  • 大脳辺縁系(扁桃体・海馬・帯状皮質等)は知的作業・論理的思考・言語処理を主に担い、感情・記憶は大脳新皮質(前頭葉・頭頂葉・後頭葉・側頭葉)のみで処理される。正答
正答:大脳辺縁系(扁桃体・海馬・帯状皮質等)は知的作業・論理的思考・言語処理を主に担い、感情・記憶は大脳新皮質(前頭葉・頭頂葉・後頭葉・側頭葉)のみで処理される。

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誤りはオです。「大脳辺縁系が論理的思考・言語処理を担い、感情・記憶は大脳新皮質のみ」という部分が完全に逆です。正しくは「大脳辺縁系(扁桃体・海馬など)が感情・記憶に中心的役割を担い、大脳新皮質(前頭葉・側頭葉など)が知的作業・論理・言語処理を担います」。

その他の選択肢は正しい内容です。運動野(中心前回)と感覚野(中心後回)の位置関係(ア・正)。ブローカ野(運動性言語)・ウェルニッケ野(感覚性言語)の機能と左半球優位(イ・正)。陳述記憶に海馬が必要・手続き記憶は小脳・基底核(ウ・正)。前頭前野の実行機能(エ・正)はいずれも正確です。

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各選択肢の正誤と根拠:

  • ア(正): 大脳皮質の機能局在は「ブロードマンマップ」で領野別に整理されます。中心前回(第4野・一次運動野)は体の各部位に対応したホムンクルス(矮人地図)を形成し、口・手の領域が広い(精緻な運動)。中心後回(第1・2・3野・一次体性感覚野)は感覚情報を受容します。両者は中心溝(ローランド溝)を挟んで隣接しています。
  • イ(正): 失語症の臨床からの発見です。ブローカ野損傷(運動性失語): 言葉の理解はできるが流暢に話せない。ウェルニッケ野損傷(感覚性失語): 流暢に話すが言葉の理解が困難(内容が意味不明の言葉になる・ジャルゴン失語)。左半球優位(手利き・言語処理)は人口の97%程度に当てはまります(左利きの人でも60〜70%は左半球言語優位)。
  • ウ(正): 有名な患者HM(海馬両側切除後に重篤な前向性健忘を呈した症例)の研究から、海馬が陳述記憶(新しい記憶の形成)に必須であることが証明されました。しかしHMは自転車の乗り方などの手続き記憶は学習できた→手続き記憶は海馬非依存的で小脳・基底核・線条体が関与します。
  • エ(正): 前頭前野(PFC: prefrontal cortex)は「脳の司令塔」と呼ばれ、ワーキングメモリ(作業記憶)・計画・意思決定・衝動制御・社会的行動の調節を担います。アルツハイマー病では側頭・頭頂葉から始まる萎縮が前頭前野に及ぶと認知症の中核症状が顕著になります。前頭側頭型認知症(FTD)では前頭前野が早期から障害されます。
  • オ(誤): 大脳辺縁系(扁桃体・海馬・帯状回・乳頭体・嗅皮質等)は、感情(扁桃体:特に恐怖・怒り)・記憶の形成(海馬)・動機付け・嗅覚処理を中心的に担います。大脳新皮質(最も新しく進化した部分)が論理・言語・高次認知を担います。選択肢オはこれを完全に逆にした誤りです。
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【理論的背景】

大脳は進化的に「古い脳(辺縁系・脳幹)」と「新しい脳(新皮質)」に分けて理解できます(マクリーンの「三位一体脳」モデルは過度に単純化されているが教育的に有用)。

大脳の主要な機能局在の整理:

| 部位 | 主な機能 |

|---|---|

| 前頭葉(前頭前野) | 実行機能・ワーキングメモリ・計画・判断・社会的行動 |

| 前頭葉(運動野・中心前回) | 随意運動の生成・制御 |

| 側頭葉 | 聴覚情報処理・言語理解(ウェルニッケ野)・顔認識・陳述記憶(側頭葉内側=海馬) |

| 頭頂葉(感覚野・中心後回) | 体性感覚・空間認識・数の処理 |

| 後頭葉 | 視覚情報処理(一次視覚野+視覚連合野) |

| 大脳辺縁系 | 感情(扁桃体)・記憶形成(海馬)・動機付け・嗅覚 |

記憶の種類と関与する脳構造:

1. 陳述記憶(宣言的記憶): 意識的に想起できる

- エピソード記憶(いつ・どこで・何をした): 海馬→前頭葉

- 意味記憶(概念的知識: 東京都の首都は東京etc): 海馬→側頭葉新皮質

2. 非陳述記憶(非宣言的記憶): 意識せずに使える

- 手続き記憶(スキル・習慣): 小脳・基底核(線条体)

- プライミング(先行刺激の効果): 新皮質

- 古典的条件付け: 扁桃体・小脳

3. ワーキングメモリ(作業記憶): 前頭前野・海馬

扁桃体と感情・記憶の関連:

  • 扁桃体はあらゆる感覚情報と感情価(怖い・嬉しい等)を結びつける
  • 強い感情を伴う体験は扁桃体を介して記憶に強く定着する(閃光記憶・PTSD)
  • PTSDではトラウマ体験の記憶が過剰に活性化→扁桃体過反応→フラッシュバック・過覚醒

【実務・条文構造】

神経・認知機能と職業健康の実際:

認知機能と作業安全:

  • 前頭前野機能(ワーキングメモリ・注意・判断)の低下は作業ミス・事故リスクを高める
  • 睡眠不足→前頭前野機能低下→注意力散漫→産業事故リスク上昇(17〜18時間の睡眠不足で血中アルコール濃度0.05%相当の認知機能低下)
  • 高齢労働者(60代〜)の前頭前野機能変化を考慮した業務配置

有害物質による神経毒性と機能局在の理解:

  • n-ヘキサン(有機溶剤): 末梢神経障害(軸索変性)→四肢の筋力低下・感覚障害
  • 鉛: 中枢・末梢神経毒性→小児では知的障害(大脳新皮質発達への影響)・成人では認知機能低下
  • 二硫化炭素(CS₂): 脳・末梢神経毒性→精神症状・パーキンソン症候群(基底核障害)
  • 有機水銀(メチル水銀:水俣病): 大脳皮質(感覚野・運動野・視覚野)・小脳の選択的障害→感覚障害・運動失調・視野狭窄(ハンター・ラッセル症候群)

認知症予防と職場の健康促進:

  • 認知的に刺激される仕事(思考・判断・新しい学習)は認知症予防と関連するとされる(認知予備力)
  • 逆に過度の反復単純作業・社会的孤立はリスク因子
  • 衛生管理者として、高齢労働者のMCI(軽度認知障害)の早期発見と適切な就業調整が課題

【試験での位置づけ】

大脳機能の問題では「運動野(中心前回)・感覚野(中心後回)の位置と機能」「ブローカ野(運動性言語・話す)・ウェルニッケ野(感覚性言語・理解する)」「陳述記憶=海馬・手続き記憶=小脳・基底核」「前頭前野=実行機能」「大脳辺縁系=感情・記憶(新皮質=知的作業・言語)」が最頻出です。オのような「大脳辺縁系と新皮質の機能を逆にする」引っかけは、大脳の機能局在の基本的な理解を問う典型的な出題です。

【各選択肢の発展補足】

  • ア: 大脳皮質のホムンクルス(penfield homunculus)は各身体部位の感覚・運動の大脳皮質代表領域を人形の形で示したものです。口・舌・手・指の領域が不釣り合いに大きく(精密な運動・感覚が必要な部位)、体幹や大腿の領域は小さい。職業に由来する訓練で特定部位のホムンクルスが変化する(脳の可塑性)ことが知られています(音楽家の指の領域の拡大等)。
  • イ: ブローカ失語の臨床的な特徴: 理解は良好だが話すことが困難(非流暢性失語)→「うん」「いや」などは言えるが文章は組み立てられない。職場での会議・報告に著しく支障をきたします。脳梗塞後の左前頭葉病変(MCA領域:中大脳動脈)で起きることが多く、リハビリ(言語療法)で改善が見込まれます。
  • ウ: HM患者(ヘンリー・モレゾン)は1953年にてんかん治療のため両側海馬の切除を受け、以後新しい出来事を記憶できなくなりました(前向性健忘)。しかし手術前の記憶は保持(逆行性健忘は軽度)し、手続き記憶(鏡を見ながらの描写など)は正常に学習できました。この観察から「陳述記憶と手続き記憶は解剖学的に分離した神経基盤」という理論が確立しました。
  • エ: ワーキングメモリ(作業記憶)は「短時間の情報を保持しつつ、処理を行う能力」で、計算・読解・会話の理解に不可欠です。加齢(40代〜)で徐々に低下が始まります。有機溶剤(トルエン・キシレン等)への長期曝露は前頭前野機能(ワーキングメモリ・実行機能)を選択的に障害することが神経心理学的研究で示されており、職業性神経毒性の評価に前頭前野機能検査が使用されます。

【根拠】医学的事実(確立した神経科学・神経解剖学)。大脳辺縁系が感情・記憶を担い大脳新皮質が知的作業・言語を担うこと・ブローカ野/ウェルニッケ野の機能・陳述記憶と手続き記憶の神経基盤の差異は確立した知識。

【補足】大脳辺縁系=感情(扁桃体)・記憶形成(海馬)が主な機能(論理・言語処理ではない)。大脳新皮質=知的作業・言語・論理。ブローカ野=運動性言語(話す)。ウェルニッケ野=感覚性言語(理解)。陳述記憶=海馬。手続き記憶=小脳・基底核。

出典・根拠について

本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した神経科学・神経解剖学)。大脳辺縁系が感情・記憶に中心的役割を果たし、新皮質が知的作業を担うという機能分担は確立した知識。選択肢オは大脳辺縁系と新皮質の機能を逆に記述している。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。

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