労働生理50消化・代謝

衛生管理者 労働生理 問50:消化・代謝

エネルギー代謝および作業強度に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。

  • 基礎代謝量(BMR)は、覚醒状態・安静臥位・空腹時(食後12時間以上)に測定される最小のエネルギー消費量であり、体表面積・年齢・性別・甲状腺ホルモン等に影響される。
  • METs(代謝等価値)は、ある活動のエネルギー消費量を安静時(座位)のエネルギー消費量で割った値であり、安静座位は1MET・普通歩行(3〜4km/h)は約3METs・ランニングは8〜10METs以上である。
  • 作業代謝率(RMR)は、(作業時代謝量 - 安静時代謝量) ÷ 基礎代謝量 で計算され、労働の強度を表す指数として日本産業衛生学会の勧告でも用いられる。
  • 高強度の有酸素運動中は、主に解糖系(嫌気性代謝)によってエネルギーが産生され、酸化的リン酸化(ミトコンドリアによる有酸素代謝)はほとんど機能しない。正答
  • 食事誘発性熱産生(DIT: Diet-Induced Thermogenesis)は、食後に食物の消化・吸収・代謝のために追加的にエネルギーが消費される現象であり、タンパク質でのDITが三大栄養素の中で最も高い。
正答:高強度の有酸素運動中は、主に解糖系(嫌気性代謝)によってエネルギーが産生され、酸化的リン酸化(ミトコンドリアによる有酸素代謝)はほとんど機能しない。

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誤りはエです。「高強度の有酸素運動中は主に解糖系(嫌気性代謝)でエネルギーを産生し、有酸素代謝はほとんど機能しない」という部分が誤りです。有酸素運動(aerobic exercise)という名称の通り、酸化的リン酸化(有酸素代謝)が主要なエネルギー源です。無酸素的な解糖系が主体になるのは最大強度の短時間運動(100m走・短距離スプリント等)です。長時間の有酸素運動(マラソン・サイクリング等)では有酸素代謝が圧倒的に優位です。

その他の選択肢は正しい内容です。基礎代謝量の定義と影響因子(ア・正)。METs(代謝等価値)の概念と具体的な数値(イ・正)。作業代謝率(RMR)の計算式(ウ・正)。食事誘発性熱産生とタンパク質(オ・正)はいずれも正確です。

標準試験対策の基準レベル

各選択肢の正誤と根拠:

  • ア(正): 基礎代謝量(BMR: Basal Metabolic Rate)の影響因子: ①体表面積(主要因: 大きいほど高い)②年齢(加齢で低下: 20代>40代>60代)③性別(男性>女性: 筋肉量差)④甲状腺ホルモン(促進)⑤体温(1℃上昇で約13%増加)⑥栄養状態(飢餓で低下)。日本人成人の基礎代謝基準値: 成人男性20〜29歳で23.7kcal/kg/日、成人女性20〜29歳で22.1kcal/kg/日。
  • イ(正): METs(Metabolic Equivalents of Task)は活動の絶対的な強度指標です。1MET=安静時のO₂消費量(3.5mL/kg/分)。参考値: 読書・デスクワーク≈1.3METs・ゆっくり歩行≈2METs・普通歩行(3.5km/h)≈3.5METs・自転車通勤≈4METs・ジョギング(8km/h)≈8METs。運動処方(心肺リハビリ等)でもMETsが使用されます。
  • ウ(正): 作業代謝率(RMR: Relative Metabolic Rate)= (作業時代謝量 - 安静時代謝量) ÷ 基礎代謝量。RMR0〜1が軽い作業(立位業務等)、2〜4が中等度、5以上が重労働に相当する(日本産業衛生学会の分類)。RMRが高いほど体への負担が大きく、休憩の頻度・時間の設計に活用されます。
  • エ(誤): 有酸素運動の定義は「主に有酸素代謝(酸化的リン酸化)によってエネルギーを供給する運動」です。ランニング・サイクリング・水泳等の有酸素運動では、ミトコンドリアでの脂肪酸β酸化+グルコースのTCAサイクルが主なエネルギー源(1分子グルコース→36〜38 ATP)です。解糖系(1分子グルコース→2 ATP+乳酸)が主体になるのは最大強度の短時間無酸素的運動(100〜400m走・重量挙げ等)です。
  • オ(正): 食事誘発性熱産生(DIT)の三大栄養素別比較: タンパク質のDITが最大(摂取エネルギーの約25〜30%)。糖質は約6〜8%、脂肪は約2〜4%。タンパク質のDITが高い理由: アミノ酸から生体内で合成や利用するための化学反応(脱アミノ・糖新生等)のエネルギーコストが大きいため。タンパク質を多く含む食事は「体を温める」感覚があるのはこのDITが高いためです。
上級誤答論破・根拠法令まで深掘り

【理論的背景】

エネルギー代謝は「ATP産生と消費のバランス」です。体はATPを直接大量に貯蔵できないため、活動強度に応じた速度でATPを産生し続ける必要があります。

エネルギー産生システムの概要(運動強度と対応する主要システム):

| 強度 | 時間 | 主なエネルギー系 | エネルギー源 | 例 |

|---|---|---|---|---|

| 最大(100%) | 〜10秒 | PCr系(リン酸クレアチン系) | クレアチンリン酸 | 100m走 |

| 高強度(85%〜) | 10秒〜2分 | 解糖系(嫌気性) | グリコーゲン→乳酸 | 400m〜800m走 |

| 中〜高強度(60〜80%) | 2〜60分 | 有酸素系(解糖+TCA+酸化的リン酸化) | グリコーゲン | 5〜10km走 |

| 低〜中強度(〜60%) | 60分以上 | 有酸素系(主に脂肪酸β酸化) | 脂肪酸 | マラソン・ウォーキング |

有酸素代謝(酸化的リン酸化)の詳細:

1. 解糖: グルコース(C6)→ピルビン酸(C3)×2 + 2ATP(細胞質)

2. ピルビン酸→アセチルCoA(ミトコンドリアマトリックス・CO₂放出)

3. TCA(クエン酸)回路: アセチルCoA→CO₂・NADH・FADH₂産生

4. 電子伝達系(ミトコンドリア内膜): NADH・FADH₂の電子がO₂に移動→H₂Oと34ATP産生

5. 総合: 1分子グルコース→36〜38 ATP・6CO₂・6H₂O

脂肪酸β酸化:

  • 脂肪酸(例: パルミチン酸C16)→アセチルCoA×8→TCAサイクル経由→約129 ATP
  • 脂肪は単位重量当たりのエネルギー(9kcal/g)が糖・タンパク質(4kcal/g)より多い

【実務・条文構造】

エネルギー代謝と職場の衛生管理:

重労働者の栄養管理(産業栄養学):

  • 高強度肉体作業者(建設・農業・重工業): エネルギー消費量が高い(4,000〜6,000kcal/日)→十分な糖質(グリコーゲン補充)と タンパク質(筋肉修復)の摂取が重要
  • 長時間の軽〜中等度作業(オフィス・精密作業): エネルギー消費量は低め(2,000〜2,500kcal/日)→過食→肥満→メタボリックシンドロームのリスク

RMR(作業代謝率)を使った職場改善:

  • 重作業(RMR>4)の連続作業時間を制限し、休憩を設ける
  • エレベーター・機械化・コンベア導入でRMRを下げる(労働の合理化)
  • 重作業後の適切な休憩時間の計算にRMRを使用

労働基準法の労働時間と疲労の関係:

  • 8時間労働の上限は疲労蓄積と生産性のバランスから設定
  • 休憩(6時間超で45分・8時間超で60分)はエネルギー補充・体温調節・筋肉疲労回復のための生理的必要性がある

特定健康診査(メタボ健診)とエネルギー代謝の関連:

  • 内臓脂肪型肥満(腹囲男性85cm以上・女性90cm以上)はエネルギー過剰蓄積の結果
  • 運動指導: METsを使った活動量目標の設定(例: 週23METs時間=週150分の中強度運動の目安)
  • 歩数計・活動量計を使った行動変容支援

【試験での位置づけ】

エネルギー代謝の問題では「基礎代謝量(BMR)=覚醒・安静・空腹時の最小消費量(体表面積・年齢・甲状腺ホルモンに影響)」「METs=安静座位を1とする相対的強度(普通歩行≈3〜4METs)」「RMR(作業代謝率)の計算式」「有酸素運動=有酸素代謝(ミトコンドリア)が主体(解糖系が主体になるのは無酸素的最大強度運動)」「タンパク質のDITが最も高い」が頻出です。エの誤りは「有酸素運動でも嫌気性代謝が主体」という「有酸素」の定義そのものを否定する典型的な引っかけです。

【各選択肢の発展補足】

  • ア: 甲状腺ホルモンが基礎代謝を亢進させるメカニズム: T₃がミトコンドリアの酸素消費量と熱産生を直接増加させます(脱共役タンパク質UCPの調節)。甲状腺機能亢進症(バセドウ病)では基礎代謝が60〜80%以上増加し、大量の熱産生→発汗・体重減少が起きます。甲状腺機能低下では逆に基礎代謝が低下し、体重増加・寒がりが生じます。
  • イ: METs は健康増進・運動処方・労働評価で幅広く使用されます。「健康づくりのための身体活動基準2013(厚生労働省)」では、18〜64歳に対して「3METs以上の身体活動を毎日60分以上(23METs時間/週)」「3METs以上の運動(活発な身体活動)を毎週60分以上(4METs時間/週)」を推奨しています。
  • ウ: RMRの実測値と産業衛生学的分類: 日本産業衛生学会の「産業疲労研究会の疲労蓄積指数」でも、作業強度(RMR)と作業時間の組み合わせで疲労蓄積を評価します。重作業(RMR>4)は連続作業の上限が短く、軽作業(RMR<2)は比較的長時間の継続が可能という指針があります。
  • オ: タンパク質のDIT(25〜30%)は実感としても理解できます。タンパク質豊富な食事後は「体がポカポカする・食後に温かくなる感覚」があります(食後高体温感)。ダイエット中に「タンパク質を多く摂れ」というのはDITが高い→同じカロリーでも実際に体に入るエネルギーが少ない、という代謝的根拠があります。

【根拠】医学的事実(確立した生理学・スポーツ科学)。有酸素運動が主に有酸素代謝(酸化的リン酸化)でエネルギーを供給すること・基礎代謝量の定義と影響因子・METs・RMR・DIT(タンパク質で最大)は確立した知識。

【補足】有酸素運動(aerobic exercise)は有酸素代謝(ミトコンドリアの酸化的リン酸化)が主体。解糖系(嫌気性)が主体になるのは最大強度の短時間無酸素的運動(スプリント等)。「高強度有酸素運動でも嫌気性が主体」は誤り。

出典・根拠について

本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した生理学・スポーツ科学)。高強度の有酸素運動でも酸化的リン酸化(有酸素代謝)が主なエネルギー源として機能する。解糖系(嫌気性)が主体になるのは最大強度の無酸素的な短時間運動(スプリント等)である。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。

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