衛生管理者 労働生理 問69:腎臓・泌尿
糸球体ろ過と腎機能の評価指標に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア糸球体ろ過率(GFR)は単位時間に糸球体から原尿がろ過される速度を示し、成人では約100〜120mL/分(約150L/日)が正常値とされる。
- イクレアチニンは骨格筋で産生されるクレアチンの代謝産物で、腎臓でほぼ100%糸球体からろ過され(尿細管での再吸収がほとんどなく、わずかに分泌される)、産生速度がほぼ一定のため腎機能(GFR)の指標として用いられる。
- ウ血清クレアチニン値は筋肉量に影響されるため、筋肉量の少ない高齢者や女性では、血清クレアチニン値が正常範囲内であってもGFRが実際には低下していることがあり、推算GFR(eGFR)の計算が有用である。
- エ尿素窒素(BUN)は肝臓でのタンパク質代謝(アミノ酸の脱アミノ反応)の結果として産生され、腎臓で全量がろ過され尿細管で再吸収されることなく尿中に排泄される。正答
- オ正常な糸球体ろ過膜はアルブミン(分子量約66,000 Da)のような大きなタンパク質を通過させないが、ネフローゼ症候群では糸球体基底膜の障害によりアルブミンを大量に尿中に喪失し(大量タンパク尿)、低アルブミン血症・浮腫・高脂血症を呈する。
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誤りはエです。尿素窒素(BUN: Blood Urea Nitrogen)は「尿細管で再吸収されることなく全量排泄される」という部分が誤りです。尿素は糸球体でろ過された後、尿細管(特に集合管)で約40〜50%が再吸収されます。これは尿素が水と一緒に受動的に再吸収されるためです(尿細管内濃度が高くなると一部が再吸収されます)。クレアチニンは再吸収がほとんどない(わずかに分泌される)点が尿素との重要な違いです。
その他の選択肢は正しい内容です。GFRの正常値約100〜120mL/分(ア)。クレアチニンの性質とGFR指標としての利用(イ)。eGFRの有用性と筋肉量の影響(ウ)。ネフローゼ症候群の病態(オ)はすべて正確です。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): GFR(糸球体ろ過率)は腎機能の最も重要な指標です。正常値は成人約100〜120mL/分(144〜173L/日)ですが、産生された原尿(約150L/日)のほとんど(99%以上)が尿細管で再吸収され、最終的な尿量は1〜2L/日にとどまります。GFRは加齢とともに低下(40歳以降で年間約1mL/分ずつ低下する目安)し、慢性腎臓病(CKD)の病期分類(G1〜G5)はGFRで決まります。
- イ(正): クレアチニンはクレアチン(筋肉のエネルギー代謝に関与)の非酵素的分解産物で、骨格筋量に比例して一定量が産生されます。糸球体でろ過→尿細管でほとんど再吸収されない(わずかに尿細管から分泌)→ほぼGFRに比例して排泄される性質が、GFR推算の指標として有用な理由です。ただし筋肉量の個人差が血清クレアチニン値に影響します。
- ウ(正): eGFR(推算糸球体ろ過率)は日本人向けの計算式(eGFR(mL/分/1.73m²) = 194 × Cr⁻¹·⁰⁹⁴ × Age⁻⁰·²⁸⁷ × 0.739(女性)で算出)。筋肉量の少ない高齢者・女性では、血清クレアチニンが「正常範囲内」であっても実際のGFRが低下している場合があるため、eGFRが有用です。
- エ(誤): 尿素(BUN: 血中尿素窒素の指標)は糸球体でろ過された後、集合管を中心に約40〜50%が再吸収されます(水と尿素が受動的に再吸収される)。このため脱水時には尿流量が減少→集合管での水・尿素の再吸収が増加→BUNが上昇します(prerenal azotemia: 腎前性アゾーテミア)。「全量排泄される」は完全な誤りです。
- オ(正): ネフローゼ症候群の定義: 大量タンパク尿(3.5g/日以上)・低アルブミン血症(3.0g/dL以下)・浮腫(低アルブミン→膠質浸透圧低下)・高脂血症(肝臓でのリポタンパク合成増加)の4主徴です。原因: 微小変化型ネフローゼ症候群(小児に多い・糸球体基底膜の陰性電荷喪失)・巣状分節性糸球体硬化症・膜性腎症等があります。
#### 1. GFRの測定と推算の詳細
真のGFRの測定(イヌリンクリアランス):
- イヌリン: 植物由来の多糖・体内で産生されず・糸球体で自由にろ過・尿細管で再吸収も分泌もされない「理想的な指標物質」
- GFR = (U_イヌリン × V) / P_イヌリン(U=尿中濃度・V=尿量・P=血漿濃度)
- 煩雑なため日常臨床ではeGFRが使用される
クレアチニンクリアランス(Ccr):
- Ccr = (U_Cr × V) / P_Cr(24時間蓄尿が必要)
- クレアチニンはわずかに尿細管から分泌されるためGFRをわずかに過大評価する
eGFR(日本腎臓学会式):
- eGFR = 194 × Cr⁻¹·⁰⁹⁴ × Age⁻⁰·²⁸⁷ × 0.739(女性)
- 外来・職場健診でも採血1回で算出可能(侵襲性なし)
- GFR 60mL/分/1.73m²未満が3ヶ月以上→CKD(慢性腎臓病)と診断
#### 2. 腎機能評価指標の比較とBUNの特性
| 指標 | 主要産生部位 | 腎における処理 | 日常的変動要因 |
|------|-----------|-------------|-------------|
| クレアチニン(Cr) | 骨格筋(クレアチン→Cr) | GFにより全量ろ過・尿細管での再吸収ほぼなし・わずかに分泌 | 筋肉量・激しい運動後 |
| 尿素窒素(BUN) | 肝臓(アミノ酸→尿素回路) | GFにより全量ろ過・集合管で40〜50%再吸収 | タンパク摂取量・脱水・消化管出血・発熱 |
| シスタチンC | 有核細胞全体(一定産生) | GFにより全量ろ過・尿細管で完全再吸収・排泄なし→尿細管で代謝 | 甲状腺機能・炎症・ステロイド使用 |
BUN/Cr比(正常: 約10〜20)の臨床的意義:
- BUN/Cr比 >20: 腎前性アゾーテミア(脱水・心不全・消化管出血)→尿素の再吸収増加・Crは変化少
- BUN/Cr比 <10: 肝不全(尿素合成低下)・低タンパク摂取・筋肉量増加(Cr産生増加)
- 職場での脱水管理(暑熱環境・発汗)の評価指標として有用
#### 3. 慢性腎臓病(CKD)の病期分類と職場管理
CKD病期分類(GFRとアルブミン尿で層別化):
- G1(GFR ≧90): 腎機能正常でもアルブミン尿あれば CKD
- G2(GFR 60〜89): 軽度低下
- G3a(GFR 45〜59): 軽度〜中等度低下
- G3b(GFR 30〜44): 中等度〜高度低下
- G4(GFR 15〜29): 高度低下
- G5(GFR <15): 腎不全(透析の準備開始)
職場でのCKD管理(衛生管理者の実務):
- 年次健康診断での腎機能評価(eGFR・尿タンパク)を活用
- 軽〜中等度のCKD(G3以上)は透析前の保存期管理(高血圧・糖尿病コントロール・タンパク制限)が重要
- 腎毒性物質(鉛・水銀・カドミウム・有機溶剤等)暴露職場では特定業務健診での腎機能検査が必須
- カドミウム暴露: 近位尿細管障害→β₂-ミクログロブリン尿・尿中カドミウム増加→イタイイタイ病類似病態
#### 4. 衛生管理者試験での頻出論点と職場への応用
試験では「GFR正常値=約100〜120mL/分(1日約150L・99%再吸収)」「クレアチニン=骨格筋産生・GFにより全量ろ過・再吸収ほぼなし→GFR指標」「筋肉量少ない高齢者・女性では血清Crが正常でもeGFR低下の可能性→eGFRが有用」「尿素は40〜50%が尿細管で再吸収される(全量排泄ではない)」「ネフローゼ症候群=大量タンパク尿+低アルブミン+浮腫+高脂血症」が頻出です。エの誤りは「尿素が全量排泄される(再吸収がない)」という尿細管機能の誤認です。
【根拠】医学的事実(確立した腎臓生理学)。GFRの正常値・クレアチニンとBUNの腎での処理の違い・ネフローゼ症候群の病態は確立した知識。
【補足】エが誤り:尿素(BUN)は糸球体でろ過された後、集合管で約40〜50%が再吸収される(全量排泄ではない)。クレアチニンとの違い(Crはほぼ再吸収なし)が重要。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した腎臓生理学)。尿素は糸球体でろ過された後、尿細管で40〜50%が再吸収される(全量が再吸収なく排泄されるのではない)。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。