衛生管理者 労働生理 問8:循環器
血圧の調節機構に関する次の記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア副交感神経が活性化すると血管が収縮し、血圧が上昇する。
- イ腎臓から分泌されるレニンは、アンジオテンシノーゲンをアンジオテンシンIに変換し、最終的にアンジオテンシンIIが産生されて血管収縮・アルドステロン分泌を促進し血圧を上昇させる。正答
- ウ心拍数が増加すると1回拍出量が変わらなくても心拍出量が増加するが、末梢血管抵抗には影響しないため血圧は変化しない。
- エアドレナリンは副腎皮質から分泌され、血管拡張作用によって血圧を低下させる働きをする。
- オ圧受容器(バロレセプター)は左心室に存在し、心臓の収縮力の変化のみを感知して血圧調節を行う。
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正しいのはイです。腎臓はレニンというタンパク質分解酵素を血中に分泌し、最終的にアンジオテンシンII(AT-II)が産生されます。AT-IIは強力な血管収縮作用を持ち、副腎皮質からアルドステロンを分泌させてナトリウム・水の再吸収を増やすことで、血圧を上昇させます。
各誤りの要点: ア→副交感神経は血管拡張・心拍数低下で血圧を低下させる(上昇させるのは交感神経)。ウ→心拍出量が増加すれば血圧は上昇する(変化しないは誤り)。エ→アドレナリンは副腎髄質から分泌され、血管収縮・心拍数増加で血圧を上昇させる。オ→圧受容器は主として頸動脈洞と大動脈弓に存在し、血圧変化を感知して自律神経系でフィードバック調節する。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(誤): 副交感神経(主に迷走神経)は心拍数を低下させ、血管平滑筋を弛緩(拡張)させる方向に働きます。血圧を上昇させるのは交感神経です。交感神経→ノルアドレナリン→α受容体刺激→血管収縮→血圧上昇、という経路が正しい方向です。
- イ(正): レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)の正確な記述です。①腎臓(傍糸球体細胞)がレニンを分泌→②レニンが肝臓由来のアンジオテンシノーゲン(基質)をアンジオテンシンIに変換→③肺の血管内皮のACE(アンジオテンシン変換酵素)がアンジオテンシンIをアンジオテンシンIIに変換→④AT-IIが血管収縮+副腎皮質からのアルドステロン分泌促進→⑤アルドステロンが腎尿細管でNa⁺・水の再吸収促進→循環血液量増加→血圧上昇。
- ウ(誤): 血圧≈心拍出量(心拍数×1回拍出量)×末梢血管抵抗。心拍数が増加して心拍出量が増えれば、末梢血管抵抗が変わらなくても血圧は上昇します。「血圧は変化しない」は誤りです。
- エ(誤): アドレナリンは副腎髄質から分泌されるカテコールアミンです(副腎皮質からはコルチゾール・アルドステロン等が分泌される)。アドレナリンはα・β両受容体を刺激し、心拍数増加・心収縮力増強・血管収縮(α₁)を引き起こし、全体として血圧を上昇させます。
- オ(誤): 圧受容器(バロレセプター)は主に頸動脈洞(内頸動脈基部)と大動脈弓に存在し、血管壁の伸展(血圧変化)を感知します。血圧上昇→圧受容器が伸展→副交感神経亢進・交感神経抑制→心拍数低下・血管拡張→血圧低下というフィードバック(圧受容器反射)が働きます。
【理論的背景】
血圧調節は短期・中期・長期の異なる時間スケールの機構が組み合わさって作動します。
短期調節(秒〜分単位):
- 圧受容器反射(頸動脈洞・大動脈弓): 血圧変化→自律神経系→心拍数・血管抵抗の即時調節
- 化学受容器反射: PaO₂低下・PaCO₂上昇→交感神経亢進→血圧上昇
中期調節(分〜時間単位):
- レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS): 腎血流低下・低Na→レニン分泌→AT-II→血管収縮・アルドステロン→Na・水再吸収→循環血漿量増加
- バソプレシン(ADH): 浸透圧上昇・循環血液量低下→下垂体後葉からADH分泌→腎での水再吸収増加→血液量回復
長期調節(日〜週単位):
- 腎圧-利尿機構: 血圧が上昇すると腎臓がNa・水の排泄を増加させて循環血漿量を減らし、血圧を正常化する(最終的な血圧設定点を決定する最も重要な機構)
【実務・条文構造】
RAAS阻害薬の種類と作用点(降圧薬の主要グループ):
| 薬剤グループ | 作用点 | 代表薬 |
|---|---|---|
| ACE阻害薬 | アンジオテンシン変換酵素を阻害→AT-II産生抑制 | エナラプリル・カプトプリル |
| ARB(AT₁受容体拮抗薬) | AT₁受容体を遮断→AT-IIの作用遮断 | ロサルタン・カンデサルタン |
| アルドステロン拮抗薬 | アルドステロン受容体を遮断 | スピロノラクトン |
| 直接レニン阻害薬 | レニンの酵素活性を阻害 | アリスキレン |
圧受容器反射の臨床的意義:
- 起立性低血圧: 急に立ち上がると重力で下肢に血液が移動→静脈還流低下→心拍出量低下→血圧低下。通常は圧受容器反射で心拍数増加・血管収縮して補償するが、この反射が弱い場合(高齢者・自律神経障害)は立ちくらみが生じる
- 頸動脈洞マッサージ(CSM): 頸動脈洞を刺激→圧受容器が「血圧が高い」と誤認→副交感神経亢進→心拍数低下。上室性頻拍の一時的な停止に利用される(医療行為)
【試験での位置づけ】
血圧調節問題では「副交感神経が血圧を下げる(上げるのは交感神経)」「アドレナリンは副腎髄質から分泌・血圧上昇作用」「RAASは腎臓→レニン→AT-I→AT-II→血管収縮・アルドステロン→血圧上昇という流れ」「圧受容器は頸動脈洞・大動脈弓に存在」が最頻出です。アのような「副交感神経が血圧上昇」という誤り、エのような「アドレナリンが副腎皮質から分泌・血圧低下」という誤りは典型的な引っかけです。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 自律神経と血圧の関係をまとめると「交感神経=血圧上昇(心拍数増加・血管収縮)、副交感神経=血圧低下(心拍数低下・血管拡張)」です。運動時・興奮時・ストレス時に交感神経が優位になり血圧・心拍数が上昇します。
- イ: ACE阻害薬による副作用の「空咳」は、ACEがブラジキニン(咳を誘発する物質)を分解する酵素でもあるため、ACE阻害薬でブラジキニンが蓄積することで起きます。ARBはAT₁受容体のみを遮断するためブラジキニンが蓄積せず、空咳の副作用が少ないとされています。
- エ: 副腎の解剖学的構造と分泌ホルモンの区別: 副腎皮質(外側)→コルチゾール(糖質コルチコイド・ストレス応答・免疫抑制)・アルドステロン(鉱質コルチコイド・Na/K調節・血圧上昇)・副腎アンドロゲン。副腎髄質(内側)→アドレナリン・ノルアドレナリン(カテコールアミン・交感神経系の急性ストレス応答)。「副腎皮質からアドレナリン」は試験で繰り返し出る誤りのパターンです。
- オ: 圧受容器反射は外科手術や麻酔の際に重要で、頸動脈洞付近の操作で急激な徐脈・血圧低下(バゾバガル反応)が起きることがあります。職場では高所作業や頸部を強打するような労働災害との関連で知っておくと有用です。
【根拠】医学的事実(確立した生理学)。RAAS・自律神経による血圧調節・圧受容器反射は循環生理学の基礎概念として確立。
【補足】副交感神経は血圧を低下させる(上昇は交感神経)。アドレナリンは副腎髄質から分泌・血圧上昇作用。圧受容器は頸動脈洞・大動脈弓に存在。RAASはレニン→AT-I→AT-II(血管収縮・アルドステロン→血圧上昇)の流れ。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した生理学)。レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)は血圧調節の重要な機構として確立。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。