衛生管理者 労働生理 問81:感覚器
深部感覚(固有感覚)と運動の協調に関する次の記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア筋紡錘は腱に存在する感覚受容器で、筋肉の力(張力)を感知し、筋の張力が過剰になった場合に筋収縮を弛緩させる保護的な反射(腱反射)を起こす。
- イゴルジ腱器官(GTO)は筋肉の中腹部に存在し、筋の長さ(伸張)を感知して筋紡錘とともに筋肉の長さと変化速度を中枢に報告する。
- ウ筋紡錘のIa線維(一次求心性線維)は筋の伸張と伸張速度の両方を感知し、伸張反射(膝蓋腱反射等の単シナプス反射)の求心路を構成する。正答
- エ深部感覚(固有感覚)の情報は脊髄の前索・側索を通じて大脳皮質へ上行し、後索が固有感覚の上行路である。
- オ前庭器官(耳石器・半規管)は聴覚に関与し、平衡感覚とは無関係である。コルチ器が平衡感覚を担当する。
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正しいのはウです。筋紡錘からのIa線維は筋の伸張(長さの変化)と伸張速度の両方を感知し、脊髄のα運動ニューロンに直接シナプスして伸張反射(単シナプス反射)を起こします。膝蓋腱反射はその典型例で、腱を叩く→筋紡錘が伸張を感知→Ia線維→α運動ニューロン→大腿四頭筋収縮(膝が蹴り上がる)という経路です。
各誤りの要点: ア→筋紡錘は筋腹(筋の中腹部)に存在し、筋の伸張(長さ)を感知する(腱・張力ではない)(誤り)。イ→ゴルジ腱器官(GTO)は腱に存在し、筋の張力(収縮力)を感知する(誤り)。エ→深部感覚(固有感覚)の上行路は後索であり、「前索・側索を通じて上行する」という前半の記述が誤り(前索・側索を通るのは痛覚・温度覚の脊髄視床路であって深部感覚ではない)。オ→前庭器官(耳石器・半規管)は平衡感覚を担当・コルチ器は聴覚(逆)(誤り)。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(誤): 筋紡錘(muscle spindle)は筋腹内の錘内筋線維に存在します(腱ではない)。感知するのは筋の長さ(伸張)と伸張速度(張力ではない)。腱を叩いて筋が伸張→筋紡錘の錘内筋線維が引き伸ばされる→Ia線維が興奮→脊髄のα運動ニューロンに直接シナプス(単シナプス)→筋が収縮(腱反射)。「腱に存在・張力を感知」はゴルジ腱器官の記述であり、筋紡錘に当てはめると誤りです。
- イ(誤): ゴルジ腱器官(Golgi tendon organ: GTO)は腱(筋腱移行部)に存在します(筋の中腹部ではない)。感知するのは筋の張力(収縮によって生じる腱の緊張)です。過剰な筋収縮→GTO活性化→Ib線維(二次求心性線維)→脊髄の介在ニューロン→α運動ニューロン抑制→筋弛緩(自原抑制: autogenic inhibition)。これは過剰な筋緊張による腱・筋の損傷を防ぐ保護的反射です。「筋の中腹部・長さを感知」は筋紡錘の記述であり、GTOの説明として誤りです。
- ウ(正): Ia線維(群I・最大径・最速伝導)は筋紡錘の主要求心性線維で、筋の伸張(静的な長さ)と伸張速度(動的な変化率)の両方を感知します。II線維(二次求心性線維)は伸張のみ(速度感知なし)。Ia線維→脊髄前角のαモトニューロンへの直接単シナプス→伸張反射(stretch reflex)の反射弓を構成します。これが「単シナプス反射」(Ia→αモトニューロン間にシナプスが1つだけ)の意味です。
- エ(誤): 深部感覚(固有感覚・振動覚・識別触覚)の上行路は脊髄の後索(後柱)です(前索・側索ではない)。後索の薄束(T6以下・下肢)と楔状束(T6以上・上肢)を通り、延髄の後索核でシナプス→対側に交叉(延髄交叉)→内側毛帯→視床→大脳皮質(一次体性感覚野)。前索・側索は主に脊髄視床路(痛覚・温度覚・粗い触覚)の上行路と錐体路(随意運動の下行路)が通ります。
- オ(誤): 前庭器官(vestibular organ)は平衡感覚を担当します。①耳石器(卵形嚢・球形嚢):重力方向・直線加速度を感知(有毛細胞の上の耳石膜と耳石の相対移動)②半規管(三半規管):回転角加速度を感知(内リンパ液の流動による有毛細胞の偏位)。コルチ器(蝸牛)は聴覚を担当します。「前庭器官が聴覚・コルチ器が平衡感覚」は完全に逆の記述です。
#### 1. 筋紡錘とGTOの構造・機能の詳細比較
| 受容器 | 部位 | 感知する量 | 求心性線維 | 脊髄反射 |
|-------|------|----------|---------|---------|
| 筋紡錘(錘内筋線維) | 筋腹内(筋線維と並列) | 筋長・伸張速度 | Ia(速度+長さ)・II(長さのみ) | 伸張反射(単シナプス: Ia→αMN) |
| ゴルジ腱器官(GTO) | 腱・筋腱移行部(直列) | 筋張力 | Ib | 自原抑制(Ib→IN→αMN抑制)・多シナプス反射 |
筋紡錘の構造の詳細:
- 錘内筋線維: 核袋線維(nuclear bag fiber)・核鎖線維(nuclear chain fiber)の2種類
- 核袋線維: Ia線維(伸張速度に特に感受性)・II線維(伸張の絶対量)
- γ運動ニューロン: 錘内筋線維の収縮力を調整→筋紡錘の感受性を中枢がコントロール(γループ)
- 重要: γ運動ニューロンの活動が増えると筋紡錘の感受性が高まる→脳の「注意状態」で筋紡錘感度が高まる
GTO(ゴルジ腱器官)の自原抑制の意義:
- 過大な筋張力(例: 突然の重量負荷)→GTO活性化→同筋のαMN抑制→筋弛緩→腱断裂防止
- ストレッチング(静的筋伸長)後に感じる「筋がほぐれる感覚」はGTOによる自原抑制が一因
#### 2. 固有感覚の中枢処理と運動の協調
固有感覚情報の中枢処理:
1. 脊髄後索(Ⅱ→延髄後索核で第一次シナプス)
2. 延髄→対側(交叉)→内側毛帯→視床腹側後外側核(VPLc)
3. 大脳皮質一次体性感覚野(SI: ブロードマン3a・3b・1・2野)
4. 固有感覚特異的: 3a野(筋紡錘Ia線維由来・関節位置覚)・3b/1野(皮膚触覚)
小脳との統合(運動の協調・精度調節):
- 固有感覚情報は脊髄小脳路(前・後脊髄小脳路)でも小脳に送られる
- 小脳は固有感覚を使って「予測した動き」と「実際の動き」を比較→誤差信号→運動指令の修正
- 小脳障害(アタキシア): 固有感覚情報の統合障害→測定過誤(dysmetria)・運動失調
#### 3. 深部感覚障害と職業性健康(脊髄・末梢神経障害)
固有感覚障害の職業的原因:
- 脊髄後索障害: ①ビタミンB₁₂欠乏(亜酸化窒素N₂O暴露: 麻酔器・不正使用で報告あり→B₁₂不活性化→脊髄後索変性)②梅毒性脊髄炎(脊髄癆: 主に過去の疾患)
- 末梢神経障害: 鉛中毒・有機溶剤(ノルマルヘキサン・ガリウム)・振動工具使用(白蝋病・振動障害: 末梢神経障害)
固有感覚障害の症状と転倒リスク:
- 振動覚・位置覚の低下→ロンベルグ試験陽性(閉眼で立位保持困難)→転倒リスク増大
- 高齢労働者・振動工具使用者の足元不安定→高所作業での転落事故リスク
- 末梢神経障害の早期発見(音叉試験・モノフィラメント試験)が産業保健での実務
振動障害(vibration-induced white finger・HAVS):
- 振動工具(チェーンソー・削岩機等)の長期使用→末梢神経・血管障害
- 特定業務健康診断(振動工具取扱い作業)での神経学的検査(感覚閾値測定)が重要
#### 4. 衛生管理者試験での頻出論点と職場への応用
試験では「筋紡錘=筋腹に存在・筋の伸張(長さ)を感知・Ia線維で伸張反射の求心路」「ゴルジ腱器官=腱に存在・筋の張力を感知・Ib線維で自原抑制」「深部感覚の上行路=後索(後柱)」「前庭器官(耳石器・半規管)=平衡感覚を担当(聴覚ではない)」「コルチ器=聴覚を担当(平衡感覚ではない)」が頻出です。アとイは筋紡錘とGTOの部位・感知する量を入れ替えた典型的な引っかけです。
職場への応用として、振動工具使用作業者の末梢神経障害(感覚障害・固有感覚障害)は転倒・作業ミスのリスク因子であり、定期的な特定業務健康診断と適切な休憩・工具使用制限が衛生管理者の実務です。
【根拠】医学的事実(確立した感覚生理学・神経解剖学)。筋紡錘とGTOの構造・感知する量・反射弓の違い・深部感覚の後索上行路・前庭器官の機能は確立した知識。
【補足】ウが正答:筋紡錘Ia線維=筋伸張と伸張速度を感知・伸張反射の求心路(単シナプス)。ア(筋紡錘が腱・張力感知)とイ(GTOが筋腹・長さ感知)は互いの特徴を入れ替えた誤り。前庭器官=平衡感覚・コルチ器=聴覚(オは逆で誤り)。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した感覚生理学・神経生理学)。筋紡錘のIa線維は筋の伸張と伸張速度を感知し、伸張反射(単シナプス反射)の求心路を構成する。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。