衛生管理者 労働生理 問82:内分泌
性ホルモンと生殖内分泌に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア男性ホルモン(アンドロゲン)の主要なものはテストステロンで、精巣(ライディッヒ細胞)から分泌される。テストステロンは筋肉量・骨密度の増大・赤血球産生促進(エリスロポエチン産生増加)・性欲維持などに関与する。
- イ女性ホルモンにはエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)がある。エストロゲンは卵巣から分泌され、子宮内膜の増殖・女性二次性徴の発達・骨密度の維持(骨吸収抑制)に関与する。
- ウプロゲステロンは排卵後の黄体から主に分泌され、基礎体温を上昇させ(体温上昇作用)、子宮内膜を着床に適した分泌期の状態に変化させる。このため月経周期の黄体期には基礎体温が高温相を示す。
- エ閉経後は卵巣からのエストロゲン分泌が急減するが、副腎からのアンドロゲン(DHEA等)が末梢組織(脂肪組織等)でエストロゲンに変換(アロマターゼ酵素による)されるため、閉経後女性では血中エストロゲンは完全にゼロになる。正答
- オ月経周期はFSH(卵胞刺激ホルモン)とLH(黄体化ホルモン)という下垂体前葉のゴナドトロピンによって調節され、LHサージ(急激な上昇)が排卵を引き起こす。
AI解説(初心者・標準・上級)
理解度に合わせて3レベルの解説を無料で読めます。根拠法令も明記。
誤りはエです。「閉経後女性では血中エストロゲンが完全にゼロになる」という部分が誤りです。閉経後は卵巣からのエストロゲン分泌は確かに急減しますが、副腎から分泌されるアンドロゲン(DHEA・アンドロステンジオン等)が脂肪組織・皮膚・筋肉などの末梢組織に存在するアロマターゼ酵素によってエストロゲン(主にエストロン=E1)に変換**されます。このため閉経後女性の血中エストロゲンは低値ですが「完全にゼロ」ではありません。肥満女性は脂肪組織が多くアロマターゼ活性が高いため、閉経後のエストロゲン値が高く、乳がんリスクが高まる一因です。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): テストステロン(T)はLH(下垂体)の刺激を受けて精巣のライディッヒ細胞から分泌されます(FSHはセルトリ細胞を刺激して精子形成)。テストステロンは①タンパク同化作用(骨格筋・骨の発達)②赤血球産生促進(腎臓のEPO産生増加・骨髄への直接作用)③性欲・攻撃性・認知機能に関与。男性が女性より赤血球数・ヘモグロビン量が多い生理学的根拠の一つです。
- イ(正): エストロゲン(E₂: 17β-エストラジオールが主要)は卵巣(卵胞)から分泌されます。骨への作用: 骨芽細胞の活性化・破骨細胞のアポトーシス促進→骨吸収抑制→骨密度維持。閉経後のエストロゲン低下が骨粗鬆症の主因です。心血管保護作用(HDL増加・動脈硬化抑制)もあり、閉経後に心血管疾患リスクが増加する理由の一つです。
- ウ(正): プロゲステロン(P4)の体温上昇メカニズム: 視床下部の体温調節中枢のセットポイントを0.3〜0.5℃上昇させます(エストロゲンは体温低下作用)。黄体期(排卵後): 黄体→P4分泌増加→基礎体温高温相(36.7〜37.1℃程度)。卵胞期(排卵前): 低温相(36.2〜36.6℃程度)。不妊治療・避妊・月経異常の評価に基礎体温(BBT)測定が使用されます。
- エ(誤): 閉経後のエストロゲン産生は完全にゼロではありません。①副腎から分泌されたアンドロゲン前駆体(アンドロステンジオン・DHEA等)→②脂肪組織・皮膚・乳房・骨等の末梢組織に存在するアロマターゼ(CYP19A1)によってエストロン(E1)に変換。閉経後の主要エストロゲンはE1(エストロン)であり、E2(エストラジオール)は低値です。肥満女性では脂肪組織が多い→アロマターゼ活性高→E1高値→子宮内膜がん・乳がんリスク増大の理由がここにあります。「完全にゼロ」は誤りです。
- オ(正): 月経周期の調節: GnRH(視床下部)→FSH・LH(下垂体前葉)→卵巣ホルモン(E₂・P4)。排卵のメカニズム: 卵胞期後半のE₂高値→下垂体に対して正のフィードバック(通常は負のFB)→LHサージ(LHの急激な上昇)→排卵(約36〜48時間後)。FSHは卵胞発育(グラーフ卵胞の成熟)・E₂産生を促進します。
#### 1. 性ホルモンの生合成経路とアロマターゼの役割
ステロイドホルモン合成の共通経路(コレステロールから):
コレステロール → プレグネノロン(P450scc: CYP11A1)
→ プロゲステロン(3β-HSD)
→ アンドロステンジオン(CYP17A1: 17αhyd + lyase)
→ テストステロン(17β-HSD)
→ エストラジオール(E₂: アロマターゼ=CYP19A1)
または:
アンドロステンジオン → アロマターゼ → エストロン(E₁)
アロマターゼ(CYP19A1)の分布と発現:
- 卵巣顆粒膜細胞(主要な産生部位: 生殖年齢女性)
- 脂肪組織(閉経後女性の主要産生部位)
- 乳腺組織
- 脳(神経ステロイドとして局所作用)
- 骨(局所のE₂が骨代謝に関与)
- 精巣(男性の精子形成・性機能にも少量のE₂が必要)
アロマターゼ阻害薬(AI)の臨床応用:
- ホルモン受容体陽性乳がんの術後補助療法(レトロゾール・アナストロゾール・エキセメスタン)
- 末梢組織でのE₁産生を抑制→閉経後乳がんの再発防止
#### 2. 閉経・更年期の病態と職場の女性健康管理
更年期症状(閉経前後5年間の計10年):
- エストロゲン急減→視床下部-下垂体フィードバック変化→FSH・LH大幅上昇(FSH>40 mIU/mL: 閉経診断の補助)
- 血管運動症状: ホットフラッシュ(hot flash: 上半身の突然の熱感・発汗)・動悸→血管運動神経への影響
- 精神神経症状: 抑うつ・不眠・イライラ・認知機能の軽度変化
- 泌尿生殖器萎縮: 膣乾燥・頻尿・尿路感染症のリスク増加
- 骨粗鬆症: 閉経後5〜10年で急速な骨密度低下(年間2〜3%)
- 心血管リスク上昇: E₂低下→LDL増加・HDL低下・動脈硬化促進
職場の女性健康管理(衛生管理者の責務):
- 更年期障害は労働生産性低下(presenteeism)の主要原因の一つ
- 症状の重い更年期障害者への就業上の配慮(体力的業務の調整・温度管理)
- 骨粗鬆症スクリーニング(DEXA)・脂質検査の定期健診への組み込み
- ホルモン補充療法(HRT): 血管運動症状・骨粗鬆症予防に有効(乳がん・血栓リスクとのバランス)
#### 3. 月経周期の詳細とホルモン変動
月経周期のホルモン変動(28日周期の例):
月経期(1〜5日目):
- E₂・P4低値→子宮内膜剥離・月経
卵胞期(5〜14日目):
- FSH上昇→卵胞発育→E₂上昇
- 子宮内膜増殖(卵胞期子宮内膜)
排卵前(13〜14日目):
- E₂高値→LHサージ(正のFB)→排卵(通常LHサージから36〜48時間後)
黄体期(14〜28日目):
- 黄体形成→P4急増・E₂中程度上昇
- 基礎体温高温相・子宮内膜分泌期への変化
- 着床不成立→黄体退縮→P4・E₂低下→月経(次サイクルへ)
月経前症候群(PMS)・月経前不快気分障害(PMDD):
- 黄体期後半のP4急低下・神経伝達物質(GABA・セロトニン)変動が関与
- 腹痛・頭痛・浮腫・精神症状(抑うつ・過敏)
- 労働者の約50〜80%に何らかのPMSがあり、重篤なPMDDは10〜30%に就業への支障を生じる
#### 4. 衛生管理者試験での頻出論点と職場への応用
試験では「テストステロン=精巣ライディッヒ細胞から分泌・筋肉量・骨密度・赤血球産生」「エストロゲン=卵巣から分泌・骨密度維持(骨吸収抑制)・女性二次性徴」「プロゲステロン=黄体から分泌・基礎体温上昇・子宮内膜を分泌期に」「閉経後エストロゲン=完全ゼロではなく副腎アンドロゲン→脂肪組織のアロマターゼ→エストロン産生」「LHサージ→排卵」が頻出です。エの誤りは「閉経後エストロゲンが完全ゼロ」というアロマターゼ末梢変換の見落としです。
【根拠】医学的事実(確立した内分泌学)。テストステロン・エストロゲン・プロゲステロンの産生部位と作用・アロマターゼによる末梢エストロゲン産生・月経周期のホルモン変動は確立した知識。
【補足】エが誤り:閉経後も副腎アンドロゲンが末梢組織(脂肪組織等)のアロマターゼでエストロン(E₁)に変換されるため、血中エストロゲンは低値だが完全にゼロではない。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した内分泌学)。閉経後もアンドロゲンから末梢変換(アロマターゼ)によりエストロゲンが一定量産生されるため、閉経後のエストロゲンは完全にゼロにはならない。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。