衛生管理者 労働生理 問84:内分泌
膵臓の内分泌機能(ランゲルハンス島)に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア膵臓のランゲルハンス島(膵島)には複数の細胞種が存在し、B細胞(β細胞)がインスリンを分泌し、A細胞(α細胞)がグルカゴンを分泌する。これらは血糖値の変化に応答して相互に対抗するホルモンを分泌する。
- イインスリンは高血糖時に分泌が増加し、筋肉・脂肪組織でのグルコース取り込み促進(GLUT4発現促進・転位)・肝臓でのグリコーゲン合成促進・糖新生抑制を通じて血糖を低下させる。
- ウグルカゴンは低血糖時に分泌が増加し、肝臓に作用してグリコーゲン分解・糖新生を促進することで血糖を上昇させる。グルカゴンはインスリンとともにD細胞(δ細胞)から共に分泌される。正答
- エD細胞(δ細胞)はソマトスタチンを分泌し、周囲のB細胞・A細胞からのインスリン・グルカゴン分泌を抑制するパラクリン(傍分泌)作用を持つ。ソマトスタチンはGH(成長ホルモン)分泌も抑制する(視床下部・下垂体系でも作用する)。
- オ1型糖尿病はβ細胞が自己免疫によって破壊される疾患で、インスリンが絶対的に欠乏するため外因性インスリン投与(注射)が必須である。インスリン欠乏状態ではグルカゴンが過剰になり、ケトン体が大量産生されて糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)を生じる。
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誤りはウです。「グルカゴンはインスリンとともにD細胞(δ細胞)から共に分泌される」という部分が誤りです。グルカゴンはA細胞(α細胞)から分泌されます。D細胞(δ細胞)が分泌するのはソマトスタチンであり、グルカゴンではありません。ランゲルハンス島の細胞種と分泌ホルモンの対応は「A細胞→グルカゴン・B細胞(β細胞)→インスリン・D細胞→ソマトスタチン」です。インスリンとグルカゴンは異なる細胞種(B細胞とA細胞)からそれぞれ分泌されます。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): ランゲルハンス島の細胞分布: β細胞(B細胞)が島の中央部に約70%・α細胞(A細胞)が島の周辺部に約20%・δ細胞(D細胞)が約5〜10%・PP細胞(膵ポリペプチド)が約1〜2%。β細胞からインスリン・α細胞からグルカゴン・β細胞とα細胞は空間的に分離されていますが、パラクリン作用で相互調節されます(インスリン→α細胞のグルカゴン分泌抑制・グルカゴン→β細胞のインスリン分泌促進)。
- イ(正): インスリンのシグナル伝達経路: インスリン→インスリン受容体(チロシンキナーゼ受容体)→IRS(インスリン受容体基質)のリン酸化→PI3K→AKT(PKB)活性化→GLUT4含小胞の細胞膜への転位(translocation)→グルコース取り込み増加。肝臓への作用: グリコーゲン合成酵素活性化・ホスホリラーゼ抑制→グリコーゲン合成促進。PEPCK・G6Pase遺伝子転写抑制→糖新生抑制。
- ウ(誤): グルカゴンはA細胞(α細胞)から分泌されます。D細胞(δ細胞)はソマトスタチンを分泌します(グルカゴンではない)。「グルカゴンがD細胞からインスリンとともに分泌される」は明確な誤りです。グルカゴンとインスリンは異なる細胞種(αとβ)からそれぞれ分泌され、互いに拮抗(血糖上昇 vs. 低下)します。
- エ(正): ソマトスタチン(SRIF: somatotropin release-inhibiting factor)は膵島D細胞から分泌されるほか、視床下部(成長ホルモン放出を抑制するSRIF)・消化管D細胞(消化管ペプチド分泌の抑制)でも産生されます。膵島内でのパラクリン作用: 隣接するβ細胞・α細胞のホルモン分泌を抑制(過剰な血糖変動を平滑化する役割)。消化管のソマトスタチンは消化酵素・消化管ホルモン分泌全般を抑制。
- オ(正): 1型糖尿病(T1DM)の病態: 自己反応性T細胞によるβ細胞の選択的破壊→インスリン絶対的欠乏。インスリン欠乏→ブレーキのないグルカゴン過剰分泌→肝臓での脂肪酸動員増加・ケトン体産生亢進。DKA: 血中ケトン体 > 10 mmol/L・pH < 7.3・血糖 >250 mg/dL(代謝性アシドーシスのうちアニオンギャップ増大型)。Kussmaul呼吸(深く速い呼吸)・果実臭(アセトン)・脱水が典型的症状。
#### 1. ランゲルハンス島の詳細な細胞間相互作用
ランゲルハンス島のパラクリン(傍分泌)ネットワーク:
β細胞(インスリン分泌)の調節:
- 促進: グルコース(主要刺激)・GLP-1(小腸から分泌: インクレチン効果)・GIP・アセチルコリン(迷走神経)・グルカゴン(α→β への正のパラクリン)
- 抑制: ソマトスタチン(D→β)・アドレナリン(α₂受容体)・ノルアドレナリン・低血糖
α細胞(グルカゴン分泌)の調節:
- 促進: 低血糖・アミノ酸・交感神経(β₂受容体)・低インスリン
- 抑制: 高血糖・インスリン(β→α への負のパラクリン)・ソマトスタチン(D→α)・GLP-1
インスリン分泌のKATPチャネルメカニズム(β細胞の分子スイッチ):
1. グルコース取り込み(GLUT2)→グルコキナーゼでG6P→解糖系→ATP産生増加
2. ATP/ADP比↑→KATP(ATP感受性K⁺チャネル)が閉鎖→細胞膜脱分極
3. 電位依存性L型Ca²⁺チャネル開口→Ca²⁺流入→インスリン含顆粒のエキソサイトーシス
4. スルフォニルウレア(SU薬: グリベンクラミド等)はKATPを直接閉鎖→インスリン強制分泌(2型糖尿病治療薬)
#### 2. インスリン抵抗性と2型糖尿病(職場の生活習慣病管理)
インスリン抵抗性のメカニズム:
- 内臓脂肪蓄積→非エステル化脂肪酸(NEFA)放出増加→肝臓・筋肉へのエクトピック脂質蓄積→インスリンシグナル伝達障害(IRS1リン酸化・PI3K活性低下・GLUT4転位障害)
- 炎症性サイトカイン(TNF-α・IL-6: 脂肪組織から産生)がインスリンシグナルを阻害
- 代償性高インスリン血症→β細胞疲弊→インスリン分泌低下→2型糖尿病
職場での2型糖尿病リスク管理(衛生管理者の実務):
- 定期健康診断での血糖検査(空腹時血糖・HbA1c): 空腹時≥126 mg/dL または HbA1c≥6.5% で糖尿病
- 境界型(空腹時血糖110〜125 mg/dL・HbA1c 6.0〜6.4%)への積極的な特定保健指導
- 職場環境改善(運動機会の確保・健康的な食事環境・残業制限・ストレス管理)
- 糖尿病患者の就業配慮(低血糖リスク: 車両運転・高所作業での注意)
#### 3. インクレチン効果とGLP-1受容体作動薬(最新の糖尿病治療)
インクレチン(incretin)効果:
- 食後に小腸L細胞(遠位)からGLP-1(glucagon-like peptide-1)・K細胞からGIP(glucose-dependent insulinotropic polypeptide)が分泌
- GLP-1: β細胞のGLP-1受容体→cAMP上昇→グルコース依存的なインスリン分泌増強・グルカゴン分泌抑制・胃排出抑制・食欲抑制・β細胞増殖促進
- 経口摂取に対して静注グルコースより多くインスリンが分泌される(インクレチン効果: 約50〜70%がインクレチンによる)
- 2型糖尿病ではGLP-1への応答が減弱している(インクレチン効果の減弱)
GLP-1受容体作動薬(GLP-1 RA: semaglutide・liraglutide等):
- 血糖降下・体重減少・心血管保護・腎保護効果
- 2型糖尿病の画期的治療薬として近年爆発的に使用増加
#### 4. 衛生管理者試験での頻出論点と職場への応用
試験では「β細胞(B細胞)→インスリン」「α細胞(A細胞)→グルカゴン」「δ細胞(D細胞)→ソマトスタチン(グルカゴンではない)」「インスリン=高血糖→筋肉・脂肪のGLUT4・肝臓のGS促進・糖新生抑制→血糖↓」「グルカゴン=低血糖→肝臓のグリコーゲン分解・糖新生促進→血糖↑」「1型糖尿病=β細胞自己免疫破壊→インスリン絶対欠乏→DKAリスク」が頻出です。ウの誤りは「グルカゴンがD細胞から分泌される」というα細胞とδ細胞の混同です。
【根拠】医学的事実(確立した膵臓内分泌学)。ランゲルハンス島の細胞種(α/β/δ細胞)と分泌ホルモン(グルカゴン/インスリン/ソマトスタチン)の対応・インスリンの作用機序・DKAの病態は確立した知識。
【補足】ウが誤り:グルカゴンはA細胞(α細胞)から分泌される。D細胞(δ細胞)が分泌するのはソマトスタチン(グルカゴンではない)。ランゲルハンス島の細胞種と分泌ホルモンの対応:α→グルカゴン・β→インスリン・δ→ソマトスタチン。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した膵臓内分泌学)。グルカゴンはA細胞(α細胞)から分泌されており、D細胞(δ細胞)はソマトスタチンを分泌する。「グルカゴンがD細胞からも共に分泌される」は誤りである。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。