衛生管理者 労働生理 問83:代謝
コレステロールの代謝と体内での役割に関する次の記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- アコレステロールはすべて食事から摂取され、体内では合成されない。したがって食事でコレステロールを摂らなければ血中コレステロール値は必ず低下する。
- イコレステロールはリポタンパク質(LDL・HDL等)として血液中を輸送される。このうちLDLはコレステロールを末梢組織へ運び(動脈硬化促進方向)、HDLはコレステロールを末梢から肝臓へ逆輸送する(動脈硬化抑制方向)。正答
- ウコレステロールは生体において有害な物質で、細胞膜や胆汁酸の材料にはならない。血中コレステロールは可能な限り低下させることが常に健康に有益である。
- エスタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)は小腸でのコレステロール吸収を阻害することによって血中LDLを低下させる薬剤であり、肝臓でのコレステロール合成とは関係ない。
- オコレステロールを大量に摂取すると血中コレステロールが必ず大幅に上昇するが、食事コレステロールと血中コレステロールの関係は個人差がほぼない。
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正しいのはイです。LDL(低密度リポタンパク)はコレステロールを肝臓から末梢組織(特に動脈壁)へ運び、過剰になると動脈壁にプラークを形成し動脈硬化を進める「悪玉コレステロール」の運び手です。HDL(高密度リポタンパク)は末梢組織の余分なコレステロールを回収して肝臓へ逆輸送し(逆転送系)、動脈硬化を抑制する「善玉コレステロール」の運び手です。
各誤りの要点: ア→コレステロールの約70〜80%は肝臓で合成され、食事由来は20〜30%(体内合成が主体)(誤り)。ウ→コレステロールは細胞膜の構成成分・胆汁酸・ステロイドホルモン・ビタミンDの前駆体として必須(完全否定は誤り)。エ→スタチンは肝臓のHMG-CoA還元酵素(コレステロール合成の律速酵素)を阻害する(小腸吸収阻害ではない)(誤り)。オ→食事コレステロールと血中コレステロールの関係には大きな個人差がある(誤り)。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(誤): コレステロールは体内で活発に合成されます。成人では1日約700〜1,000mgが体内合成(主に肝臓・腸・副腎等)され、食事からの摂取は300〜500mg程度(体内合成が主体)。コレステロール合成の律速酵素: HMG-CoA還元酵素(LDL受容体の発現を制御するSREBP転写因子が調節)。食事コレステロールを制限すると肝臓が合成を増やして代償するホメオスタシスが働くため、「食事制限で必ず低下する」とは限りません。
- イ(正): リポタンパク質の種類と機能: カイロミクロン(小腸→リンパ→血中:外因性脂質輸送)・VLDL(肝臓→末梢:中性脂肪輸送)→IDL→LDL(コレステロール豊富・末梢へ輸送)・HDL(末梢から肝臓へのコレステロール逆転送)。LDLコレステロール高値→血管壁への蓄積→動脈硬化促進。HDLコレステロール高値→逆転送活発→動脈硬化抑制。
- ウ(誤): コレステロールは生体に必須の物質で、①細胞膜の構成成分(膜流動性の調節・脂質ラフト形成)②ステロイドホルモンの前駆体(コルチゾール・アルドステロン・性ホルモン)③胆汁酸の材料(コレステロール→胆汁酸:脂質乳化・消化に必須)④ビタミンD₃の前駆体(7-デヒドロコレステロール→UV照射→VD₃)。「有害・合成してはいけない」は完全な誤りです。コレステロールが低すぎると副腎皮質ホルモン合成障害・細胞膜機能障害が起きます。
- エ(誤): スタチン(statins)の作用機序: 肝臓のHMG-CoA還元酵素(メバロン酸経路の律速酵素)を競合的に阻害→コレステロール合成低下→肝細胞のLDL受容体発現増加→血中LDLの取り込み増加→血中LDL低下。「小腸でのコレステロール吸収阻害」はエゼチミブ(ezetimibe)の作用機序であり、スタチンとは別です。スタチンは最強のLDL低下薬(LDLを20〜50%低下)で、心血管疾患の一次・二次予防に使用されます。
- オ(誤): 食事コレステロールと血中コレステロールの関係には著しい個人差があります(ハイパーレスポンダー vs. ノンレスポンダー)。これは肝臓のLDL受容体数・コレステロール合成フィードバックの遺伝的差異によります。日本のガイドライン(2015年以降)では食事コレステロールの上限値を設定していません(個人差が大きいため)。「大幅に上昇する・個人差がない」は誤りです。
#### 1. コレステロール合成経路(メバロン酸経路)とスタチンの作用点
コレステロール合成の主要経路:
1. アセチルCoA + アセチルCoA → アセトアセチルCoA
2. アセトアセチルCoA + アセチルCoA → HMG-CoA(3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルCoA)
3. HMG-CoA → メバロン酸(HMG-CoA還元酵素: スタチンの標的)
4. メバロン酸 → イソプレノイド → ファルネシルピロリン酸 → スクアレン → コレステロール
メバロン酸経路の副産物(スタチン阻害の影響も受ける):
- ゲラニルゲラニルピロリン酸: 多くのタンパク質の翻訳後修飾(プレニル化)に必要
- コエンザイムQ10(ユビキノン): ミトコンドリア電子伝達系の必須成分
- スタチンによるCoQ10低下→一部の患者での筋肉痛・横紋筋融解症(稀だが重大な副作用)
スタチンの心血管保護作用(コレステロール低下以外のプレイオトロピック効果):
- 内皮機能改善・抗炎症効果(CRP低下)
- プラーク安定化・血栓形成抑制
- 心血管疾患リスクを30〜40%低減(大規模RCTで実証)
#### 2. リポタンパク質の完全分類と動脈硬化リスク評価
リポタンパク質の密度(比重)順:
| リポタンパク | 密度 | 主要脂質 | 産生場所 | 主な機能 |
|-----------|------|---------|---------|---------|
| カイロミクロン | < 0.95 g/mL | 中性脂肪(外因性)| 小腸 | 食事脂肪の輸送 |
| VLDL | < 1.006 | 中性脂肪(内因性)| 肝臓 | 内因性脂肪輸送 |
| IDL | 1.006〜1.019 | コレステロール+TG | VLDL代謝 | LDLへの前駆体 |
| LDL | 1.019〜1.063 | コレステロール(豊富) | VLDL→IDL→LDL | 末梢へのコレステロール輸送 |
| HDL | 1.063〜1.210 | コレステロール+リン脂質 | 肝臓・小腸 | コレステロール逆転送 |
アテローム性動脈硬化のメカニズム(LDLを中心に):
1. 内皮障害(高血圧・喫煙・高血糖・剪断応力)→内皮機能不全
2. LDLが内膜下に侵入→マクロファージがスカベンジャー受容体でoxLDLを貪食
3. 泡沫細胞形成→プラーク核形成
4. 平滑筋細胞移動・増殖→線維被膜形成→安定プラーク
5. プラーク不安定化(不安定プラーク)→破裂→血栓形成→急性冠動脈症候群(ACS)・脳梗塞
#### 3. 脂質異常症と職場の健康管理
脂質異常症の診断基準(空腹時採血):
- LDLコレステロール ≥140 mg/dL: 高LDLコレステロール血症
- HDLコレステロール < 40 mg/dL: 低HDLコレステロール血症
- トリグリセリド ≥150 mg/dL(空腹時): 高トリグリセリド血症
- non-HDLコレステロール ≥170 mg/dL: 高non-HDLコレステロール血症
職場での脂質管理(衛生管理者の実務):
- 定期健康診断での脂質検査(LDL・HDL・TC・TG)→異常者の保健指導・産業医連携
- 生活習慣改善指導: 飽和脂肪酸・トランス脂肪酸減少・食物繊維増加・身体活動増加・禁煙
- スタチン使用者での筋肉痛・CK上昇のモニタリング(横紋筋融解症: まれだが重篤)
- 職場の食堂・仕出し弁当: 飽和脂肪酸含量の適正化・食物繊維増加が産業栄養管理の課題
#### 4. 衛生管理者試験での頻出論点と職場への応用
試験では「コレステロールの70〜80%は肝臓で合成(食事は20〜30%)」「コレステロールは細胞膜・ステロイドホルモン・胆汁酸・VD₃前駆体として必須」「LDL=末梢へのコレステロール輸送(動脈硬化促進)・HDL=末梢から肝臓への逆転送(抑制)」「スタチン=肝臓のHMG-CoA還元酵素を阻害(小腸吸収阻害ではない)」「食事コレステロールと血中コレステロールには個人差が大きい」が頻出です。イが正答で、ア・エは合成部位・作用機序の誤り、ウはコレステロールの役割の誤認、オは個人差についての誤りです。
【根拠】医学的事実(確立した脂質代謝学)。コレステロールの体内合成・LDL/HDLの輸送方向・コレステロールの必須機能・スタチンの作用機序(HMG-CoA還元酵素阻害)は確立した知識。
【補足】イが正答:LDL=末梢へコレステロール輸送(動脈硬化促進方向)・HDL=末梢から肝臓へ逆転送(抑制方向)。コレステロールの70〜80%は体内合成(肝臓主体)・スタチンは肝臓HMG-CoA還元酵素を阻害。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した脂質代謝学)。LDLとHDLのコレステロール輸送方向とその動脈硬化に対する方向性は確立した知識。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。