行政書士 商法・会社法 問12:設立中の会社・発起人の権限・設立費用の帰属
設立中の会社に関する次の記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア設立中の会社とは、定款作成から設立登記完了までの期間における株式会社の前身であり、設立登記完了をもって設立中の会社はそのまま株式会社に転換される。正答
- イ発起人は、設立中の会社を代表して、会社設立のために必要な一切の法律行為をする権限を有し、定款に定めていない財産引受も設立中の会社のために有効に行うことができる。
- ウ発起人が設立中の会社の名で締結した契約は、それが発起人の権限の範囲外の行為(開業準備行為等)であっても、設立登記完了により当然にすべて会社に帰属する。
- エ発起人が設立のために締結した契約について、設立登記前に会社が存在しないことを理由に第三者が発起人に対して個人責任を追及した場合、発起人は会社の設立後に追認を得ることによりその責任を免れる。
- オ発起人が定款に記載された設立費用を支出した場合、その費用は設立後の会社に帰属するが、定款に記載されていない費用は一切会社に帰属しない。
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設立中の会社は、判例・通説(同一性説)によれば、定款作成時に成立し、設立登記により完成した株式会社と同一の存在として連続しています。つまり設立中の会社が取得した権利義務のうち、発起人の権限の範囲内の行為によるものは、設立登記により当然に株式会社に帰属します。アは「設立登記完了で転換」という表現が同一性説の趣旨に沿っており正しい(ア正答)。ウは「権限の範囲外の行為(開業準備行為等)であっても当然にすべて会社に帰属する」とする点が誤りで、発起人の権限を超える行為は当然には会社に帰属しません。発起人の権限は設立行為(定款記載の範囲内等)に限定され(イ誤り:財産引受は定款記載なしには不可)、発起人個人の責任は原則免れません(エ誤り)。設立費用の帰属についても定款記載の範囲内のみが会社に帰属し、記載外費用は発起人個人負担が原則ですが「一切」会社に帰属しないとまでは言えません(オは「一切」が誤り方向)。
設立中の会社について学説・判例の立場を整理します。同一性説(判例・通説):設立中の会社は、定款作成時(発起人1名以上が定款に署名等した時点)に成立し、設立登記完了後の株式会社と法的に同一の存在である。したがって、発起人が設立中の会社の機関として行った設立行為(権限の範囲内)による権利義務は、設立登記により当然に(当然承継) 会社に帰属する。アの記述「設立登記完了で転換」は同一性説を平易に表現したものとして正しい(ア正答)。一方ウは、権限の範囲外(開業準備行為等)の行為まで「当然にすべて会社に帰属する」とする点が誤りです。発起人の権限範囲:設立行為(定款の記載事項の範囲内の行為・開業準備行為は原則除く)に限定されます(イ誤り:定款未記載の財産引受は発起人の権限外)。イのような財産引受は定款記載なしでは絶対的無効(前問参照)であり、発起人が「設立中の会社のために」行っても無効です。発起人個人責任:設立中の会社段階で発起人が締結した契約について、発起人は設立後の会社から義務を引き継がせることができますが、発起人自身の個人責任は原則として会社設立後も並行して残ります(エ誤り:追認で個人責任は免れない)。設立費用(28条4号):定款記載の設立費用は会社に帰属しますが、記載外の費用は発起人個人の負担が原則です(オ:「一切帰属しない」は正確だが極端な表現)。
【理論的背景】
設立中の会社は「胎児」に例えられます。生命は宿っているが出生(設立登記)はまだであり、出生後(登記後)の人(会社)と連続した存在という考え方(同一性説)が日本の判例・通説の立場です。同一性説の実務的意義は、発起人が設立中に取得した財産・締結した契約が「当然に」会社に帰属するという点にあります。これに対し、設立中の会社と設立後の会社を別個の存在として、設立後に移転行為(譲渡・承継)が必要と解する見解(別個性説)もありますが、実務では採用されていません。発起人の権限範囲の限定(設立に必要な行為のみ)は、発起人が設立中の会社の名の下に無制限に会社を拘束することを防ぐためです。特に開業準備行為(設立後の営業に向けた行為:従業員採用・賃貸借契約等)が設立中の会社の行為として会社に帰属するかについては争いがあり、判例は原則として「会社の成立後の行為は会社の行為として帰属するが、設立前の開業準備行為の会社への当然帰属は認めない」という立場をとることが多いとされています。
【条文構造】
会社法は「設立中の会社」という概念を明文化していませんが、判例・通説はこれを解釈上認めています。会社法25条以下が設立手続を定めており、定款作成(25条・26条)→ 出資の履行(34条)→ 設立時役員の選任(38条〜)→ 設立時代表取締役等の選定(47条)→ 設立登記(49条)というフローが規定されています。設立費用(28条4号)については「定款に記載または記録がなければ会社に帰属しない」という明文規定から、記載外費用は発起人個人負担となります。発起人の責任については、会社法53条(発起人等の責任)・54条(出資の履行を仮装した場合の責任)・55条(発起人等の連帯責任)等が規定しており、設立に関して任務を怠った場合の損害賠償責任・過料(同法976条等)が課されます。
【試験での位置づけ】
行政書士試験での設立中の会社の問われ方は、①同一性説(設立登記により当然帰属)、②発起人の権限範囲(設立行為に限定・開業準備行為は原則除く)、③財産引受の定款記載の要否(記載なしは絶対的無効)、④設立費用の定款記載の要否(記載なしは発起人個人負担)の4点が典型です。本問アは同一性説の趣旨に沿っており正答となりますが、他の選択肢は各論での誤りを含んでいるため、基本的な理解の正確さが問われます。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 正しい(概ね)。同一性説によれば、設立中の会社と設立後の株式会社は同一の存在であり、設立登記によって設立中の会社が株式会社に転換(完成)するという理解は同一性説の趣旨に合致する。
- イ: 誤り。発起人の権限は設立行為に限定され、定款に記載のない財産引受は会社法28条に違反し絶対的に無効。「一切の法律行為をする権限」という記述は広すぎる。
- ウ: 誤り。同一性説により当然に会社へ帰属するのは発起人の権限の範囲内の行為に限られる。権限の範囲外(開業準備行為等)の行為まで「当然にすべて帰属する」とするのは誤り。
- エ: 誤り。設立後の追認により発起人の個人責任が免れるという法的根拠はない。発起人は設立登記前の行為について個人責任を負う可能性が残る。
- オ: 誤り(方向は正しいが「一切」が過剰)。定款記載外の設立費用は原則として発起人の個人負担だが、合理的な範囲で会社が認めることはあり得る(「一切帰属しない」という断言は過剰)。
【根拠条文】
会社法 第25条(設立の方法)
会社法 第28条第4号(設立費用)
会社法 第49条(設立登記・会社の成立)
会社法 第53条(発起人等の損害賠償責任)
※設立中の会社の法的性質は学説・判例によって根拠付けられる(条文上は明文なし)
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 会社法第25条以下(設立手続)、設立中の会社に関する判例・学説(同一性説)、会社法第28条4号(設立費用) 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。