行政書士 商法・会社法 問18:自己株式の取得・保有・処分
自己株式(会社が自社の株式を取得し保有すること)に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア株式会社は、株主総会の決議(原則として普通決議)によって定めた事項(取得する株式の種類・数・取得対価の内容・総額・取得期間)の範囲内で、自己株式を取得することができる。
- イ自己株式については、議決権が認められず、剰余金の配当および残余財産の分配を受ける権利も認められない。
- ウ会社が保有する自己株式は、原則として消却しなければならず、取締役会決議で消却するか否かを決定しなければならない。正答
- エ会社が自己株式を取得する際には、財源規制(分配可能額の範囲内であること)の適用がある。
- オ子会社が親会社の株式を取得することは、原則として禁止されている。
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自己株式とは、会社が自社の発行した株式を取得して保有するものです。自己株式には①議決権なし、②剰余金配当なし、③残余財産分配なしという制約があります(イ正しい)。取得には株主総会普通決議による授権が原則必要で(ア正しい)、財源規制(分配可能額の範囲内)も適用されます(エ正しい)。ウが誤りで、自己株式は保有し続けることも、消却(廃棄)することも、処分(再発行等)することもでき、消却は義務ではありません。消却する場合は取締役会決議(取締役会設置会社の場合)で行うことができますが、義務ではない点がポイントです。子会社による親会社株式の取得禁止(オ正しい方向)は会社法135条の規定です。
自己株式制度の体系を整理します。取得の授権(会社法156条):株主総会の普通決議で①取得する株式の種類・数、②取得対価の内容・総額、③取得期間(1年以内)を定め、その範囲内で取締役会決議等により具体的な取得行為を行います(ア正しい)。市場買付の場合・相対取引の場合等で手続が若干異なります。自己株式の権利制限(308条2項・453条等):自己株式は、議決権・剰余金配当・残余財産分配のいずれも認められません(イ正しい)。自己株式に配当を出すと会社が自己に金銭を支払うことになり意味がないため、これらの権利は会社保有中は停止します。財源規制(461条等):自己株式の取得は剰余金の配当等と同様に「分配可能額」の範囲内でなければなりません(エ正しい)。これは会社財産の過度な流出・債権者の保護のためです。消却の任意性(178条):会社は取締役会決議(取締役会設置会社の場合)によって自己株式を消却することができますが、消却は任意であり義務ではありません(ウ誤り)。会社は自己株式を保有し続けること(金庫株)・消却すること・処分(再発行・ストックオプション等)を選択できます。子会社による親会社株式取得禁止(135条1項):子会社は親会社の株式を取得してはならない(一部例外あり)(オ正しい)。
【理論的背景】
かつての日本法では、会社による自己株式の取得は原則禁止でした(旧商法210条)。禁止の理由は、①資本充実原則の潜脱(株主への払戻しと同効果)、②価格操作(インサイダー取引・相場操縦)、③会社支配の固定化(現経営陣が反対株主の株式を取得して支配権を強化)の3点でした。しかし、2001年の商法改正(現行会社法へ)により、株主還元手段・株式報酬(ストックオプション)・M&Aの対価としての機能を認め、財源規制・手続規制を整備した上で原則自由化されました(金庫株解禁)。消却が義務でない(任意)という現行法の立場は、会社が保有する自己株式を柔軟に活用(処分・消却・ストックオプション等)できるようにするためのものです。子会社による親会社株式取得禁止(135条)は、子会社が親会社株式を取得すると実質的に会社が自己株式を取得するのと同様の問題(資本の空洞化・議決権の循環保有による支配の固定化)が生じるためです。
【条文構造】
会社法155条〜163条が自己株式の取得の各局面を規定しています。156条(株主総会による取得の授権)・157条(特定の株主からの取得)・160条(自己株式の取得と株主の平等)等の規定体系があります。176条〜178条が自己株式の処分・消却を規定し、178条1項「株式会社は、自己株式を消却することができる」(任意)・同条2項「取締役会設置会社においては、…取締役会の決議によらなければならない」と規定しています(強制消却ではない)。308条2項「株式会社は、自己株式については、議決権を有しない」。461条1項は「…次に掲げる行為により株式会社の株主に対して交付する金銭等の帳簿価額の総額は、…分配可能額を超えてはならない」として自己株式取得への財源規制を適用しています。135条1項「子会社は、親会社である株式会社の株式(以下この条において「親会社株式」という。)を取得してはならない」と規定し、例外事由(135条2項)も列挙しています。
【試験での位置づけ】
行政書士試験での自己株式の問われ方は、①取得の授権(株主総会決議の要否・決議の種類)、②権利の停止(議決権・配当・残余財産なし)、③財源規制の適用、④消却の任意性(強制でない)、⑤子会社の親会社株式取得禁止の5点が典型です。本問ウの「消却義務あり」は典型的な誤り選択肢です。令和元年(2019年)会社法改正では取締役の報酬・自己株式の取得に関連する規律も見直されており、改正後の条文で確認することが重要です。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 正しい。156条による株主総会普通決議での授権(取得株式の種類・数・対価の内容・総額・取得期間)が必要。定款で取締役会への委任も可能(165条)。
- イ: 正しい。308条2項(議決権なし)・剰余金配当・残余財産分配も停止(当然に排除)。自己株式は「死んでいる株式」として権利が凍結される。
- ウ: 誤り。178条は「消却することができる」(任意規定)であり、義務ではない。保有継続・処分・消却のいずれも選択可能(金庫株として保有継続も合法)。
- エ: 正しい。461条の財源規制(分配可能額)が自己株式取得にも適用される。分配可能額を超える自己株式取得は会社法462条の責任原因となる。
- オ: 正しい方向。135条1項により子会社は親会社株式の取得が原則禁止。例外(相続・合併等で取得した場合等:135条2項)があるが、原則禁止という記述は正確。
【根拠条文】
会社法 第156条第1項(自己株式取得の授権・株主総会決議)
会社法 第178条第1項・第2項(自己株式の消却・任意)
会社法 第308条第2項(自己株式の議決権排除)
会社法 第461条第1項(財源規制・分配可能額)
会社法 第135条第1項(子会社による親会社株式取得禁止)
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 会社法第155条〜163条(自己株式の取得)、会社法第308条第2項(自己株式の議決権)、会社法第178条(自己株式の消却)、会社法第135条(子会社による親会社株式の取得禁止) 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。