行政書士 商法・会社法 問34:会計監査人の独立性・不再任・解任
乙株式会社(大会社・取締役会設置会社・監査役会設置会社)の会計監査人に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア会計監査人は、毎年の定時株主総会において再任の決議がなされなかった場合、当該定時総会の終結時をもって任期満了となる。正答
- イ会計監査人は、株主総会の決議によって解任されるほか、監査役会が一定の事由(職務上の義務違反等)に該当すると判断した場合、監査役会の全員の同意によって会計監査人を解任することができる。
- ウ会計監査人は、取締役・監査役・使用人との兼任が禁じられており、また取締役・監査役・使用人と特別の利害関係にある場合も就任の欠格事由となる。
- エ監査役会は、会計監査人の選任・解任・不再任の議案の内容を決定する権限を有しており、この点で株主総会への議案内容を監査役会が直接決定することになる。
- オ会計監査人が取締役の不正行為等の重要事項を発見した場合、遅滞なく監査役(会)に報告する義務を負い、この報告義務は会計監査人の独立性を担保する機能を有する。
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会計監査人の選任・解任に関する問題です。アが誤りです。会計監査人は、定時株主総会で「別段の決議がされなかったときは、再任されたものとみなす」とされます(338条2項)。つまり「再任の決議がなければ任期満了」ではなく、「不再任・解任の決議が積極的にされない限り自動的に再任される」のが原則です。アは「再任の決議がなされなかった場合は任期満了」と述べており、338条2項の自動再任みなし規定に真っ向から反するため誤りです。イ(監査役会の全員同意による解任・340条)・ウ(兼任禁止・利害関係の欠格・337条3項)・エ(選任等の議案内容の決定権が監査役会・344条1項)・オ(重要事項の監査役への報告義務・397条1項)はいずれも正しい内容です。
アが誤りの根拠(338条2項の自動再任みなし)
338条1項は会計監査人の任期を「選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結時まで」と定めます。一見すると毎年の選任が必要に見えますが、338条2項が「定時株主総会において別段の決議がされなかったときは、当該定時株主総会において再任されたものとみなす」と定めているため、積極的に不再任・解任の決議をしない限り自動的に再任されるのが原則です。アはこの自動再任みなし規定を無視し「再任の決議がなければ任期満了」としている点で誤りです。
他の選択肢の確認
- イ(正しい): 340条1項・2項。監査役会設置会社では、職務上の義務違反等の事由がある場合、監査役全員の同意により会計監査人を解任できる。
- ウ(正しい): 337条3項各号の欠格事由(兼任禁止・利害関係者の就任不可)。
- エ(正しい): 344条1項。会計監査人の選任・解任・不再任の議案内容の決定権は監査役会にある。
- オ(正しい): 397条1項。会計監査人は取締役の不正等を発見したとき監査役(会)へ報告する義務を負う。
【理論的背景:会計監査人の「自動再任みなし」制度の趣旨】
338条の会計監査人の任期は「選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時総会の終結時まで」(338条1項)です。これは毎年の定時総会ごとに再任を確認することを意味します。しかし「別段の決議がされなかったときは再任とみなす」(338条2項)という自動再任みなし規定を設けることで、毎年形式的な選任決議を行う必要をなくしています。これは実務上の便宜ですが、同時に「積極的に不再任または解任の決議をしない限り継続就任する」という仕組みでもあります。この自動再任みなしは、会計監査人の独立性(毎年の選任審査で経営陣に従わざるをえなくなることを防ぐ)の観点からも合理性があります。
【実務・条文構造:会計監査人の解任の二ルート】
会計監査人の解任には二つのルートがあります。
① 株主総会決議による解任(339条1項・会計監査人に準用):普通決議(役員の解任と同様)。正当な理由なく解任した場合、会計監査人は損害賠償を請求できます(339条2項)。
② 監査役会(等)による解任(340条):以下の事由に該当する場合、監査役会の「全員の同意」により会計監査人を解任できます。事由:①職務上の義務違反または怠慢、②会計監査人としての適格性を欠く行為、③心身の故障によって職務遂行が困難または不適任。この「監査役会全員一致による解任」は緊急時に迅速に対応するための特別ルートです。解任後は遅滞なく報告のための総会を招集する必要があります(340条4項)。
344条(選任議案の決定権)は、選任・解任・不再任の「株主総会への提案内容」を取締役会ではなく監査役会(等)が決定するという権限規定です。これにより、取締役が自社に有利な会計監査人を選任・継続させ、不都合な会計監査人を解任するというリスクを抑制しています。
【試験での位置づけ:会計監査人の独立性確保のポイント】
行政書士試験で会計監査人関連の頻出ポイントは以下の三点です。
① 自動再任みなし(338条2項):「再任決議がなければ任期満了」ではなく「不再任・解任の決議がなければ自動再任」(本問アの引っかけ)。
② 監査役会による緊急解任(340条):取締役会でなく監査役会が行い、全員一致が要件。
③ 選任議案の決定権は監査役会(344条):株主総会が最終的に選任するが、議案内容の決定は監査役会(等)が行うことで取締役からの独立性を確保。
これらは「会計監査人を守る(独立性保護)仕組み」として一体的に理解することが重要です。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 338条2項の自動再任みなしは「株主全員の同意」でも省略できます。不再任の場合は株主総会で「不再任とする」旨の決議が必要であり、この決議がなければ自動的に再任されます。「再任の決議がなければ任期満了」とするアは338条2項に明確に反する誤りです。
- ウ: 337条3項の欠格事由として、公認会計士法上の「業務の停止処分を受けている者」や「会社の親会社・子会社の取締役・監査役・使用人」等が挙げられます。具体的な欠格事由は公認会計士法の独立性規制とリンクしており、利益相反関係にある者は就任できません。
- オ: 397条1項の報告義務は「会計監査人が監査を実施する上で取締役等の不正行為・法令定款違反の重大な事実を発見した場合」に課される義務。この報告が監査役(会)への内部告発ルートとして機能し、取締役の不正を早期に是正する機能を担います。
【根拠条文】
会社法 第338条第1項・第2項(会計監査人の任期・自動再任みなし)
会社法 第340条第1項・第2項・第4項(監査役会等による会計監査人の解任)
会社法 第344条第1項(会計監査人の選任等の議案決定権)
会社法 第397条第1項(会計監査人の監査役への報告義務)
【補足】
338条2項「別段の決議がなければ自動再任」が最重要(「再任決議なし→任期満了」は逆)。340条の「監査役会全員一致による緊急解任」と344条の「選任議案決定権=監査役会」をセットで理解する。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 会社法第338条(会計監査人の任期)・第340条(会計監査人の解任)・第344条(会計監査人の選任等に関する権限) 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。