行政書士 商法・会社法 問39:取締役の第三者責任・責任免除
株式会社の取締役の責任に関する次の記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア取締役がその職務を行うにつき悪意または重大な過失があったときは、第三者に対して損害賠償責任を負うが、この責任は会社の免責決議によって免除することができる。
- イ取締役の会社に対する損害賠償責任は、全額を株主全員の同意によって免除することができるが、一部のみの免除は常に認められない。
- ウ取締役の会社に対する損害賠償責任については、定款の規定に基づき取締役会の決議によって一部を免除することができるが、この制度の対象となるのは業務執行取締役等以外の取締役であり、代表取締役その他の業務執行取締役は対象とならない。正答
- エ株主代表訴訟(責任追及等の訴え)は、株主が6か月前から引き続き株式を保有している場合に限り提起することができ、非公開会社においても同様の保有要件が課される。
- オ取締役が第三者に対して負う損害賠償責任(会社法429条1項)は、取締役と会社が連帯して賠償義務を負うものであり、会社への損害と第三者への損害は必ず一致する。
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取締役の責任に関する問題です。ウが正しい。定款の定めに基づく取締役会決議による一部免除(426条1項)は、その対象が「取締役(業務執行取締役等であるものを除く)」と条文に明記されており、代表取締役その他の業務執行取締役は対象になりません。ウはこの点を正確に述べているため正しい。アは誤り:第三者に対する責任(429条1項)は会社の免責決議で免除できません。イは誤り:全株主の同意による全額免除(424条)に加え、425条〜427条で一部免除の制度があるため「一部のみの免除は常に認められない」は誤りです。エは誤り:非公開会社では6か月の保有要件はありません(847条1項かっこ書)。オは誤り:429条1項は会社との連帯を当然には定めず、会社の損害と第三者の損害も必ずしも一致しません。
ウが正答の根拠(一部免除制度の対象限定)
取締役の会社に対する損害賠償責任(423条1項)の免除制度は以下のとおりです。
①全額免除(424条):株主全員の同意が必要。
②一部免除(3種類):
- 特別決議による一部免除(425条1項):株主総会の特別決議+監査役等の同意。対象は業務執行取締役等以外の取締役等。残存責任は報酬等の一定倍数(代表取締役6年分・業務執行取締役4年分・社外取締役等2年分)が下限。
- 定款+取締役会決議による一部免除(426条1項):定款の規定があれば取締役会決議で一部免除可。対象は「業務執行取締役等であるものを除く」取締役等。
- 責任限定契約(427条1項):定款の定めに基づき非業務執行取締役・社外監査役・会計参与・会計監査人と事前に責任の上限を契約で定める。
ウは「定款+取締役会決議による一部免除の対象は業務執行取締役等以外の取締役」という426条の規律を正確に述べており正しい。
各選択肢の確認
- ア: 誤り。429条1項の第三者への責任は会社の免責決議では免除できません(第三者保護の趣旨上、会社の内部行為で対外的責任を消滅させることは不可)。
- イ: 誤り。425条〜427条に一部免除制度があるため「一部のみの免除は常に認められない」は誤り。
- エ: 誤り。非公開会社では6か月前からの保有要件がなく、1株でも保有する株主が提訴可能(847条1項かっこ書)。
- オ: 誤り。429条1項は取締役と会社が当然に連帯するとは定めておらず、会社への損害と第三者への損害は必ずしも一致しません(直接損害・間接損害の区別)。
【理論的背景:取締役の責任の多層構造と政策的目的】
取締役の責任は対象別に三層に分かれます。①会社に対する責任(423条):任務懈怠による損害賠償。会社と取締役の委任関係から生じる内部的責任。②第三者に対する責任(429条):悪意・重過失ある任務懈怠により第三者に損害を生じた場合。法定責任(不法行為責任とは別)。③株主に対する責任:429条1項により株主も「第三者」として損害賠償請求できる(ただし間接損害か直接損害かで異なる)。
責任の免除(424条〜427条)は「取締役のなり手不足を防ぐ」という政策的目的から導入されています。特に社外取締役・社外監査役等の独立役員については、過大な責任リスクがあれば就任を忌避するため、責任限定契約(427条)の制度が設けられました。
【実務・条文構造:429条1項の第三者責任の法的性質と直接損害・間接損害の区別】
429条1項の第三者責任は「特別の法定責任」であり、一般不法行為(民法709条)とは別の独立した請求権です。その特徴:①悪意・重過失が要件(故意・過失の一般不法行為より重い要件)。②立証責任は第三者(原告)が負う(取締役の悪意・重過失と因果関係の立証)。③対象となる損害は「直接損害」と「間接損害」に分かれる。
直接損害:取締役の行為が直接第三者を害した場合(例:粉飾決算を信じて株式を取得した投資家の損害)。間接損害:会社への損害を通じて間接的に第三者(株主・債権者)が被る損害(例:会社が倒産したため債権者が回収不能になる損害)。間接損害についても429条1項の請求が可能とするのが判例(最大判昭44.11.26)の立場です。
【試験での位置づけ:株主代表訴訟(847条)の頻出ポイント】
847条の株主代表訴訟(責任追及等の訴え)の要件は頻出です。①株主の保有要件:公開会社では6か月前から引き続き1株以上保有(847条1項)。非公開会社では保有期間要件なし(847条1項かっこ書)。②事前の書面請求:株主が会社(監査役)に対して提訴を書面で請求し、60日以内に会社が提訴しない場合に自ら提訴可能(847条3項)。③費用の補償:勝訴した株主は訴訟費用等の補償を会社に請求できる(852条1項)。選択肢エは「非公開会社においても6か月の保有要件が課される」としている点が誤りです。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 429条1項の第三者責任を「会社が免責決議で免除できない」理由:第三者は会社の内部行為(総会決議・取締役会決議)に拘束されない第三者の利益保護の規定であるため、会社が一方的に免除することは第三者保護の趣旨と矛盾します。ただし第三者自身が責任を放棄する(和解・請求をしない)ことはもちろん可能です。
- ウ(正答): 425条・426条の対象は「業務執行取締役等(代表取締役・業務執行取締役・業務執行社員等)以外」の取締役です。社外取締役・非業務執行取締役(いわゆる平取締役)が対象。427条の責任限定契約はさらに非業務執行取締役・社外監査役・会計参与・会計監査人に限定されます。代表取締役その他の業務執行取締役は一部免除の対象外であり、ウはこの限定を正確に述べています。
- エ: 非公開会社での株主代表訴訟(847条1項かっこ書):「公開会社でない株式会社にあっては、6か月前という期間の制限はない」と明示されています。1株でも保有していれば提訴可能。
【根拠条文】
会社法 第424条(取締役の責任の全額免除)
会社法 第425条第1項(特別決議による一部免除)
会社法 第426条第1項(定款+取締役会決議による一部免除)
会社法 第427条第1項(責任限定契約)
会社法 第429条第1項(取締役の第三者に対する責任)
会社法 第847条第1項(株主による責任追及等の訴え)
【参照判例】
最高裁判所大法廷判決 昭和44年11月26日(取締役の第三者責任・間接損害を含む)
【補足】
一部免除の三制度(425/426/427条)と適用対象の限定(業務執行取締役は対象外)を整理。非公開会社の株主代表訴訟は6か月の保有要件なし(847条1項かっこ書)。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 会社法第423条(取締役の会社に対する責任)・第424条〜第427条(責任免除・一部免除・責任限定契約)・第429条(取締役の第三者に対する責任) 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。