行政書士 商法・会社法 問38:競業取引・利益相反取引の規制
取締役の競業取引および利益相反取引に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア取締役が自己または第三者のために会社の事業の部類に属する取引をしようとするときは、取締役会設置会社においては取締役会の承認を得なければならない。
- イ競業取引の承認を得た取締役は、当該取引後遅滞なく、当該取引に関する重要な事実を取締役会に報告しなければならない。
- ウ取締役が自己のために直接取引を行う場合(直接利益相反取引)、取締役会の承認を受けていれば会社はその取引の無効を主張することができない。
- エ取締役が会社の利益を害するおそれのない間接取引については、取締役会の承認を要しない。正答
- オ取締役が競業取引について取締役会の承認を得ずに行った場合、当該取引は無効とはならないが、取締役は会社に対して損害賠償責任を負う。
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競業・利益相反取引規制の問題です。エが誤りです。利益相反取引のうち「間接取引」(356条1項3号:会社が取締役の債務を保証する等、会社と取締役の利益が相反する取引)についても、取締役会設置会社では取締役会の承認が必要です(365条1項)。「間接取引でも承認が必要」な点を「承認不要」と誤って述べているエが誤りです。直接取引(356条1項2号:会社と取締役が直接取引)と間接取引(356条1項3号)のいずれも承認が必要です。アの競業取引(356条1項1号)・イの事後報告(365条2項)・オの取引の有効性と損害賠償(最判昭46.10.13等)はいずれも正しい内容です。
エが誤りの根拠(356条1項の包括規定)
356条1項は取締役が以下の取引をする場合の承認義務を定めます。①競業取引(1項1号:会社の事業部類に属する取引を自己/第三者のために行う)、②直接利益相反取引(1項2号:会社との直接の取引・自己のためまたは第三者のため)、③間接利益相反取引(1項3号:会社と取締役の利益が相反する取引・会社と第三者間の取引で取締役の利益が相反する場合)。③の間接取引についても承認が必要であり、「会社の利益を害するおそれのない間接取引であれば承認不要」という規定は存在しません。
他の選択肢の確認
- ア: 正しい。356条1項1号・365条1項(取締役会の承認)。
- イ: 正しい。365条2項(事後の重要事実の報告義務)。
- ウ: 正しい。承認を受けた利益相反取引(直接取引)については、会社は無効を主張できないとするのが判例の傾向(ただし学説上争いあり)。なお承認なしの場合は「会社は取引の相手方(善意の第三者)には無効を主張できない」という理解が一般的(最判昭46.10.13)。
- オ: 正しい。競業取引は取締役会の承認なしに行っても対外的には有効ですが、取締役は423条2項による損害賠償責任を負います(推定規定:取引により取締役が得た利益額を会社の損害額と推定)。
【理論的背景:競業規制と利益相反規制の区別の理由】
競業取引規制(356条1項1号)と利益相反取引規制(356条1項2号・3号)は、いずれも「取締役と会社の間の利益相反」を規制するものですが、法的効果が異なります。
競業取引の規制は、取締役が会社の情報・営業機会・人脈を私的に利用して会社と競争することを防ぐための規定です。承認なしに競業取引を行っても、当該取引自体は(第三者との関係では)有効ですが、423条2項により取締役が得た利益額を会社の損害額と推定して損害賠償責任を負わせます(いわゆる「利益吐き出し規定」的な効果)。
利益相反取引(直接・間接)の規制は、取締役が会社との取引において自己の利益を優先することを防ぐものです。直接取引については承認なしの場合、取引の相対的無効(会社は善意の第三者には無効主張不可・最判昭46.10.13)が問題となります。間接取引は会社と第三者の取引形式をとりながら実質的に取締役が利益を得る場合(会社が取締役の借入れの保証人になる等)であり、同様に承認が必要です。
【実務・条文構造:手続フローと事後報告の実務的意義】
競業・利益相反取引の手続フローは以下のとおりです。
1. 事前:取締役会への開示と承認の申請(356条1項・365条1項)。取引の重要事実(取引の種類・内容・相手方・条件等)を開示して取締役会の承認を得る。
2. 特別利害関係取締役の議決権排除(369条2項):利益相反取引の当該取締役は取締役会決議に参加できない(定足数からも除外)。
3. 事後:重要事実の報告(365条2項):承認を得て取引を実施した後、遅滞なく取引に関する重要な事実を取締役会に報告。
4. 損害賠償責任(423条1項・2項):承認なく競業取引を行い損害を生じさせた場合、423条2項の推定が働く。
【試験での位置づけ:承認の効果と無効論の整理】
利益相反取引(直接取引)の承認なし行為の効力に関して判例は「相対的無効」説を採り、会社は善意の第三者に対しては無効を主張できないと解します(最判昭46.10.13)。試験では「承認なし→絶対無効か相対無効か」「承認あり→無効主張不可か」という問い方がされます。競業取引は無効ではなく損害賠償という別の効果が生じる点も重要です(423条2項の損害額の推定)。なお承認を受けた取締役は特別利害関係人として取締役会の議決に加わることができないため(369条2項)、承認決議が少人数で行われる場合の定足数問題も実務上重要です。
【各選択肢の発展補足】
- エ: 間接取引の典型例:①会社が取締役の第三者に対する債務を保証する、②会社の資産を担保として取締役のために提供する、③会社が取締役から有利な条件で贈与を受ける(形式上は会社有利だが取締役の利益になる場合)。これらは「取引の形式は会社と第三者の間」ですが、実質的に取締役が利益を受けるため利益相反となります。承認なしに行った場合は直接取引と同様の問題が生じます。
- オ: 423条2項の推定規定は「競業取引によって取締役(または第三者)が得た利益額を会社が被った損害額と推定する」というものです。これは競業取引の損害額の証明が困難(会社が得べかりし利益との差額の算定が複雑)なため、証明責任を軽減する趣旨です。会社は推定を覆す証拠を取締役が出せない限り、「得た利益額=損害額」として請求できます。
【根拠条文】
会社法 第356条第1項第1号〜第3号(競業取引・利益相反取引の制限)
会社法 第365条第1項(取締役会設置会社における承認の方法)・第2項(事後報告義務)
会社法 第423条第2項(競業取引による損害額の推定)
会社法 第369条第2項(特別利害関係取締役の議決権・定足数除外)
【参照判例】
最高裁判所(小法廷)判決 昭和46年10月13日(利益相反取引の相対的無効)
【補足】
356条1項の三号(間接取引も承認必要)が最重要の引っかけ。競業取引は「有効だが損害賠償」・利益相反直接取引は「相対的無効(善意第三者には無効主張不可)」という効果の違いを整理。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 会社法第356条(競業・利益相反取引の制限)・第365条(取締役会設置会社における特則) 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。