行政書士 民法 問118:民法相続
相続と遺贈の関係に関する次のア〜オの記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア相続人は、被相続人の財産に属した一切の権利義務を包括的に承継するが、被相続人の一身専属的な権利義務は相続の対象とならない。
- イ包括遺贈を受けた者(包括受遺者)は、相続人と同一の権利義務を有するとされており、遺産分割協議に参加することができる。
- ウ特定遺贈を受けた受遺者は、遺贈を放棄することができるが、遺贈義務者(通常は相続人)に対してその意思を表示する必要がある。
- エ相続人が遺産を取得する際には、遺産分割前の遺産共有(遺産共有)の状態から遺産分割によって具体的に各自の取得財産が確定する。
- オ遺贈と死因贈与は、いずれも贈与者の死亡によって効力が生じる点で共通しており、これらはすべて同一の規律に服する。正答
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オが誤りです。遺贈(民985条以下)と死因贈与(民554条)は、いずれも贈与者(遺言者)の死亡によって効力が生じる点は共通しますが、完全に同一の規律に服するわけではありません。死因贈与には「遺贈に関する規定を準用する」(民554条)とされていますが、「その性質に反しない限り」という限定があります。例えば、遺贈は遺言による一方的な行為ですが、死因贈与は契約(双方の合意)です。アは正しく(民896条・一身専属権は相続の対象外)、イは正しく(民990条・包括受遺者の相続人同一の権利義務)、ウは正しく(民986条・特定遺贈の放棄)、エは正しく(遺産共有→遺産分割の流れ)。
オが誤りです。遺贈(民985条〜1003条)と死因贈与(民554条)は「贈与者の死亡によって効力が生じる」という点で類似しますが、①法的性質(遺贈=単独行為・死因贈与=双務契約)、②方式要件(遺贈は遺言の方式が必要・死因贈与は書面要件なし)、③撤回の可否(遺贈は生前に自由に撤回可能・死因贈与は原則として相手方の同意なく撤回できないとする見解が多い)、④承認・放棄の手続の違い等があります。民554条は死因贈与に「遺贈の規定を準用する」としていますが「その性質に反しない限り」という重要な留保があるため、すべてを同一規律とすることはできません。
アは正しいです。民896条但書は「ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない」として、一身専属権(扶養請求権・使用者としての地位等)は相続の対象外とされています。
イは正しいです。民990条は「包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する」と規定しており、遺産分割協議への参加も認められます。ただし相続人ではないため、相続欠格・廃除・代襲相続の規定は適用されません。
ウは正しいです。民986条1項は「受遺者は、遺言者の死亡後いつでも、遺贈の放棄をすることができる」と規定しており、特定遺贈は受遺者の意思による放棄が可能です。
エは正しいです(民898条〜907条参照)。
【理論的背景】
遺贈(民985条以下)は、遺言者が遺言によって財産の全部または一部を無償で他者に与える意思表示(単独行為)です。これに対し、死因贈与(民554条)は「贈与者の死亡によって効力を生じる贈与の合意(双務契約)」であり、受取人との契約として成立します。遺贈と死因贈与はいずれも死後の財産移転という機能において類似しますが、法的性質(単独行為 vs. 契約)・方式(遺言の方式要件の有無)・撤回権(遺贈は原則として自由撤回可・死因贈与は受取人の承諾があるため撤回に制限が生じる場合あり)の点で異なります。2019年相続法改正では遺贈に関する規律が整備されましたが、死因贈与については民554条で「性質に反しない限り準用」という基本的な枠組みは変わっていません。
【条文構造】
遺贈・死因贈与・包括受遺者の条文を整理します。
民985条:遺贈の効力(遺言者の死亡時から効力発生)。
民986条:特定遺贈の放棄(遺言者死亡後いつでも可)。
民988条:包括遺贈の放棄(相続の放棄と同様・家裁への申述・期間あり)。
民990条:包括受遺者の権利義務(相続人と同一の権利義務)。
民1002条:受遺者の相続人への転換(受遺者が死亡した場合の処理)。
民554条:死因贈与(遺贈規定の準用・「その性質に反しない限り」)。
包括受遺者と相続人の差異:包括受遺者は相続人と「同一の権利義務」を持つが、相続欠格(民891条)・廃除(民892条)・代襲相続(民887条2項)の規定は相続人に固有の制度であり包括受遺者には適用されない。また、包括受遺者は遺産分割協議に参加できるが、遺産分割協議の当事者としての地位は相続人に限定される(包括受遺者は民990条によって擬制的に参加できる)。
【試験での位置づけ】
行政書士試験における遺贈・死因贈与の典型論点は、①遺贈の種類(特定遺贈・包括遺贈)と放棄の違い(特定遺贈は自由放棄・包括遺贈は相続放棄と同様の手続)、②包括受遺者の相続人同一の権利義務(民990条)と限界(欠格・廃除・代襲は不適用)、③死因贈与と遺贈の共通点・相違点(性質・方式・撤回の違い)の3点です。「遺贈と死因贈与はすべて同一規律」という誤りパターンは典型的な引っかけです。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 正しい(民896条本文・但書)。一身専属権の例:扶養請求権(民877条以下)・生活保護受給権・特定の職業資格(医師免許等)・労働基準法上の解雇予告手当請求権等。被相続人の有していた契約上の地位(売主の地位・賃貸人の地位等)は原則として相続される。
- イ: 正しい(民990条)。包括受遺者は相続人と同一の権利義務を持ち、遺産分割協議への参加権がある。例:遺産全体の4分の1を包括遺贈する旨の遺言がある場合、その包括受遺者は残りの4分の3を相続人として分割する協議にも参加する(遺産の合計からの取り分として確定)。
- ウ: 正しい(民986条1項)。特定遺贈は受遺者の意思による放棄が自由。包括遺贈の放棄(民988条)が家庭裁判所への申述(相続放棄と同様の手続・3か月以内)を要するのと対比。特定遺贈の放棄に期限はなく(「遺言者の死亡後いつでも」)、遺贈義務者への通知で足りる。
- エ: 正しい(民898条〜907条)。遺産共有(相続開始時から遺産分割まで相続人全員の共有)から遺産分割(各相続人の具体的取得財産の確定)へという流れは相続法の基本構造。2021年改正で遺産分割の期間制限(相続開始から10年で法定相続分への固定化・民904条の3)が新設された。
- オ: 誤り(正答)。民554条の「その性質に反しない限り」という限定によって、遺贈規定のすべてが死因贈与に準用されるわけではない。最高裁判決(最判昭57.11.12)では死因贈与の一部について遺贈の規定の準用を認め、特に相続人の同意なく撤回された死因贈与の効力が問題となった事案がある。「すべて同一の規律に服する」という絶対的表現が誤り。
【根拠条文】
民法 第554条(死因贈与・遺贈規定の準用)、第896条(相続の一般的効力・一身専属権の除外)、第986条(特定遺贈の放棄)、第988条(包括遺贈の放棄)、第990条(包括受遺者の権利義務)
【参照判例】
最判昭和57年11月12日(死因贈与の撤回と遺贈規定の準用)
【補足】
死因贈与(民554条)は遺贈規定を「性質に反しない限り準用」であり、遺贈と完全に同一規律ではない。包括受遺者の相続人同一地位(民990条)と限界(欠格・廃除・代襲は不適用)を区別して覚えること。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 民法 第896条(相続の一般的効力)、第990条(包括受遺者の権利義務)、第986条(遺贈の放棄)、第554条(死因贈与) 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。