行政書士 民法 問117:民法相続
限定承認に関する次のア〜オの記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア限定承認は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務および遺贈を弁済することを留保して、相続の承認をする制度である。
- イ限定承認は、共同相続人がある場合には、相続人全員が共同して行わなければならない。
- ウ限定承認の申述は、相続の開始を知った時から3か月以内に家庭裁判所に対して行わなければならない(熟慮期間)。
- エ限定承認をした相続人は、被相続人の債権者全員に対して、一定の方法で公告・催告を行い、弁済の順序に従って弁済しなければならない。
- オ限定承認をした後に、相続人が相続財産を隠匿したり、財産目録に不記載であった財産を処分した場合であっても、単純承認に転化することはない。正答
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オが誤りです。民法921条3号は「相続人が……相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを財産目録中に記載しなかったとき」を単純承認の事由として規定しており、限定承認後でも相続財産の隠匿・財産目録不記載財産の処分等を行った場合は単純承認に転化します。したがって「単純承認に転化することはない」というオは誤りです。アは正しく(民922条・限定承認の意義)、イは正しく(民923条・全員共同申述)、ウは正しく(民915条・3か月の熟慮期間)、エは正しく(民927条以下・公告・催告・弁済手続き)。
オが誤りです。民法921条3号は「相続人が……相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを財産目録中に記載しなかったとき(ただし、その相続人が相続の放棄をした後において善意で相続財産のうち自己の固有財産中に混入したものを処分した場合は除く)」を単純承認事由として規定しています。限定承認後であっても、相続人が相続財産を隠匿・私消費・悪意で財産目録不記載としたまま処分した場合は、単純承認に転化してしまいます。「転化することはない」というオは誤りです。
アは正しいです。民922条の限定承認の定義通りです。
イは正しいです。民923条は「相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる」と規定しています。一部の相続人だけが限定承認することはできません。
ウは正しいです。民915条1項は相続の承認・放棄の申述期間を「相続の開始を知った時から3か月以内」とし、この期間が熟慮期間と呼ばれます(家庭裁判所への申立てで延長可)。
エは正しいです。民927条〜932条に限定承認後の弁済手続(債権者への公告・催告・弁済の順序・配当弁済等)が定められています。
【理論的背景】
限定承認(民922条〜937条)は、相続によって得た財産の限度でのみ被相続人の債務を弁済するという、相続人にとってリスク限定的な承認方法です。相続放棄(民938条〜940条)と異なり、限定承認は「相続する(プラスの財産も引き受ける)が、マイナスの財産(債務)は受け継いだ資産の範囲内でのみ弁済する」という折衷的選択肢です。ただし、実務上は限定承認の手続が複雑で費用がかかる(家庭裁判所への申述・弁済手続等)ため、相続放棄が選択されることが多いです。また、共同相続人全員の共同申述が必要(民923条)という制約もあります。
【条文構造】
限定承認の核心条文を整理します。
民922条:限定承認の効果(相続財産の限度での弁済留保)。
民923条:共同相続人の全員共同申述要件。
民924条:限定承認の申述先(家庭裁判所)・財産目録の作成・提出。
民921条3号:単純承認への転化事由(相続財産の隠匿・私消費・悪意の財産目録不記載)。ただし限定承認を申述した者については一定の善意保護あり(同号ただし書)。
民927条:限定承認後の弁済手続(相続債権者・受遺者への公告)。
民929条〜932条:弁済の方法・順序・配当弁済等。
民936条〜937条:相続財産の清算(限定承認後の相続財産管理・清算人の選任等)。
【試験での位置づけ】
行政書士試験における限定承認の典型論点は、①全員共同申述の要件(民923条)、②熟慮期間3か月(民915条)、③単純承認への転化事由(民921条3号・相続財産の隠匿等)、④限定承認後の弁済手続(公告・催告・順位弁済)の4点です。特に「共同相続人の一部だけで限定承認できるか(できない)」と「隠匿等で単純承認に転化するか(する)」は定番の誤りパターンです。相続放棄(個人で可・民938条)との比較も重要です。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 正しい(民922条)。限定承認の本質:相続財産(プラス)を受け取り、相続債務は受け取った財産の範囲内でのみ弁済する。自己固有の財産は相続債務の弁済に充てる必要がない(リスク遮断)。例:被相続人が5000万円の不動産と8000万円の負債を残した場合→限定承認すれば不動産の換価額(例5000万円)の限度で負債を弁済すれば足り、残3000万円の負債は追わない。
- イ: 正しい(民923条)。共同申述要件の実務的問題:相続人の一人が行方不明・意思能力に問題がある場合は全員申述が困難になる。この場合、行方不明者について失踪宣告を申し立てる等の対応が必要になることがある。
- ウ: 正しい(民915条1項)。熟慮期間は「相続の開始を知った時から3か月」(主観的起算点)。被相続人の死亡を知った時ではなく「相続の開始を知った時」(通常は死亡の通知を受けた時)が起算点。家庭裁判所への申立てで延長可(民915条1項ただし書)。
- エ: 正しい(民927条〜932条)。弁済の順序:①先順位の相続債権者(優先順位のある債権)→②一般の相続債権者→③受遺者の順で弁済。配当弁済の計算(相続財産が全債務・受遺額を弁済するに足りない場合の按分計算)も複雑な手続が必要。
- オ: 誤り(正答)。民921条3号の単純承認転化事由。限定承認した後であっても、相続財産を隠匿した場合は単純承認に転化し、自己固有財産でも相続債務を弁済しなければならなくなる(限定承認のメリットが消滅)。ただし「善意で相続財産を固有財産に混入して処分した場合」は転化しないという例外(同号ただし書)がある。
【根拠条文】
民法 第922条(限定承認)、第923条(共同申述要件)、第915条第1項(熟慮期間)、第921条第3号(相続財産隠匿等による単純承認転化)、第927条(弁済のための公告・催告)
【補足】
限定承認は共同相続人全員が共同申述(民923条)。相続財産の隠匿等で単純承認に転化(民921条3号)。弁済順序(民929条〜932条)も試験範囲。単純承認(全承継)・限定承認(財産限度)・相続放棄(全否定)の3類型の比較理解が重要。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 民法 第922条(限定承認)、第923条(共同相続人の限定承認)、第924条(限定承認の申述)、第921条(単純承認の効果) 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。