行政書士 民法 問45:同時履行の抗弁・危険負担
AはBとの間で甲土地の売買契約を締結した(代金500万円・引渡日2026年7月1日)。同時履行の抗弁権および危険負担に関する次のア〜オの記述のうち、**誤っているもの**はどれか(現行民法に基づいて答えること)。
- アAがBに甲土地を引き渡さないうちに、BはAに代金を支払わなければならないわけではなく、Bは同時履行の抗弁権を行使して支払いを拒むことができる。
- イ同時履行の抗弁権が存在する場合でも、AはBに対して代金支払いを訴求することができ、裁判所は「Bの甲土地引渡と引換えに」Aに代金を支払えという引換給付判決を出すことができる。
- ウ双方の帰責事由なく甲土地が滅失した場合、Bは反対給付(代金支払い)の履行を拒絶することができる。
- エ双方の帰責事由なく甲土地が滅失した場合、Bは反対給付(代金支払い)の義務を当然に免れる。正答
- オAがBに対して同時履行の抗弁権を行使された場合、AはBに対する代金債権の消滅時効の完成を阻止するために、引渡しをするか代金支払いの訴訟を提起する必要がある。
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現行民法(2020年改正後)の危険負担制度では、双方の帰責事由なく目的物が滅失した場合、債権者(B)は「反対給付の履行を拒絶することができる」(536条1項)と規定されます。これは拒絶権(選択権)であり、当然に代金支払い義務が消滅するわけではありません。よってエ「当然に免れる」は誤りです。ウは「履行を拒絶することができる」として正しい。旧法(旧534条の債権者主義)では特定物の場合に債権者が危険を負担して代金を支払う義務を負っていましたが、現行法では拒絶権として整理されました。ア・イ(同時履行の抗弁)・オについては各々正しい記述です。
エが誤りの根拠は現行民法536条1項の文言です。同条は「当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる」と規定します。「拒むことができる(拒絶権の付与)」であり、「当然に免れる(代金支払い義務の自動消滅)」ではありません。Bが代金支払いを免れたいなら、拒絶権を行使するか、または解除(542条1項1号・全部不能の無催告解除)をする必要があります。ウはこの拒絶権を正しく表現しており正しい。アは533条の同時履行の抗弁権として正しい(売買契約の目的物引渡と代金支払いは同時履行の関係)。イは同時履行の抗弁権が存在する場合でも相手方は給付を訴求できるが、裁判所は引換給付判決(「○○の引換えに代金を支払え」)を下すという民事訴訟実務として確立した扱いで正しい。オについて、同時履行の抗弁権が存在する場合は「同時履行の状態にある限り時効は進行しない(権利行使が不可能な状態)」という解釈もありますが、実務上は時効中断のための対応が必要な場合もあるため、適切な対応を促す記述として誤りとはいえません(各選択肢の中でエが最も明確な誤り)。
【理論的背景】
2020年改正前の民法(旧法)では、危険負担について「特定物の売買では、目的物の支配(占有)移転前であっても、特定した時点から買主(債権者)がリスクを負う(旧534条の債権者主義)」という規律がありました。これは特定物の引渡前に滅失した場合でも買主が代金を支払わなければならないという極めて不合理な結論をもたらし、批判が強い規定でした。現行法はこれを廃止し、536条1項として「双方帰責事由なき不能→債権者の反対給付履行拒絶権(選択権)」という形に変更しました。「拒絶権(選択権)」という構成は、Bが代金支払いを望めば引き続き義務を負い(AはBに代金を請求できるが給付がない状態)、拒絶するか解除すれば代金支払い義務を免れるという弾力的な制度設計です。
【条文構造の精密な理解】
- 533条: 同時履行の抗弁権→双務契約の当事者は相手方が履行または提供をするまで自己の債務の履行を拒絶できる(同時履行関係にある債務の典型は売買の代金と目的物引渡)。
- 536条1項: 当事者双方帰責事由なき不能→債権者は反対給付の履行を拒絶できる(拒絶権・エが誤りの根拠)。
- 536条2項: 債権者帰責事由による不能→債務者は反対給付請求権を失わない(債権者が代金を支払うべき義務を負い続ける)。
- 542条1項1号: 全部履行不能の場合の無催告解除。Bが代金支払い義務を完全に消滅させたいなら、拒絶権行使だけでなく解除をすることが確実。
旧534条(特定物の債権者主義)は削除済み。「特定物の売買で目的物滅失でも買主が代金を支払う義務がある」という旧論点は現行法では誤り(旧論点ブラックリスト)。
【試験での位置づけ】
行政書士試験における本論点の典型的な出題パターンは、(a)危険負担の現行規律(拒絶権であり義務の自動消滅ではない・エのような誤りを問う問題)、(b)旧534条(債権者主義)の廃止の確認、(c)同時履行の抗弁権の要件と効果(533条)、(d)引換給付判決の実務(イのような記述)の4点です。特に(a)の「拒絶権 vs 自動消滅」の区別は改正前後で制度の性格が変わっているため、現行法ベースでの正確な理解が重要です。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 正しい。533条の同時履行の抗弁権。双務契約(売買)において、一方が履行提供するまで他方は自己の履行を拒絶できる(「同時に」の担保)。代金先払いの合意がない限り、甲土地引渡と代金支払いは同時履行関係にある。
- イ: 正しい。同時履行の抗弁権があっても訴訟提起は妨げられず、被告が抗弁権を主張した場合に裁判所は引換給付判決(「○○と引換えに支払え」)を下す。これは民事訴訟の確立した実務(533条の訴訟法的効果)。
- ウ: 正しい。536条1項の「反対給付の履行を拒む(拒絶権)」。Bは代金支払いを拒絶することを選択できる(義務が自動消滅するわけではない)。
- エ: 誤り(正答)。「当然に免れる」が誤り。536条1項は「拒むことができる」(拒絶権の付与)。Bが拒絶の意思表示をしなければ、代金支払い義務は依然として存在する。代金支払い義務を完全に消滅させるには解除(542条1項1号)が必要。
- オ: 基本的に正しい方向性。同時履行の状態にある限り「権利を行使することができない」状態として時効が進行しないという解釈(権利行使の障害・166条の解釈問題)もあるが、実務上は時効管理のために引換給付訴訟提起等が推奨される。選択肢中で最も明確な誤りはエ。
【根拠条文】
民法 第533条(同時履行の抗弁権)
民法 第536条第1項(危険負担・双方帰責なき不能の場合の拒絶権)
民法 第536条第2項(債権者帰責事由による不能・反対給付請求権の維持)
民法 第542条第1項第1号(全部不能の無催告解除)
【参照判例】
(同時履行の抗弁が認められる場合に引換給付判決を下す扱いは確立した民事訴訟実務。本問は条文・実務問題として整理)
【補足】
旧534条(特定物の債権者主義)は廃止。「特定物の売買において目的物滅失前から買主が危険を負担する」という旧論点は現行法では誤り。危険負担は「拒絶権(選択権)」であり「義務の自動消滅」ではない点が最重要。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 民法 第533条・第536条 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。