行政書士 民法 問56:共同不法行為・719条
A・B・Cの3人が共謀して、DがE所有の自動車に乗っていたところを暴行し、DとEに損害を与えた。共同不法行為(民法719条)に関する次のア〜オの記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- アA・B・Cは共同して不法行為をしたが、それぞれが独自に与えた損害の範囲内でのみ賠償責任を負う(分割責任)。
- イ共同不法行為者A・B・CはDおよびEに対して連帯して損害賠償責任を負うが、各自の責任の割合は損害への寄与の程度に応じて異なる。
- ウ共同不法行為において、A・B・Cのうちの誰が実際に損害を与えたか特定できない場合でも、全員が連帯して賠償責任を負う場合がある。正答
- エDはA・B・Cの一人(例えばA)に対して損害賠償債権を行使して弁済を受けた場合、B・Cに対する損害賠償請求権は当然に消滅する。
- オA・B・Cが共謀していない場合(独立した別個の不法行為)には、民法719条の共同不法行為は成立せず、各自は自己の行為に起因する損害についてのみ責任を負う。
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ウが正しい記述です。民法719条1項後段は「共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする」として、損害の因果関係が特定の行為者に帰属しない場合でも、共同行為者全員が連帯して賠償責任を負うと規定します(加害者不明の場合の共同不法行為)。アは誤りで、共同不法行為者は「連帯して」賠償責任を負い(分割責任ではない)、各自が全損害について責任を負います。イは誤りで、連帯責任の「外部的関係」では各自が全損害について責任を負い、寄与の程度による責任割合の異差は「内部的関係(求償)」の問題です。エは誤りで、Aへの請求(弁済の受領)がDのB・Cへの請求権を当然に消滅させるわけではなく、現実の弁済(全額)があれば消滅します(一部弁済の場合はその限度でのみ消滅)。オは誤りで、共謀がなくても「行為の関連共同性」があれば共同不法行為が成立する場合があります(判例)。
ウが正しい理由を719条1項の構造で確認します。719条1項前段「数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う」として共同不法行為の連帯責任を定め、同項後段「共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする」として「加害者不明の共同不法行為」(択一的競合・加害者が特定できない場合)にも連帯責任を認めます。ウはこの後段規定の趣旨を正確に表現しており正しい。アについて、連帯責任(外部的連帯)の原則として各自が全損害について責任を負います(分割責任ではない)。不真正連帯債務として、各自の全額支払義務と他の共同不法行為者への内部的求償を予定しています。イについて、外部的関係では寄与の程度による責任割合の差異はなく各自が全損害について責任を負います(ただし内部的求償では寄与割合に応じた按分が認められる)。エについて、Aがある程度弁済した場合には「その限度」でD・B・Cへの請求権が減少しますが、Aへの請求(訴え提起等)だけではB・Cへの請求権は消滅しません。オについて、判例は「共謀なしでも各人の行為が客観的に関連共同している場合(関連共同性)」に719条1項前段を適用する場合があります(強い関連共同・弱い関連共同の区別)。
【理論的背景】
共同不法行為(民法719条)は、複数の加害者が不法行為に関与した場合の連帯責任を定める制度です。制度の理論的根拠は、(1)被害者が各人の寄与度を証明する困難性を緩和する(因果関係の立証緩和)、(2)共同の危険を作り出した行為者全員に連帯した責任を負わせることが衡平に適う(連帯責任による被害者救済)にあります。判例は「共謀」を要件とせず、行為の「関連共同性」(客観的・主観的な関連性)があれば719条1項前段が適用されると解しています。719条1項後段(加害者不明の共同不法行為)は、例えば「複数のハンターが同時に発砲し、そのうち誰の弾が当たったか不明の場合」などに適用されます(択一的競合・Hunter's caseモデル)。この規律は加害者特定の困難という証明上の問題を被害者有利に解決するものです。
【条文構造の精密な理解】
- 719条1項前段: 共同不法行為の連帯責任(数人が共同の不法行為→各自連帯責任)。
- 「共同」の意味:共謀不要、客観的な関連共同性(行為が時間的・場所的・内容的に関連している)で足りるとする判例。
- 「連帯して」:不真正連帯債務(各自が全損害について責任・内部では求償で調整)。
- 719条1項後段: 加害者不明の共同不法行為(択一的競合)→共同行為者全員が連帯責任。
- 719条2項: 教唆者・幇助者→共同行為者とみなされ、同様の連帯責任。
内部的求償(719条1項の連帯責任者間の求償)については、各人の寄与の程度・過失の程度を考慮した按分で求償額を決定(実務上)。
【試験での位置づけ】
行政書士試験における共同不法行為の典型的な出題パターンは、(a)連帯責任(分割責任ではない・アのような誤りを問う問題)、(b)加害者不明の場合の連帯責任(719条1項後段・ウのような問題)、(c)教唆・幇助者の責任(719条2項)、(d)共謀不要の関連共同性(オのような誤りを問う問題)の4パターンです。特に(a)と(b)は行政書士試験頻出であり、「分割責任」という誤概念と「因果関係不明でも全員連帯」という正しい規律を区別することが重要です。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 誤り。共同不法行為者は「連帯して」(不真正連帯・各自が全損害について責任を負う・719条1項)。分割責任(各自の寄与分のみの責任)は共同不法行為には採用されていない。
- イ: 誤り。外部的関係では各自が全損害について連帯責任(損害への寄与の程度に関わらず)。「寄与の程度に応じて異なる」のは内部的求償の問題(各共同不法行為者間での最終的な費用分担)であり、被害者への外部的責任は全額連帯。
- ウ: 正しい(正答)。719条1項後段の規律。加害者が複数いるが誰の行為が損害を与えたか特定できない場合(加害者不明・択一的競合)でも、共同行為者全員が連帯責任を負う。被害者の立証困難を緩和する重要規定。
- エ: 誤り。連帯責任(不真正連帯)の外部的関係では、Aへの請求・Aによる弁済の額に応じてB・Cへの債権が減少しますが、「Aへの請求(弁済でなく訴え提起等)」だけでB・Cへの債権が消滅するわけではない。全額弁済があれば全額消滅、一部弁済はその分のみ減少。
- オ: 誤り。判例は共謀(共同意思)を要件とせず、「客観的な関連共同性」があれば719条1項前段の適用を認める(強い関連共同・弱い関連共同の区別。弱い関連共同の場合は要件が緩和され、被害者に有利な連帯責任が認められる)。共謀がなければ719条が成立しないという見解は判例上採用されていない。
【根拠条文】
民法 第719条第1項前段(共同不法行為の連帯責任)
民法 第719条第1項後段(加害者不明の共同不法行為・択一的競合)
民法 第719条第2項(教唆者・幇助者の連帯責任)
【参照判例】
共同不法行為(719条1項前段)の「共同」は主観的共謀を要せず、各行為に客観的関連共同性があれば足りるとするのが判例・通説(山王川事件・最判昭和43年4月23日・民集22巻4号964頁参照)。
【補足】
「連帯責任=各自が全損害について責任」(分割責任ではない)、「加害者不明でも全員連帯(719条1項後段)」、「共謀不要・関連共同性で足りる(判例)」の3点が試験で繰り返し問われる核心論点。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 民法 第719条 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。