行政書士 民法 問69:遺産分割
遺産分割に関する次のア〜オの記述のうち、現行民法の規定に照らして**正しいもの**はどれか。
- ア被相続人は、遺言で、最長10年間にわたって遺産分割を禁止することができる。
- イ共同相続人は、いつでも遺産分割の協議を請求することができ、被相続人が禁止した場合でも直ちに家庭裁判所に請求できる。
- ウ遺産分割の協議は、共同相続人全員の合意が必要であり、相続人の1人でも反対すれば協議は成立しない。正答
- エ家庭裁判所が遺産分割の審判をする場合、法定相続分に従った分割のみが認められ、具体的な事情に応じた裁量的分割はできない。
- オ遺産に属する預貯金は、遺産分割が成立するまでの間、各相続人が法定相続分に応じて当然に取得するため、金融機関から単独で払い戻すことができる。
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本問は「正しいもの」を選ぶ問題で、正答はウです。遺産分割の協議は共同相続人全員の合意によって成立し、一人でも反対すれば協議は成立せず家庭裁判所の調停・審判に移行します(民法907条1項)。アは誤りで、被相続人が遺言で遺産分割を禁止できる期間は「相続開始の時から5年を超えない期間」であり、最長5年です(民法908条1項)。「10年」は誤った数字です。
正答はウです。民法907条1項は「共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部または一部の分割をすることができる」と規定します。協議は全員合意が必要であり、一人でも反対すれば成立しません。反対がある場合は家庭裁判所に調停・審判を申し立てることになります。
各選択肢を確認します。ア(誤り):民法908条1項は「被相続人は、遺言で、相続開始の時から5年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる」と規定します。最長は5年であり、「10年」とする本肢は誤りです。イ(誤り):被相続人が遺言で禁止した期間内は、相続人が勝手に分割協議を求めることはできません(民法907条1項括弧書き)。エ(誤り):家庭裁判所は審判において法定相続分に従う必要はなく、相続財産の状況・各相続人の事情を考慮した裁量的分割ができます(民法906条)。オ(誤り):最高裁大法廷決定(平成28年12月19日)は、預貯金債権は遺産分割の対象となり、遺産分割成立前は各相続人が当然に法定相続分を取得するわけではないと変更しました(旧判例を変更)。ただし民法909条の2により一定限度の払戻しは認められます。
【理論的背景】
遺産分割は、相続開始によって生じた共同相続人の共有状態(遺産共有)を解消し、各相続人に具体的な財産を帰属させる手続きです。民法は遺産分割の方法として、指定分割(遺言による)・協議分割(相続人全員の合意)・調停・審判による分割の四段階を定めています。2019年の相続法改正では、遺産分割前の預貯金払戻し制度(民法909条の2)が新設されました。これは最高裁大法廷決定(平成28年12月19日)が預貯金の可分性を否定し、全額が遺産分割対象になるとした判例変更に対応して、生活費・葬儀費用等のために一定額の払戻しを認めるためのものです。
【実務・条文構造】
遺産分割に関する主要条文を整理します。民法906条:遺産分割は相続財産の種類・性質、各相続人の年齢・職業・心身の状態・生活状況等を考慮して行う(裁量的分割の根拠)。民法907条1項:相続人はいつでも協議分割ができる(遺言による禁止がある場合を除く)。民法907条2項:協議が調わないとき・できないときは家庭裁判所に審判を申し立てられる。民法908条:被相続人は遺言で最長5年の分割禁止ができる。共同相続人も合意で最長5年の禁止協定を締結できる(2018年改正で追加)。民法909条:遺産分割は相続開始の時に遡って効力を生じる(遡及効)ただし第三者の権利を害することはできない。民法909条の2:各相続人は遺産分割前でも、標準的な当面の必要生計費・葬儀費用等を考慮した一定額(金融機関ごとに相続開始時残高の3分の1×法定相続分、ただし上限150万円)の払戻しができる。
【試験での位置づけ】
行政書士試験では、遺産分割の論点として「協議成立の要件(全員合意)」「遺産分割禁止の期間(5年以内)」「預貯金の取扱い(最高裁平成28年判例変更・払戻し制度の新設)」が頻出です。特に預貯金については、旧判例(「可分債権として相続開始時に当然分割取得」)と新判例(「遺産分割の対象となり当然取得しない」)の変更が重要な出題テーマです。また、遺産分割の遡及効(民法909条)と第三者保護の関係(第三者が登記等を具備していれば遡及効を対抗できない)も押さえておく必要があります。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 誤り。民法908条1項が根拠。遺言による遺産分割禁止は「相続開始の時から5年を超えない期間」であり、最長5年。本肢の「10年」は誤った数字(共同相続人間の分割禁止契約も最長5年・更新の場合も期間は5年以内)。なお相続開始から10年という数字は、民法904条の3(10年経過後は具体的相続分の主張不可)と混同させる狙いがある。
- イ: 誤り。民法907条1項は「次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き」と明記しており、遺言による分割禁止がある場合は禁止期間内に分割協議を求めることはできない。
- ウ: 正しい(正答)。協議は全員合意によって成立する。一人でも拒否すれば協議は成立せず、家庭裁判所への申立てが必要となる。共同相続人が多数いる場合(養子・非嫡出子が多い場合等)には実務上も重要な論点。
- エ: 誤り。民法906条が裁量的分割の根拠となっており、家庭裁判所は相続人の生活状況等を考慮した柔軟な分割ができる。法定相続分に拘束されるわけではない。
- オ: 誤り。最高裁大法廷決定(平成28年12月19日)が預貯金の当然分割取得を否定した。民法909条の2の払戻し制度(上限150万円・金融機関ごと)があるが、全額の単独払戻しはできない。
【根拠条文】
民法 第906条(遺産分割の基準)、第907条第1項(協議分割)、第908条(分割の禁止)、第909条(遺産分割の遡及効)、第909条の2(遺産分割前の預貯金の払戻し)
【参照判例】
最高裁大法廷決定 平成28年12月19日(預貯金は遺産分割対象・旧判例変更)
【補足】
預貯金の判例変更(平成28年)と払戻し制度(民法909条の2・2019年施行)はセットで押さえること。遺産分割禁止の「最長5年」は数字の正確な記憶が必要。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 民法 第906条・第907条・第908条・第909条・第909条の2 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。