登録販売者 第3章 主な医薬品とその作用 問101:主な医薬品とその作用(胃の薬)
胃粘膜の保護・修復を目的とした成分に関する次のア〜オの記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- アスクラルファートは胃酸によって重合・粘性化し、潰瘍部位の粘膜に選択的に付着して保護膜を形成することで胃粘膜を保護する成分であり、胃液中でアルミニウムイオンを放出するため腎臓病の人への注意が必要である。
- イアズレンスルホン酸ナトリウムはカモミール(カミツレ)から得られるアズレンを水溶性にした成分であり、胃粘膜の炎症を抑えて修復を促進する目的で配合される抗炎症成分である。
- ウメチルメチオニンスルホニウムクロリド(MMSC)はビタミンUとも呼ばれ、胃粘膜の新陳代謝を高めて活性化・修復を促進する目的で配合される成分であり、キャベツに多く含まれる。
- エテプレノンはプロスタグランジン(PGE₂)の産生を直接阻害することで胃酸分泌を抑制し、胃粘膜を保護する成分である。正答
- オゲファルナートは防御因子増強型の胃粘膜保護成分であり、胃粘膜を覆う粘液の産生を促進することで攻撃因子(胃酸)から胃壁を守る目的で配合される。
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正答はエ(誤っているもの)です。
テプレノンはプロスタグランジン産生を阻害するのではなく、促進することで胃粘膜を保護します。プロスタグランジン(特にPGE₂)は胃粘膜の防御因子(粘液分泌促進・粘膜血流増加・重炭酸塩分泌促進)を高める物質であり、テプレノンはこの産生を促進することで胃壁を守ります。「直接阻害してPGを減らす」という記述が誤りです。
ゴロ:「テプレノン=プロスタグランジンを増やして胃を守る(NSAIDsとは逆の方向)」
胃粘膜保護・修復成分の比較表:
| 成分 | 分類 | 主な作用機序 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| スクラルファート | 防御因子増強・物理的保護 | 胃酸でゲル化→潰瘍面に保護膜形成 | Alイオン放出→腎臓病注意。Al含有 |
| アズレンスルホン酸Na | 抗炎症・修復促進 | 胃粘膜炎症抑制・修復促進 | カモミール由来。一般に安全 |
| メチルメチオニンスルホニウム(MMSC) | 細胞活性化・修復 | 胃粘膜細胞の新陳代謝促進 | ビタミンU別名。キャベツ含有 |
| テプレノン | 防御因子増強 | PGE₂産生促進→粘液分泌増加・粘膜血流増加 | PGを増やす(阻害ではない) |
| ゲファルナート | 防御因子増強 | 粘液産生促進・胃粘膜保護因子増強 | 防御因子増強系 |
各選択肢の解説:
- ア(正): スクラルファートは酸性条件下(胃内pH <3)で活性化し、重合した構造が潰瘍・炎症部位の粘膜タンパク(フィブリン・アルブミン)と結合して選択的保護膜を形成します。アルミニウム塩複合体であるため、腎機能低下者ではAlイオン蓄積のリスクがあります。
- イ(正): アズレンスルホン酸ナトリウムはカモミール由来のアズレン(抗炎症活性を持つセスキテルペン)を水溶性に改良した成分です。胃粘膜の炎症を抑制し、粘膜修復を促進する目的で配合されます。
- ウ(正): MMSCは胃粘膜細胞のメチル化反応・核酸合成・タンパク合成を促進することで細胞の新陳代謝を高め、粘膜修復を助けます。「ビタミンU(Ulcer防止のU)」の別名があり、キャベツに豊富に含まれることが知られています(キャベジン由来の名前)。
- エ(誤・正答): テプレノンは胃粘膜のプロスタグランジン(特にPGE₂)産生を促進します。PGE₂は粘液分泌・粘膜血流増加・重炭酸塩分泌を刺激して胃粘膜の防御能を高めます。「プロスタグランジン産生を直接阻害する」という記述は全く逆であり誤りです。NSAIDs(解熱鎮痛薬)がCOX阻害によりPGを減らして胃粘膜障害を引き起こすのとは対照的な作用方向です。
- オ(正): ゲファルナートは胃粘膜の防御因子(粘液・ムコ多糖・PGE₂産生)を増強することで、攻撃因子(胃酸・ペプシン)から粘膜を保護します。
【胃粘膜防御機構の詳細と各保護成分の薬理機序】
胃粘膜保護の「攻撃因子と防御因子」の概念:
胃は自身が産生する胃酸(HCl, pH 1〜2)・ペプシン(タンパク分解酵素)という強力な攻撃因子によって本来傷つけられる危険にさらされています。胃粘膜が傷つかないのは、防御因子(粘液層・重炭酸塩・粘膜血流・細胞再生能)が攻撃因子を凌駕しているためです。
防御因子の構成:
1. 粘液層(主成分:ムチン糖タンパク質):H⁺の胃壁への直接接触を物理的に阻止。厚さ約500μm
2. 重炭酸塩(HCO₃⁻)分泌:粘液層内でH⁺を中和(局所pH緩衝)。表面上皮細胞が分泌
3. 粘膜血流:防御因子の補給・攻撃因子の除去。プロスタグランジンが重要な調節因子
4. 細胞再生能:上皮細胞の速い交替(3〜4日周期)により傷害細胞を置換
スクラルファートの作用機序詳細:
スクラルファートはスクロースオクタサルフェート(オクタ硫酸ショ糖)とアルミニウム水酸化物の複合体です。
胃内での活性化:
1. 胃酸(pH <4)によりスクロースオクタサルフェートが遊離
2. 陰電荷を持つスクロースオクタサルフェートが潰瘍底・炎症部位の陽電荷を持つアルブミン・フィブリン(壊死組織)と静電的に結合
3. 複合体がゲル状保護膜を形成→粘液層を代替し胃酸・ペプシンへの物理的バリア
追加の防御増強:スクロースオクタサルフェートはEGF(上皮成長因子)を潰瘍部位に濃縮させる作用があり、粘膜再生を促進するとも言われています。
Alイオンのリスク:スクラルファートから遊離するAl³⁺は一般に消化管から吸収されにくいですが、腎機能低下者や大量・長期使用では蓄積リスクがあります(水酸化アルミニウムゲルと同様の懸念)。
テプレノンの作用機序詳細(なぜPGを増やすか):
テプレノンは五環性テルペン化合物(ゲラニルゲラニオール誘導体)で、以下の防御因子増強作用を持ちます:
1. PGE₂産生促進:シクロオキシゲナーゼ(COX-1)活性を促進・アラキドン酸→PGE₂の産生を高める(NSAIDsのCOX阻害とは逆方向)
2. 胃粘液分泌増加:PGE₂→上皮細胞のMUC5ACムチン発現促進→粘液層の量・質の向上
3. 粘膜血流増加:PGE₂による血管拡張→防御因子の供給改善
4. 熱ショックタンパク質(HSP70)の誘導:HSP70が粘膜細胞をストレス(酸・胆汁)から保護
テプレノンは「NSAIDsによる胃粘膜障害の予防・治療」にも使われる文脈があり、NSAIDsがCOXを阻害してPGを減らすのに対し、テプレノンはCOXを促進してPGを増やすという真逆の機序です。
アズレンスルホン酸ナトリウムの抗炎症機序:
アズレン(azulene)は天然植物(カモミール精油:カマズレン・グアイアズレン)から得られる7員環を持つ青色の芳香族化合物です。アズレンスルホン酸ナトリウムはアズレンにスルホン酸基を導入した水溶性誘導体です。
抗炎症機序:
- 好中球の活性酸素産生(スーパーオキシド)を抑制
- ヒスタミン遊離抑制
- プロスタグランジン産生の一部抑制(弱い)
胃粘膜への作用:炎症性サイトカイン産生抑制→粘膜炎症の軽減→上皮再生環境の改善。
MMSCの分子機序:
メチルメチオニンスルホニウムクロリド(MMSC、S-methylmethionine)は活性型メチオニン誘導体で、反応性の高いメチル基(-CH₃)を様々な生体分子に供与します(メチル供与体)。
胃粘膜への作用:
- 核酸(DNA・RNA)・タンパク合成に必要なメチル基を供給→細胞増殖促進
- 胃粘膜の荒れた上皮細胞(核酸合成不全の細胞)へのメチル基補給→修復
- ムチン(糖タンパク)のメチル化→粘液の性状維持
登録販売者としての胃薬成分の理解:
消費者が「胃薬が効かない」と訴える場合、原因を「攻撃因子の過剰」と「防御因子の不足」に分けて考えることが実務上有用です。防御因子増強型(スクラルファート・テプレノン・ゲファルナート・MMSC)と攻撃因子抑制型(制酸成分・H₂ブロッカー)を組み合わせた配合製品が市場には多数存在します。どちらの成分群が主体かを把握することで、症状(胃酸過多型 vs 胃粘膜障害型)に応じた適切な製品の案内が可能になります。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(各都道府県が公表する試験問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 厚生労働省「試験問題の作成に関する手引き」(令和8年4月版)第3章 第4節「胃の薬」 厚生労働省「試験問題の作成に関する手引き」(2026版相当)に準拠し、章節を明記しています。