衛生管理者 関係法令(有害業務以外) 問37:労働基準法
産前産後休業に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア使用者は、6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合、その者を就業させてはならない。
- イ産前休業は、出産が予定日より早まった場合でも、予定日から起算して6週間前の時点から休業を開始していれば問題はない。
- ウ産後休業の8週間については、産後6週間を経過した女性が就業を請求し、医師が支障がないと認めた業務については就業させることができる。
- エ産前産後休業期間中は、使用者は賃金を支払わなければならない。正答
- オ産前産後休業を取得した女性の雇用保険上の取扱いとして、産前産後休業中は雇用保険料の支払い義務はないが、健康保険・厚生年金の保険料については免除の申請が必要である。
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誤りはエです。産前産後休業中の賃金支払い義務は、労働基準法上は使用者に課されていません。産前産後休業は無給が原則であり(就業規則等で有給としている企業は別)、健康保険から「出産手当金(標準報酬日額の3分の2相当)」が支給されます。「使用者は賃金を支払わなければならない」という断言は誤りです。
ア(産前6週間・多胎14週間は本人請求で就業不可)、イ(予定日より早まった場合の産前休業の取扱い)、ウ(産後6週間後の医師許可就業・kankei_19で扱った論点)、オ(産前産後休業中の社会保険料の免除)はいずれも正しい記述または適切な解釈です。
産前産後休業の全体像(労基法第65条):
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): 労基法第65条第1項の通り。産前休業は「女性の請求」が前提であり、請求があった場合に使用者は就業させることができません(本人が働きたければ働ける制度・本人請求が条件)。多胎妊娠は14週間前から保護されます。
- イ(正): 産前休業の「6週間」は実際の出産日を基準として遡及して計算されます(予定日より早まった場合でも、実際の出産前6週間が産前休業期間となります)。予定日から計算して取得開始していれば問題ありません(結果として実際の出産前6週間を下回ることはない)。
- ウ(正): kankei_19で扱った論点の通り。産後6週間後の医師許可就業は労基法第65条第2項ただし書によって認められます。
- エ(誤): 産前産後休業中の賃金支払い義務は使用者には課されていません。健康保険から出産手当金(標準報酬日額の3分の2×休業日数)が支給されます(健康保険法第102条)。企業によっては就業規則で有給扱いとしているケースもありますが、労基法上の義務はありません。
- オ(正): 産前産後休業中の社会保険料(健康保険・厚生年金)の免除は、事業主が「産前産後休業取得者申出書」を年金事務所等に提出することで適用されます(申請が必要)。雇用保険料については産前産後休業中は雇用保険の加入資格は維持されますが、実際に給与が支払われない期間は保険料徴収の対象とならない場合があります(オの記述は一部複雑ですが「免除申請が必要」という部分は正しい)。
【理論的背景】
産前産後休業中の所得保障は、労働基準法ではなく社会保険制度(健康保険・雇用保険)によって担保されています。労基法は「休業させること(または就業させないこと)の義務」を定めますが、「その期間の賃金を使用者が支払う義務」は定めていません。
この設計の背景には:
1. 中小企業を含む全事業者に産前産後休業中の賃金支払い義務を課すとコストが大きすぎる
2. 社会全体でリスクを分担する社会保険制度の方が持続可能
3. 育児休業(育介法)と同様の設計(育休中も使用者の賃金支払い義務なし→雇用保険から給付)
という政策的判断があります。
産前休業の「本人請求制」の意義(選択肢ア):
産前休業が「本人の請求があった場合」に就業禁止となる設計は、「妊娠中であっても本人が希望すれば働ける」という自律性の尊重です。産後休業(産後8週間・一部を除き絶対的禁止)とは設計が異なります。
【実務・条文構造】
産前産後休業に関わる所得保障制度の全体像:
【産前産後休業期間中(産前42日〜産後56日)】:
- 出産手当金(健康保険法第102条):
- 支給額: 標準報酬日額×3分の2×休業日数
- 支給条件: 被保険者(健康保険加入者)であること・賃金が支払われていないか出産手当金額より低い場合
- 社会保険料免除(健保・厚年):
- 申請: 事業主が「産前産後休業取得者申出書」を提出
- 免除期間: 産前産後休業期間中
【育児休業期間中(育介法に基づく休業中)】:
- 育児休業給付金(雇用保険):
- 支給額: 育休開始180日以内は給付率67%・以降50%
- 支給条件: 雇用保険加入・所定の受給要件を満たす
- 社会保険料免除(健保・厚年):
- 申請: 育児休業中も別途申請が必要
業務上の傷病による休業との比較(労基法第76条の休業補償):
- 業務上傷病(労災): 平均賃金の60%を使用者が支払う義務(労基法第76条)→労働者災害補償保険から代替給付
- 産前産後休業: 使用者の賃金支払い義務なし→健康保険から出産手当金
産前産後休業の「6週間」の計算:
- 原則: 出産予定日を含む週の6週間前の最初の日から
- 実際の出産が予定日より早まった場合: 実際の出産日の6週間前を遡って産前休業期間とする(予定日ベースで取得開始していれば適法)
- 実際の出産が予定日より遅れた場合: 予定日から実際の出産日まで産前休業が延長される
【試験での位置づけ】
産前産後休業問題では「産前休業は本人請求が前提(絶対的禁止ではない)」「産後8週間は原則絶対的禁止(産後6週間後は医師許可例外あり)」「休業中の賃金支払い義務は使用者になし(健康保険から出産手当金)」「社会保険料免除には申請が必要」の4点が頻出です。本問のエ(使用者の賃金支払い義務あり→誤)は最頻出の誤りパターンです。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 「産前6週間以内に出産する予定の女性が請求した場合」という条件付きの休業義務は、本人が働きたい場合に強制的に休ませないという観点から「本人請求制」になっています。妊娠末期でも健康な場合は本人の意思で働き続けることができます(医学的・本人の判断を尊重)。
- イ: 出産が予定日より早まった場合の産前休業期間(実際の出産前6週間)の計算は、「予定日から6週間前に休業開始した場合、実際には出産前6週間より長い産前休業になる可能性がある」という実態があります。いずれにせよ「予定日ベースで6週間前から取得」は適法な休業取得です。
- ウ: kankei_19で扱った内容。産後6週間後の就業(医師許可条件)は産後の回復個人差に対応した規定です。
- エ: 正答の誤り。出産手当金(健康保険)が支給される仕組みを理解することで「使用者の賃金支払い義務がない」理由が明確になります。なお出産手当金が支給されない被保険者でない場合(非正規・短時間労働者等)は保障が薄くなるため、別途の制度(出産育児一時金等)が設けられています。
- オ: 社会保険料免除の「申請が必要」という点は実務上重要です。申請しなければ免除されません。申請を忘れると産前産後休業中も保険料が徴収され続けます。
【根拠法令】労働基準法 第65条第1項(産前6週間・多胎14週間・本人請求が条件)・第65条第2項(産後8週間・絶対的禁止・6週間後の医師許可例外)、健康保険法 第102条(出産手当金:標準報酬日額の2/3)、健康保険法・厚生年金保険法(産前産後休業中の保険料免除:申請が必要)
【補足】産前産後休業中の賃金支払い義務は使用者にない(健康保険から出産手当金が支給される)。社会保険料免除には事業主からの申請が必要。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 労働基準法(労基法)第65条(産前産後休業)・第76条(休業補償)、健康保険法・厚生年金保険法(産前産後休業中の保険料免除制度)。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。