衛生管理者 関係法令(有害業務以外) 問68:労働基準法
労働契約の締結と労働条件の明示に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金・労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。
- イ使用者が労働契約の締結に際し明示すべき事項のうち、賃金・労働時間等の主要な労働条件については書面(または電子的方法)による明示が義務付けられている。
- ウ明示した労働条件が事実と相違する場合、労働者は即時に労働契約を解除することができる。
- エ使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について男性と差別的取扱いをしてはならない。
- オ労働基準法が定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その全部が無効となる。正答
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誤りはオです。労基法第13条は「この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする」と規定しています。無効となるのはその部分のみであり、労働契約全体が無効になるわけではありません。無効となった部分は「この法律で定める基準による」(最低基準で補完される)ため、労働者に不利な条件だけが自動的に法定基準に置き換えられます。「全部が無効」という記述が誤りです。
ア(労働条件明示義務)、イ(書面等による明示義務)、ウ(明示内容と相違時の即時解除権)、エ(男女同一賃金)はいずれも正しい記述です。
労働契約に関する労基法の規制:
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): 労基法第15条第1項により、使用者は労働契約の締結に際して賃金・労働時間その他の労働条件を明示する義務があります。
- イ(正): 労基則第5条第3項・第4項により、賃金・労働時間等の絶対的明示事項(賃金の決定・計算方法・支払方法・昇給に関する事項、始業・終業の時刻・時間外労働の有無等)は書面または電子的方法による明示が義務付けられています(2024年4月改正で電子的方法が明確化)。
- ウ(正): 労基法第15条第2項により、明示した労働条件が事実と相違する場合は、労働者は即時に(予告なしに)労働契約を解除することができます。これは通常の解雇予告義務(30日)の例外として労働者に認められた権利です。
- エ(正): 労基法第4条により、使用者は女性であることを理由とした賃金の差別的取扱いが禁止されています。同一業務・同一能力であれば男女同一賃金が原則です。
- オ(誤): 労基法第13条は「基準に達しない部分が無効」と規定しており、全部無効ではありません。不利な部分のみが無効となり、その部分は法定基準(最低賃金・法定労働時間等)に置き換えられます。
【理論的背景】
労働基準法第13条の「部分無効・法定基準補充」の規定は、労働契約の存続を前提として、労働者保護の最低基準を確保する仕組みです。もし「全部無効」であれば、不利な条件の一部が基準未達というだけで雇用契約全体が解除されることになり、かえって労働者が職を失うという不合理な結果になります。「不利な部分だけを無効にして法定基準で補充する」ことで、労働者の雇用継続と最低条件の保障を両立させています。
この「部分無効・補充」の仕組みは、民法の「公序良俗違反は無効(民法第90条)」と異なります。民法的には全部無効の可能性がありますが、労基法は労働者保護の特別法として「部分無効+補充」という独自の効力規定を置いています。
【実務・条文構造】
労働条件の明示義務の全体構造(労基法第15条・労基則第5条):
絶対的明示事項(書面等による明示が義務・労基則第5条第1項各号):
1. 労働契約の期間に関する事項
2. 期間の定めのある場合の更新の基準
3. 就業の場所・従事する業務の内容
4. 始業・終業の時刻・時間外労働の有無・休憩時間・休日・休暇
5. 賃金の決定・計算・支払方法・締切・支払時期・昇給に関する事項
6. 退職に関する事項(解雇事由を含む)
2024年4月施行の改正点:
- 有期労働契約の締結・更新時に「無期転換申込機会」と「無期転換後の労働条件」の明示義務が追加
- 就業場所・業務内容の「変更の範囲」の明示義務が追加
明示内容と相違した場合の労働者の権利(労基法第15条第2項):
- 労働者は即時に(予告なしで・帰郷費用の請求可能)労働契約を解除できる
- この権利は「解除権」であり行使するかは労働者の自由
- 通常の退職(自己都合)との違い: 解雇予告や解雇予告手当は問題にならない
男女同一賃金原則(労基法第4条)と均等法の関係:
- 労基法第4条: 「女性であることを理由」とした賃金差別の禁止(刑事罰あり)
- 均等法(男女雇用機会均等法): 採用・配置・昇進等の性差別禁止(行政上の是正指導)
- 民事的には均等法、刑事罰的には労基法第4条が機能
労基法違反の効力(第13条)の適用例:
- 最低賃金以下の賃金規定: 最低賃金額に自動補充
- 法定労働時間(8時間)超の所定労働時間規定: 8時間(または変形労働時間の枠内)に補充
- 年次有給休暇の日数が法定以下の規定: 法定日数に補充
【試験での位置づけ】
労働契約の「部分無効・法定補充」(第13条)は「全部無効」との混同が最頻出の誤りです。また「明示違反時の即時解除権」(第15条第2項)は「解雇予告の例外」として試験に登場します。2024年4月改正(有期契約の無期転換情報の明示義務・就業場所変更範囲の明示)は最新法改正として出題可能性があります。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 明示義務の対象は「締結に際して」であり、採用後の変更時にも改めての明示が必要です(変更の際の書面交付が実務上推奨されています)。
- イ: 2024年改正前は「書面による明示」のみでしたが、電子化推進の観点から「労働者が希望する場合は電子的方法(メール・電子書面)での交付が可能」となりました。
- ウ: 即時解除権の行使は実務上「事実と相違していた」ことの立証が必要です。口頭での説明内容と書面の相違、書面と実際の就業実態の相違等が問題になります。
- エ: 労基法第4条の「女性であることを理由」の解釈は、性別を直接の理由とした差別を禁止するものです。職種・業種の違いに基づく合理的な差異は違反になりませんが、「女性だから基本給を低く設定」等は明確な違反です。
- オ: 部分無効の考え方は「最低基準の確保と雇用継続の両立」という労基法の設計思想に基づきます。労働者にとって有利な条件(法定を上回る有給休暇・賃金等)は有効のまま維持されます。
【根拠法令】労働基準法 第13条(労基法違反の労働条件の効力・部分無効・法定基準補充)・第15条(労働条件の明示・即時解除権)・第4条(男女同一賃金)、労働基準法施行規則 第5条(絶対的明示事項の書面明示義務)
【補足】労基法基準に達しない部分のみ無効→法定基準に補充される(全部無効ではない)。明示条件と相違した場合は労働者が即時解除権を持つ。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 労働基準法(労基法)第13条(労基法違反の効力)・第15条(労働条件の明示)・第4条(男女同一賃金)・第14条(契約期間等)。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。