衛生管理者 労働生理 問58:腎臓
腎臓の電解質・体液調節に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア腎臓の糸球体は毛細血管の塊であり、血液中の水・電解質・小分子(グルコース・アミノ酸・尿素等)が濾過される(原尿の形成)。タンパク質や血球は通常は糸球体を通過しない。
- イ尿細管では原尿の成分が選択的に再吸収・分泌される。グルコースは近位尿細管でほぼ全量(99%以上)が再吸収され、健常者の尿にはグルコースが含まれない(血糖値が腎糸球体閾値を超えると尿糖が現れる)。
- ウアルドステロン(副腎皮質から分泌)は腎臓の遠位尿細管・集合管でのナトリウム(Na⁺)再吸収を促進し、カリウム(K⁺)排泄を促進する。これにより循環血液量の増加・血圧上昇に寄与する。
- エ腎臓はビタミンDの最終的な活性化(25-ヒドロキシビタミンD₃→1,25-ジヒドロキシビタミンD₃=カルシトリオール)を担い、カルシウムの腸管吸収を促進する。慢性腎臓病ではこの機能が低下し二次性副甲状腺機能亢進症(腎性骨異栄養症)が生じる。
- オ血液中の水素イオン濃度(pH)が低下(酸性に傾く)する酸血症(アシドーシス)のとき、腎臓は重炭酸イオン(HCO₃⁻)の排泄を増加させることで血液のpHを元に戻す(酸性化を防ぐ)。正答
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誤りはオです。「アシドーシスのとき腎臓はHCO₃⁻排泄を増加させてpHを元に戻す」という部分が誤りです。アシドーシス(血液が酸性に傾いた状態)では腎臓はHCO₃⁻を排泄するのではなく、再吸収を増加・新規産生することでアルカリ性を補い、血液のpHを正常化します。「HCO₃⁻排泄増加」はむしろアルカローシス(血液がアルカリ性に傾いた状態)のときに腎臓が行う代償反応です。
その他の選択肢は正しい内容です。糸球体の役割(ア・正)。グルコースの再吸収と腎糸球体閾値(イ・正)。アルドステロンのNa再吸収・K排泄促進(ウ・正)。腎臓でのビタミンD活性化・慢性腎臓病での骨異栄養症(エ・正)はいずれも正確です。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): 糸球体の選択的濾過: 分子量の小さい物質(水・尿素・グルコース・イオン・小分子タンパク)は通過。分子量の大きいタンパク質(アルブミン等)・血球は通常通過しない。1日の原尿量: 約150〜180L(血液量の約40〜50倍)。最終尿: 約1.0〜1.5L(99%が再吸収される)。
- イ(正): グルコースの腎処理: 糸球体で完全に濾過される→近位尿細管でSGLT(Na/グルコース共輸送体)によって再吸収。腎糸球体閾値: 血糖180〜200mg/dLを超えると再吸収能の上限を超え→尿糖が現れる(糖尿病の診断で尿糖検査の理論的根拠)。
- ウ(正): レニン-アンジオテンシン-アルドステロン(RAA)系のエフェクターとしてのアルドステロン: 腎血流低下→腎傍糸球体装置からレニン分泌→アンジオテンシノゲン→アンジオテンシンI→ACE(肺)→アンジオテンシンII(血管収縮+アルドステロン分泌促進)→遠位尿細管・集合管でNa再吸収↑・K排泄↑→循環血液量↑→血圧上昇。
- エ(正): ビタミンDの活性化過程: 皮膚で合成(コレカルシフェロール=ビタミンD₃)→肝臓で25位水酸化(25-OH-D₃=カルシジオール)→腎臓で1α位水酸化(1,25-(OH)₂D₃=カルシトリオール=活性型)。活性型ビタミンD₃→腸管のCa吸収促進・腎でのCa再吸収促進・副甲状腺ホルモン(PTH)産生抑制。慢性腎臓病(CKD)→腎の1α水酸化酵素活性低下→活性型ビタミンD低下→腸管Ca吸収低下→低カルシウム血症→PTH上昇(代償)→骨からCa動員→腎性骨異栄養症。
- オ(誤): 腎臓の酸塩基平衡の調節(最重要の腎機能の一つ): アシドーシス(血液pH低下・H⁺過剰)の場合、腎臓は: ①HCO₃⁻の再吸収を増加(尿からの排泄を減らす)②アンモニア産生を増加→NH₄⁺として余剰H⁺を尿に排泄③H⁺を尿細管に積極的に分泌。これらによりHCO₃⁻を体内に保持・H⁺を排泄→血液pHを正常に戻す。「HCO₃⁻排泄を増加」はアルカローシス(pH上昇・H⁺不足)のときの腎の代償反応と逆の記述です。
【理論的背景】
腎臓は「尿を作る臓器」としてだけでなく、「体内環境(恒常性)の守護者」として多面的な役割を担います。
腎臓の主要な機能(6大機能):
1. 老廃物排泄(尿素・クレアチニン・尿酸等)
2. 体液量・電解質の調節(Na・K・Cl・HCO₃⁻・Ca・P等)
3. 酸塩基平衡の調節(H⁺排泄・HCO₃⁻産生)
4. 血圧調節(レニン産生→RAA系)
5. 内分泌機能(エリスロポエチン産生→赤血球産生刺激・ビタミンD活性化)
6. グルコース新生(絶食時の糖新生)
酸塩基平衡の腎臓による長期調節(詳細):
- 1日に産生されるH⁺(非揮発性酸): 約50〜70mEq(食事由来)
- 肺による即時調節(CO₂排泄)と腎臓による長期調節(HCO₃⁻調節・H⁺排泄)の協調
アシドーシス時の腎臓の代償反応:
1. 近位尿細管でのHCO₃⁻再吸収増加(Carbonic anhydrase活性化)
2. H⁺の遠位尿細管への分泌増加(H-ATPase・H-K-ATPase)
3. アンモニア合成増加(グルタミン→グルタミナーゼ→グルタミン酸+NH₃→NH₄⁺として尿中排泄)
アルカローシス時の腎臓の代償反応:
- HCO₃⁻再吸収を減少(尿へのHCO₃⁻排泄増加)
- H⁺分泌を減少
Henderson-Hasselbalch方程式:
pH = 6.1 + log([HCO₃⁻] / (0.03 × PaCO₂))
- pHを上げる(アルカリ化): HCO₃⁻を増やすまたはPaCO₂を下げる
- pHを下げる(酸性化): HCO₃⁻を減らすまたはPaCO₂を上げる
慢性腎臓病(CKD)の多系統への影響:
| 機能 | CKD中等症〜重症での変化 | 症状・合併症 |
|---|---|---|
| 老廃物排泄 | 低下(GFR↓) | BUN・Cr上昇→尿毒症症状 |
| Na調節 | 低下(NaバランスX) | 浮腫・高血圧 |
| K調節 | 低下 | 高カリウム血症(致死的不整脈) |
| HCO₃⁻産生 | 低下 | 代謝性アシドーシス |
| ビタミンD活性化 | 低下 | 低Ca血症→二次性副甲状腺機能亢進症→骨病変 |
| エリスロポエチン | 低下 | 腎性貧血 |
【実務・条文構造】
慢性腎臓病(CKD)と職場の産業保健:
CKDの有病率と職場での管理:
- 日本のCKD患者数: 約1,330万人(成人の約8人に1人)
- 定期健康診断の腎機能検査(クレアチニン・eGFR): CKDの早期発見の機会
- CKDの就業上の注意: 過度の身体負荷・脱水(発汗による)・NSAIDs(常用で腎機能悪化)・造影剤使用後
高カリウム血症(CKD重症者)と就業安全:
- 高K血症→心室細動リスク→突然の意識消失→高所作業・精密機械操作・運転中の危険
- K制限食・カリウム除去剤(カリメート等)服用中の労働者の就業適性評価
CKDとワクチン:
- 免疫機能低下(特に透析患者)→インフルエンザ・肺炎球菌ワクチンの積極的接種推奨
- 透析患者のB型肝炎ウイルス感染リスク(針を使う医療的処置)→HBVワクチン必須
【試験での位置づけ】
腎臓の電解質・体液調節では「アシドーシス時の腎臓はHCO₃⁻を保持(再吸収増加)・H⁺を排泄増加でpHを正常化(HCO₃⁻を排泄増加はアルカローシスのときの逆方向)」「アルドステロン=Na再吸収促進・K排泄促進」「ビタミンD最終活性化=腎臓(慢性腎臓病で腎性骨異栄養症)」「糸球体:タンパク・血球は通さない・グルコースは再吸収」が最頻出です。
【各選択肢の発展補足】
- ア: ネフローゼ症候群では糸球体の選択的濾過機能が障害され、大量のタンパク(特にアルブミン)が尿中に漏れます(大量蛋白尿)。結果: 低アルブミン血症→膠質浸透圧低下→全身浮腫・高脂血症(アルブミン合成低下の代償として肝臓のリポタンパク合成増加)。小児では最小変化型ネフローゼ症候群が多く、ステロイドで治療可能。成人は原因が多様(膜性腎症・局所性分節性糸球体硬化症等)。
- イ: SGLT2(ナトリウム-グルコース共輸送体2)阻害薬は近年の2型糖尿病治療薬です。腎近位尿細管のSGLT2を阻害→グルコース再吸収を抑制→グルコースを尿中に排泄→血糖低下。副作用: 尿路感染症・性器真菌感染(グルコース尿による)・脱水。心血管保護・腎保護効果も示されています。
- ウ: 原発性アルドステロン症(PA)は副腎皮質からアルドステロンが過剰産生される疾患(二次性高血圧の最多原因)。アルドステロン過剰→Na貯留・K排泄過多→高血圧・低カリウム血症(脱力・筋けいれん・不整脈)。MRI・副腎静脈採血・アルドステロン/レニン活性比で診断。一側性(腺腫)は手術・両側性はスピロノラクトン(抗アルドステロン薬)。
- エ: カルシトリオール(活性型ビタミンD)は腸管からのCa吸収を400〜600%増加させます(受動拡散2〜5%に対して能動吸収が加わる)。CKD-MBD(慢性腎臓病に関連するミネラル・骨代謝異常)は透析患者の心血管石灰化・骨折の主要原因です。活性型ビタミンD補充・リン吸着剤(食事中のリンをtrappingする薬)・Ca・P管理がCKD-MBDの治療の柱です。
【根拠】医学的事実(確立した腎生理学)。アシドーシス時の腎臓はHCO₃⁻を保持(排泄増加ではなく再吸収増加・新規産生)してpH正常化に寄与すること・アルドステロンのNa再吸収・K排泄促進・腎臓でのビタミンD最終活性化は確立した知識。
【補足】アシドーシス時の腎臓:HCO₃⁻を保持(再吸収増加)してH⁺を排泄増加でpHを正常化(「HCO₃⁻排泄増加」はアルカローシスのときの反応で逆方向)。アルドステロン=Na再吸収促進・K排泄促進→血圧上昇。腎臓=ビタミンDの最終活性化(CKDで障害→骨異栄養症)。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した腎生理学)。アシドーシスのとき腎臓は重炭酸イオン(HCO₃⁻)を「排泄増加」するのではなく「再吸収増加・新生」することでpHを正常化する(方向が逆)。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。