衛生管理者 労働生理 問71:神経・筋
骨格筋の筋線維タイプ(赤筋と白筋)に関する次の記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア赤筋線維(遅筋:タイプI線維)はミトコンドリア含量が少なく、解糖系を主なエネルギー源とするため、持久力作業には適しているが疲労しやすい。
- イ白筋線維(速筋:タイプII線維)はミトコンドリアが多く酸化的代謝能力が高いため、短距離走・瞬発力を要する動作には不向きで、むしろ長時間の持続作業に適している。
- ウ赤筋線維(タイプI)はミオグロビン含量が豊富で赤色を呈し、収縮速度は遅いが疲労しにくく(耐疲労性が高い)、姿勢維持筋・持久系競技選手の筋肉に多く含まれる。正答
- エ白筋線維(タイプII線維)と赤筋線維(タイプI線維)の比率は生涯にわたって固定されており、トレーニングや加齢によっても変化しない。
- オ体内のすべての骨格筋は赤筋線維のみで構成されており、白筋線維は特殊な眼筋や声帯筋にのみ存在する。
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正しいのはウです。赤筋(遅筋・タイプI線維)はミオグロビン(酸素貯蔵タンパク質)を多く含むため赤色を呈します。有酸素代謝(ミトコンドリアでの酸化的リン酸化)が主体なので疲労しにくく、持久的な姿勢維持や長距離走に適しています。
各誤りの要点: ア→赤筋はミトコンドリアが多く(少なくでなく)、有酸素代謝が主体で疲労しにくい(誤り)。イ→白筋はミトコンドリアが少なく、解糖系が主体なので瞬発力に適しているが疲労しやすい(記述が逆)。エ→筋線維タイプの比率はトレーニングで一定程度変化し(特にタイプIIaはタイプI的性質を獲得できる)、加齢で速筋が減少する(誤り)。オ→ほぼすべての骨格筋で赤筋・白筋両タイプが混在する(誤り)。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(誤): 赤筋線維(タイプI・遅筋)の正しい特性: ミトコンドリア含量が多く(赤い色の一因)、有酸素代謝(脂肪酸・グルコースのTCA回路+酸化的リン酸化)を主体とします。このため①疲労しにくい(耐疲労性が高い)②収縮速度が遅い③大きな瞬発力には不向き④持続的な収縮・姿勢維持に適している。「ミトコンドリア含量が少なく・解糖系主体・疲労しやすい」はタイプIIbの特性であり、タイプIの記述として誤りです。
- イ(誤): 白筋線維(タイプII線維・特にタイプIIb/IIx)の正しい特性: ミトコンドリアが少なく、解糖系(嫌気性)を主体とします。①収縮速度が速い(速筋)②大きな瞬発力を発揮③ATPの急速産生が可能(PCr系・解糖系)④疲労しやすい(乳酸蓄積・ATP枯渇)⑤短距離走・ジャンプ・投てき・重量挙げに適している。「ミトコンドリアが多く・持続作業に適している」は赤筋の特性であり、白筋の記述として誤りです。
- ウ(正): 赤筋(タイプI線維)の特性の正確な記述です。ミオグロビンは細胞内の酸素貯蔵と拡散を促進する筋肉専用の酸素結合タンパク質で、鉄(ヘム鉄)を含むため赤色を呈します。収縮速度が遅い(遅筋)・耐疲労性が高い・有酸素代謝主体・ミトコンドリア豊富・毛細血管密度が高い。姿勢維持に関わるヒラメ筋・脊柱起立筋はタイプI比率が高く、マラソン選手の大腿筋はトレーニングによりタイプI比率が高まります。
- エ(誤): 筋線維タイプの比率はある程度遺伝的に決まっていますが、トレーニングや加齢で変化します。持久系有酸素トレーニング→タイプIIaがタイプI的性質を獲得(タイプIIa→タイプI方向へ移行)。最大筋力トレーニング→タイプII線維の肥大(筋線維タイプの変化より肥大が主)。加齢→主にタイプII線維(速筋)が選択的に萎縮・消失→筋力・瞬発力の低下(サルコペニア)。「生涯にわたって固定・変化しない」は誤りです。
- オ(誤): 実際には、ほとんどの骨格筋はタイプI(赤筋)とタイプII(白筋)が混在しています。筋肉によってその比率が異なります(ヒラメ筋はタイプI主体・速筋優位の眼の外直筋はタイプIIx主体・大腿四頭筋はほぼ均等など)。「すべての骨格筋が赤筋のみ」は誤りです。
#### 1. 筋線維タイプの完全分類と代謝特性
筋線維タイプの詳細分類(ミオシン重鎖(MHC)アイソフォームに基づく):
| タイプ | 旧名称 | 収縮速度 | 疲労耐性 | 主代謝 | ミトコンドリア | ミオグロビン | 主な機能 |
|-------|-------|--------|---------|-------|-------------|-----------|---------|
| タイプI(SO) | 遅酸化型 | 遅 | 非常に高い | 有酸素(脂肪>糖質) | 多 | 多(赤) | 姿勢維持・持久性 |
| タイプIIa(FOG) | 速酸化解糖型 | 速(中) | 中程度 | 有酸素+嫌気性 | 中程度 | 中(ピンク) | 中速・中距離 |
| タイプIIb/IIx(FG) | 速解糖型 | 最速 | 低い | 嫌気性(解糖系主体) | 少 | 少(白) | 瞬発力・短時間最大出力 |
ヒトの多くの筋肉では、ひとつの筋腹内にタイプI・IIa・IIxが混在し、神経支配の運動単位(motor unit)ごとに分類されています。
#### 2. 運動単位(Motor Unit)の動員とサイズ原則
Henneman's size principle(サイズ原則):
- 軽い運動→小さな運動単位(タイプI線維支配・低閾値)が最初に動員
- 重い運動→大きな運動単位(タイプII線維支配・高閾値)が追加動員
- 順序: タイプI→タイプIIa→タイプIIb/IIx
この原則の生理学的意義:
- 日常生活の細かい動作・姿勢維持は疲労しにくいタイプIが担う(効率的)
- 最大力発揮(重量挙げ・ダッシュ)では全タイプが動員される
- トレーニングで高閾値運動単位(タイプII)の動員効率が向上→筋力向上(神経適応)
#### 3. 筋線維タイプとサルコペニア(加齢性筋肉減少症)
加齢による筋線維タイプの変化:
- 60歳以降: タイプII線維(特にIIb/IIx)が選択的に萎縮・消失
- タイプI線維は比較的保たれる(有酸素系機能は比較的維持される)
- 結果: 筋力・瞬発力の急速な低下(転倒リスク増大)
サルコペニア(筋肉減少症)の定義(AWGS2019):
- 筋力低下(握力: 男性<28kg・女性<18kg)+ 筋肉量減少(DXA等で測定)
- 日本人65歳以上の有病率: 約5〜13%(地域在住)
- リスク因子: 身体活動低下・タンパク摂取不足・慢性疾患・炎症
職場での応用(衛生管理者の実務):
- 高齢労働者(55歳以上)の増加→サルコペニアによる労働能力・転倒リスクの評価
- 作業設計の変更(重量制限・補助器具・休憩頻度増加)
- 職場での体力測定(握力・下肢筋力)による適性管理
- 栄養管理(高タンパク食・ロイシン強化・ビタミンD)の保健指導
#### 4. 衛生管理者試験での頻出論点と職場への応用
試験では「赤筋(タイプI・遅筋): ミオグロビン多い・ミトコンドリア多い・有酸素代謝主体・疲労しにくい・持久系に適している」「白筋(タイプII・速筋): ミオグロビン少ない・ミトコンドリア少ない・解糖系主体・疲労しやすい・瞬発力に適している」「筋線維タイプの比率はトレーニング・加齢で変化する(固定ではない)」「ほとんどの骨格筋は赤筋・白筋が混在」が頻出です。ウが正解であり、アとイは赤筋・白筋の特性を入れ替えた典型的な引っかけです。
【根拠】医学的事実(確立した筋生理学)。赤筋(タイプI)と白筋(タイプII)の代謝特性・収縮特性・疲労耐性・筋線維タイプの可塑性は確立した知識。
【補足】赤筋(タイプI・遅筋)=ミオグロビン多い・ミトコンドリア多い・有酸素代謝・疲労しにくい。白筋(タイプII・速筋)=ミオグロビン少ない・ミトコンドリア少ない・解糖系・疲労しやすい。アとイは特性が逆で誤り。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した筋生理学)。赤筋(タイプI)はミオグロビン豊富・収縮遅い・耐疲労性高い・有酸素代謝主体という特性は確立した知識。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。