行政書士 民法 問28:物権変動・177条と登記請求権
AからBへの不動産売買(B未登記)後、BからCへ同じ不動産が売却された(C登記済)。この事例に関する次の記述のうち、民法の規定および判例の趣旨に照らして**正しいもの**はどれか。なお、AとBの間の売買は有効に成立しているものとする。
- アBはCに対して所有権を主張できないが、AにはBへの登記移転義務が残るため、AはBに代わってCへの所有権移転登記を求めることができる。
- イCがBとAの二重売買であることを知っていた場合(悪意)、Cは先に登記を備えていてもBに対して所有権を対抗することができない。
- ウBはCより先に売買を完了しているが登記がないため、Cに対して所有権を対抗することができない。正答
- エAは所有権を既にBに移転しているため、その後にCと締結した売買契約はAの無権利者としての行為であり、当然に無効である。
- オBがCより先にAから所有権移転の仮登記を備えていた場合、Bは本登記をしなくてもCに対して所有権を対抗することができる。
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ウが正しいです。民法177条は「不動産に関する物権の得喪及び変更は、…その登記をしなければ、第三者に対抗することができない」と規定しており、先に売買を完了しても登記がなければ第三者に所有権を対抗できません。BはCより先に売買を完了していますが、未登記であるためCに対して所有権を対抗できません。アは誤りで(AにはBへの登記移転義務があるが、AがCへ移転を求める根拠はない)、イは誤りで(単なる悪意は177条の第三者から除外されない)、エは誤りで(二重売買自体は無権利行為として当然無効ではなく、対抗問題として処理される)、オは誤りで(仮登記は本登記の順位を保全するが、対抗力は本登記によって生じる)。
ウが正解です。民法177条により、不動産物権変動は登記によって第三者に対抗できます。BはAから不動産を購入して所有権を取得しましたが(民176条・意思主義により売買成立と同時に所有権移転)、登記を備えていません。一方Cは後から購入して先に登記を備えました。この場合、BはCに対して所有権を対抗できません(ウが正しい)。
ア:誤りです。AはBに対して登記移転義務を負いますが(売買の義務)、AがCへの移転登記を求めることは自らの義務(Bへの移転)と矛盾します。BはAに対して登記移転請求権を持ちますが、それが実行されない間にCが先に登記を備えた場合、BはCに対抗できない状態が確定します。
イ:誤りです。判例(最判昭39.10.15等)は、単なる悪意(二重売買を知っていた)だけでは177条の「第三者」から排除されないとしており、Cが悪意でも先に登記を備えればBに対抗できます(ただし「背信的悪意者」に当たる場合は別)。
エ:誤りです。二重売買(Aが既にBに売却した不動産をCにも売却)は、AがBとCに対し二重に所有権を移転する約束をしたものとして「対抗問題」として処理されます。BとCはいずれも有効な売買に基づいて権利を主張できる状態にあり、登記の先後で優劣が決まります。Aの無権利による無効ではなく、177条問題として整理されます。
オ:誤りです。仮登記は本登記の順位を保全する効果(不動産登記法105条等)がありますが、第三者への対抗力(177条の登記)は「本登記」によって生じます。仮登記のみでは対抗力は発生しません。
【理論的背景】
民法の所有権変動は「意思主義」(民176条・意思表示のみで物権変動が生じる)に立ちながら、対外的な「対抗要件」として登記(民177条)を要求する二元的な構造です。この構造において「二重売買」は、民法上有効な状態として処理されます。売主Aは両方の買主(B・C)に対して有効な売買契約上の義務を負いますが、所有権の帰属は最終的に登記の先後で決まります。
この対抗問題の解決において「一義的な所有権確定」よりも「公示(登記)への信頼保護」を優先するのが民法177条の設計であり、二重売買という「不法行為的」な状況でも対抗問題として処理する点が日本民法の特色です。
【条文構造】
二重売買の処理フロー:
[第1段階:各売買の有効性]
A→B売買:有効(民176条・意思主義)
A→C売買:有効(二重売買として対抗問題となるが売買自体は有効)
[第2段階:対抗問題]
BとCの優劣→登記の先後で決定(民177条)
Cが先に登記→CがBに対抗可・BはCに対抗不可
[第3段階:AのBへの責任]
Bに登記を移転できなくなったA→Bへの損害賠償責任(履行不能に基づく民415条等)
仮登記の効果:
- 仮登記:将来の本登記の順位を保全(不動産登記法105条)
- 対抗力:本登記によって発生(仮登記では不発生)
- 仮登記後に本登記をした場合、本登記の順位は仮登記の時点に遡る
【試験での位置づけ】
行政書士試験の177条問題では「二重売買→登記の先後で優劣決定」という基本原則が最重要です。典型的な引っかけは①「売買の先後で優劣が決まる」(誤り→登記先後)、②「悪意の者は177条の第三者に含まれない」(誤り→単純悪意は含まれる)、③「仮登記があれば対抗できる」(誤り→本登記が必要)です。また二重売買を「無権利者の行為として無効」とする誤りも典型です。
【各選択肢の発展補足】
- ア: BがAに対して持つ「登記移転請求権」(売買契約の履行請求)は登記実行前から存在するが、CがAから先に登記を得た後では、AはBへの移転義務を履行不能となる。この場合BはAに損害賠償請求ができる(民415条)。AがCへの移転を逆向きに求める(ア)は法的根拠がない。
- イ: 悪意(知情)の第三者と「背信的悪意者」の区別(問13参照)。積極的に妨害行為をした等の特段の事情がなければ単純悪意は177条の第三者に含まれる。本事例でCが単純悪意なら、先登記のCが優先。
- ウ: 正答。177条の基本命題「登記なければ第三者に対抗できない」の典型適用。「先に契約」→「登記で負ければ」所有権を主張できない。Bの救済はAへの損害賠償のみ。
- エ: 意思主義(民176条)と対抗要件主義(民177条)の理解が重要。A→B売買によりBに所有権移転(176条)。A→C売買も有効(Cとの契約も成立)。二重移転の対抗問題として登記先後で解決(177条)。「Aは無権利者として当然無効」は二重売買を無権利者による取引と誤解したもの。
- オ: 仮登記の対抗力不発生(対抗力は本登記によって生じる)。ただし仮登記の順位保全効果(本登記をしたときにその順位が仮登記時点に遡る)は重要。Bが仮登記後にCの本登記前に本登記を行えばBが優先する(この場合の仮登記の有用性)。
【根拠条文】
民法 第176条(物権の設定及び移転)、第177条(不動産に関する物権の変動の対抗要件)、第415条(債務不履行による損害賠償)
不動産登記法 第105条(仮登記の効力)
【補足】
二重売買は「対抗問題」であり、各売買は有効。登記の先後で優劣決定(民177条)。仮登記は本登記の「順位保全」のみであり、対抗力は本登記によって発生。悪意の第三者も登記を先に備えれば対抗可(単純悪意は177条の第三者に含まれる)。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 民法 第177条(不動産物権変動の対抗要件) 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。