民法29取得時効・不動産取得時効と登記

行政書士 民法 問29:取得時効・不動産取得時効と登記

不動産の取得時効に関する次のア〜オの記述のうち、判例の趣旨に照らして**正しいもの**はどれか。

  • 他人の土地を20年間占有した者は、その占有が悪意であっても取得時効の完成により所有権を取得し、登記なくして前所有者に対抗することができる。
  • 取得時効の完成後に時効を援用する前に、前所有者が第三者に当該土地を売却して第三者が登記を備えた場合、時効取得者は登記なくして第三者に対抗することができない。正答
  • 時効完成前に前所有者から不動産を取得した第三者に対しては、時効取得者は登記なく対抗することができる。
  • 取得時効の完成後に前所有者が当該土地に抵当権を設定し、抵当権者が登記を備えた場合、時効取得者は抵当権者に対して抵当権の消滅を主張することができない。
  • 取得時効を援用できるのは占有者本人のみであり、保証人や物上保証人は取得時効を援用することができない。
正答:取得時効の完成後に時効を援用する前に、前所有者が第三者に当該土地を売却して第三者が登記を備えた場合、時効取得者は登記なくして第三者に対抗することができない。

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イが正しいです。判例(最判昭33.8.28)は、時効の完成後に時効を援用する前に第三者が登記を備えた場合、時効取得者と第三者の関係は民法177条の対抗問題として処理され、時効取得者は登記なくして第三者に対抗できないとしています。アは誤りで、悪意占有の場合は20年(善意無過失なら10年)の時効が成立しますが、前所有者への対抗も登記が必要かどうかという問題があります(当事者間では登記不要)。ウは誤りで、時効完成前の第三者との関係も論点があります(判例は時効完成前の第三者には登記なく対抗可とする傾向)。エは誤りで、時効完成後の抵当権者への対抗も対抗問題になります(抵当権者が登記→時効取得者が登記なく対抗不可)。オは誤りで、援用権者は民145条により「正当な利益を有する者」を含みます。

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イが正解です。判例は取得時効と登記の関係について「時効完成の前後」で区別しています。

①時効完成後に前所有者が第三者に売却・登記した場合(本問イの場面):時効取得者と第三者は民法177条の対抗問題として処理され、先に登記を備えた第三者が優先します(最判昭33.8.28)。時効取得者は登記なくして対抗できません。これがイの根拠です。

②時効完成前に前所有者が第三者に売却・登記した場合(ウの問題):判例は、時効取得者は時効完成前に登記を備えた第三者に対し登記なく対抗できるとしています(最判昭41.11.22)。時効完成時の所有者(=当事者)に対しては登記なく時効取得を主張できるという理解です。これはウの選択肢が誤りとなる理由につながります。

ア:誤りです。悪意占有者の時効(20年)完成後、前所有者(当事者)との関係では登記なく対抗できますが(当事者との関係に177条の適用はない)、第三者との関係では177条が問題となります。「前所有者に対抗できる」部分は正しいですが、「登記なくして」という部分は第三者に対しては誤り。

エ:誤りです。時効完成後に前所有者が抵当権を設定し登記を備えた場合、時効取得者と抵当権者は177条の対抗問題として処理されます(イと同様)。時効取得者は登記なくして抵当権者に対抗できないため、抵当権の消滅を主張できません。

オ:誤りです。民法145条は時効の援用権者を「当事者…その他権利の消滅について正当な利益を有する者」と定めます。取得時効では占有者本人が中心的な援用権者ですが、援用権者を占有者本人のみに限るとは規定されておらず、時効取得によって直接利益を受ける者(例:占有者から目的物を取得した者等)も援用しうると解されます。「占有者本人のみ」と断定するオは誤りです。

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【理論的背景】

取得時効(民162条)は、一定期間の継続的占有によって所有権を取得する制度です。善意無過失の場合10年、その他(悪意・有過失)の場合20年の占有継続が要件です。時効取得した場合の対外的効力(第三者との関係)については、民法177条(登記対抗要件)との関係をどう整理するかが重要論点です。

判例は「時効完成前の第三者」と「時効完成後の第三者」を区別して処理しています。①前者(時効完成前に前所有者から購入・登記した第三者):時効取得者は登記なく対抗可(「時効完成当時の所有者」が前所有者でなく既に第三者になっている場合、その第三者を新たな「前所有者」として扱い、時効期間が再起算されるという解釈も有力)。②後者(時効完成後に登記した第三者):177条の対抗問題→先に登記した者が優先。

【条文構造】

取得時効の要件(民162条):

  • 所有の意思をもって
  • 平穏かつ公然と
  • 他人の物を占有した者
  • 20年間(悪意・有過失)または10年間(善意無過失)で時効取得

登記との関係(判例の整理):

[時効完成前の第三者]

→ 時効取得者は登記なく対抗可(判例傾向)

理由:第三者取得時点では時効はまだ完成しておらず、第三者は登記を備えても時効完成を防げない

[時効完成後の第三者(本問イの場面)]

→ 177条の対抗問題→登記先後で優劣決定

→ 時効取得者は登記なく対抗不可(先登記の第三者が優先)

【試験での位置づけ】

行政書士試験の取得時効論点では「時効完成前の第三者」vs. 「時効完成後の第三者」の登記の要否が最重要です。①時効完成後・第三者先登記→時効取得者は対抗不可(本問イ)、②時効完成前の第三者→時効取得者は登記なく対抗可(判例傾向)、③取得時効の援用(民145条・援用権者の範囲)という3論点がセットで問われます。「時効取得すれば常に登記なく対抗できる」という単純化した理解が典型的な誤りパターンです。

【各選択肢の発展補足】

  • ア: 取得時効の当事者(時効完成時の所有者・前所有者)との関係では、当事者間に177条は適用されず、時効取得者は登記なく時効取得を主張できる。本選択肢が誤りとされるのは「前所有者に対抗できる」部分ではなく、「(第三者を含め)登記なくして対抗できる」と読める点で、第三者(特に時効完成後に登記した者)には登記なく対抗できないという留保を欠くためである。
  • イ: 正答。最判昭33.8.28の立場:時効完成後の第三者と時効取得者は177条で解決。先に登記した第三者が優先。時効取得者は再度占有を続ければ再び時効を完成させる可能性(再時効)もあるが、それは別論。
  • ウ: 判例は時効完成前の第三者に対しては時効取得者が登記なく対抗できるとする立場に近い(ウの選択肢「対抗できる」は正しいが、本問ではイが明確な正答)。理由:時効完成前の第三者はその後も時効の完成を阻止できず、時効完成時の所有者は第三者であっても時効取得が優先。
  • エ: 時効完成後の抵当権設定(本問イと同様の論理):抵当権者が先に登記→177条対抗問題→時効取得者は対抗不可→抵当権消滅主張不可。これは実務上重要(時効取得後の登記をしないでいると後の抵当権に対抗できない)。
  • オ: 民145条は「正当な利益を有する者」を援用権者に含める。保証人・物上保証人・第三取得者は条文上「消滅時効」の援用権者として明示されており(取得時効ではこれらと場面が異なる)、取得時効の中心的援用権者は占有者本人だが、時効取得により直接利益を受ける承継人等も援用しうる。いずれにせよ「占有者本人のみ」という限定は誤り。

【根拠条文】

民法 第162条(所有権の取得時効)、第145条(時効の援用)、第177条(不動産に関する物権の変動の対抗要件)

【参照判例】

時効完成後の第三者との対抗問題(最判 昭和33年8月28日)

時効完成前の第三者には登記なく対抗可(最判 昭和41年11月22日)

【補足】

「時効完成前の第三者→登記なく対抗可(最判昭41.11.22)」「時効完成後の第三者→177条の対抗問題→先登記者優先(本問イ・最判昭33.8.28)」という時間軸での区別が頻出。時効取得後の登記未了のリスク(後の抵当権に対抗できない)も実務上重要。

出典・根拠について

本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 民法 第162条(所有権の取得時効)、第177条(不動産物権変動の対抗要件) 参照判例: 時効完成後の第三者との関係(最判昭33.8.28)、時効完成前の第三者との関係(最判昭41.11.22) 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。

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