衛生管理者 関係法令(有害業務以外) 問29:労働基準法
賃金の支払いに関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア賃金は、通貨で支払わなければならないが、労働者が同意した場合は、当該労働者が指定する金融機関の口座への振込による支払いが認められる。
- イ賃金は、直接労働者に支払わなければならず、労働者の未成年の子に対して親権者が賃金の受領を代理することは認められない。
- ウ賃金は、その全額を支払わなければならず、使用者が労働者に対して貸付をしている場合でも、当該貸付金と賃金を相殺することは労働者の書面による同意があれば常に認められる。正答
- エ賃金は、毎月1回以上支払わなければならないが、臨時の賃金(賞与)はこの限りでない。
- オ賃金は、一定の期日を定めて支払わなければならず、「毎月第4金曜日」のような変動する期日の設定は認められない。
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誤りはウです。賃金の全額払いの原則(労基法第24条第1項)の下では、原則として使用者が労働者の賃金と別の債権(貸付金等)を一方的に相殺することは禁止されています。ただし判例(最高裁・日本勧業経済会事件等)は、「賃金支払い日と調整額が明確で、労働者の自由意思による真摯な同意がある場合」に限り相殺が認められることがあります。「書面による同意があれば常に認められる」という断言は誤りです(脅迫や強制のない自由意思による同意が必要)。
ア(銀行振込・本人同意)、イ(未成年の子・親権者代理不可)、エ(毎月1回以上・賞与は例外)、オ(毎月第4金曜日は変動するので不可)はいずれも正しい記述です。
賃金支払いの5原則(労基法第24条):
1. 通貨払い 2. 直接払い 3. 全額払い 4. 毎月払い 5. 一定期日払い
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): 通貨払いの原則(第24条第1項本文)の例外として、労働者の同意を得た場合の銀行口座振込が認められます(労基則第7条の2)。
- イ(正): 直接払いの原則(第24条第1項本文)により、使用者は労働者本人に賃金を直接支払わなければなりません。労基法第59条は未成年者(未成年の労働者)が自ら賃金を請求し受け取る権利を保障しており、親権者・後見人が代理受領することは禁止されています。
- ウ(誤): 全額払いの原則(第24条第1項)の下、貸付金との相殺は「書面による同意があれば常に認められる」わけではありません。最高裁判例(日本勧業経済会事件等)は「労働者の自由意思に基づく真摯な同意」が必要であり、同意が形式的・強制的なものであれば相殺は無効とされます。
- エ(正): 毎月払いの原則(第24条第2項本文)の通り。ただし「臨時の賃金(賞与)等」「1か月を超える期間の出来高払い賃金」は毎月払いの例外とされています。
- オ(正): 一定期日払いの原則(第24条第2項後段)により、「毎月20日」「毎月末日」のような確定した期日が必要です。「毎月第4金曜日」は月によって日付が変動するため不可とされています。
【理論的背景】
賃金支払いの5原則(労基法第24条)は、労働者が確実かつ完全に賃金を受け取れることを保障するための強行規定です。歴史的には「賃金の現物支給(物品等)」「中間搾取(使用者の外部者への賃金横流し)」「貸付金や罰金との相殺による実質的な賃金削減」などの不正行為から労働者を保護するために設けられました。
全額払い原則と相殺に関する判例の立場:
- 最高裁(日本勧業経済会事件・1983年): 「全額払い原則の趣旨は、使用者が一方的に行う相殺を禁止することにあるが、労働者の自由意思に基づく合意による相殺は全額払い原則に違反しない」
- 「自由意思」の要件: 強制・脅迫・情報不足・経済的圧力等の影響なく自発的に同意したこと
- 「書面による同意」は必要条件ではあるが十分条件ではなく、自由意思の存在が別途確認必要
「常に認められる」という断言が誤りの核心: たとえ書面による同意があっても、退職時に一括精算を強いるような状況での同意・過去の非違行為を持ち出した上での同意・拒否が事実上不可能な状況での同意等は「自由意思による同意」とは認められない可能性があります。
【実務・条文構造】
5原則と各原則の例外:
①通貨払いの原則(第24条第1項本文):
- 例外: 労働協約の定め・労働者の同意→銀行口座振込(労基則第7条の2)・電子マネー払い(2023年〜特定条件下で解禁)
②直接払いの原則(第24条第1項本文):
- 例外: 労働者本人からの委任状がある場合(真摯な委任)
- 未成年の子の親権者への支払いは禁止(労基法第59条・親権者が「代理」する権利はない)
- 未成年の労働者は自ら賃金を請求し受け取る権利を持つ(第59条)
③全額払いの原則(第24条第1項本文):
- 例外: ①法令に別段の定めがある場合(所得税・社会保険料の控除)・②労使協定による控除(財形貯蓄・組合費等)
- 相殺に関する判例: 労働者の自由意思による真摯な同意がある場合のみ有効
④毎月払いの原則(第24条第2項本文):
- 例外: 臨時の賃金(賞与)・1か月を超える期間についての精算賃金
⑤一定期日払いの原則(第24条第2項後段):
- 「特定の日」が必要(「毎月20日」等の確定した日)
- 「毎月第4金曜日」(月によって日付が変動)は不可
- 「毎月25〜30日」(範囲を設けた期日)も不可
未成年者の賃金(労基法第59条)の特別規定:
- 未成年の労働者(満18歳未満)は、自ら賃金を請求し受け取ることができる
- 親権者・後見人が労働者に代わって賃金を請求・受領することは禁止
- 選択肢イ(未成年の子への親権者の代理受領禁止)はこの規定に基づく正しい記述
なお、法定代理人(親権者)が労働契約を未成年者に代わって締結することは禁止(労基法第58条)。未成年者の契約・賃金に関する特別規定のセットで理解が必要です。
【試験での位置づけ】
賃金支払い5原則は「5つの原則の名称と内容・各原則の例外」を問う問題として頻出です。「全額払い原則と貸付金との相殺(書面同意があれば常に認められるわけではない)」「一定期日払い(毎月第4金曜日は変動するため不可)」「未成年の子の賃金は親権者が代理受領できない」の3点が頻出の引っかけです。賞与(臨時の賃金)への毎月払い原則の例外適用も重要です。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 2023年から電子マネーによる賃金支払いも一定条件下で認められるようになりました(PayPay等の資金移動業者を経由する電子払い)。労働者の同意・払い出し限度額の設定等の条件が必要です。
- イ: 未成年の労働者(18歳未満)が自ら賃金を受け取る権利(労基法第59条)は、親権者が賃金を横取りすることを防ぐための保護規定です。未成年者が自分で銀行口座を持ち受け取ることが原則です。
- ウ: 相殺に関する実務上の注意: 退職時の未払い貸付金の精算を雇用契約書や就業規則に明記し、退職時の「清算合意書」の書面を取る場合でも、退職強要的な状況では「自由意思による同意」と認められない可能性があります。弁護士への相談が推奨される実務的問題です。
- エ: 賞与(ボーナス)が毎月払い原則の例外とされるのは、業績連動や決算確定後に支払われる性質があり、毎月払いのサイクルに乗せることが困難なためです。年2回の夏季・冬季賞与が一般的な実務です。
- オ: 「毎月第4金曜日」が不可の理由は「変動する期日」であることです。月によって20日になったり27日になったりするため「一定の期日」に当たりません。「毎月末日」は月によって28〜31日が変わりますが「月末」という確定した概念であるため一定期日として有効です。
【根拠法令】労働基準法 第24条(賃金支払い5原則:通貨・直接・全額・毎月・一定期日)・第59条(未成年者の賃金請求権・親権者の代理受領禁止)
【補足】全額払い原則と貸付金の相殺は「書面同意があれば常に可」ではなく、「労働者の自由意思による真摯な同意」が必要(判例)。一定期日払い:毎月第4金曜日は変動するため不可。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 労働基準法(労基法)第24条(賃金支払いの5原則)・第59条(未成年者の賃金)。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。