衛生管理者 関係法令(有害業務以外) 問79:労働基準法
労働基準法における制裁(懲戒)および罰則に関する次の記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア就業規則に定める制裁(懲戒)の上限として、減給の制裁は1回の額が平均賃金1日分の半額を超えてはならず、かつ総額が1賃金支払期における賃金の10分の1以下でなければならない。正答
- イ使用者は、労働者の退職後にあっても、在職中の労働者の懲戒事由(服務規律違反等)が判明した場合には、退職した労働者に対して制裁を課すことができる。
- ウ就業規則に制裁規定を設けていない事業場では、いかなる事情があっても労働者を懲戒解雇にすることはできない。
- エ使用者が労働基準法に違反した場合の罰則として、労基法が規定する最も重い刑罰は、強制労働(第5条違反)に対する20年以下の懲役または500万円以下の罰金である。
- オ労働基準法違反が事業主(法人・個人事業主)によって行われた場合、当該使用者だけでなく事業主にも罰則が科される両罰規定は設けられていない。
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正しいのはアです。労基法第91条により、就業規則に規定する減給制裁の上限として①1回の額が平均賃金の1日分の半額以下、かつ②総額が1賃金支払期における賃金の10分の1以下という2つの制限があります。両方の要件を同時に満たす必要があります。
各誤り: イ→退職後の労働者に対する制裁は労基法上認められません(制裁は在籍中の規律維持が目的)。ウ→就業規則の懲戒規定がなくても、信義則・慣行上の懲戒解雇が認められる場合があります(判例)。エ→労基法の最も重い罰則は強制労働(第5条違反)に対する「1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金」です。「20年以下の懲役または500万円以下の罰金」という記述は数値が誤りです。オ→労基法第121条に両罰規定があります。
労働基準法の制裁・罰則規定(第91条・第116〜121条):
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): 労基法第91条により、就業規則に定める制裁(懲戒)の減給については①1回の減給額が平均賃金の1日分の半額以下、かつ②総減給額が1賃金支払期の賃金総額の10分の1以下という上限が設けられています。
- イ(誤): 制裁は在職中の労働者の服務規律維持を目的とするものであり、退職後の元従業員に対して懲戒制裁を課すことは法律上できません。
- ウ(誤): 就業規則に懲戒規定が明示されていない場合でも、社会通念上の懲戒解雇事由(犯罪行為・重大な服務違反等)が存在する場合には懲戒解雇が有効とされることがあります(判例上認められる場合あり)。ただし就業規則への明示が推奨されます。
- エ(誤): 労基法の主な罰則(第117〜第121条)のうち、労働者の強制労働(第5条違反)に対する罰則が「1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金」(第117条)と最重大です。エの「20年以下の懲役または500万円以下の罰金」は、懲役の上限(10年)・罰金の上限(300万円)の双方とも数値が誤りです。
- オ(誤): 労基法第121条に両罰規定が明記されており、事業主(法人・個人)も罰則対象となります。事業主が違反の防止に相当の注意をした場合は免責される場合があります。
【理論的背景】
就業規則による制裁(懲戒)は、使用者が企業秩序を維持するために就業規則で定めた懲戒権の行使です。制裁の種類として一般的なものは「けん責・訓告→減給→出勤停止→降格→諭旨退職→懲戒解雇」という段階があります。このうち「減給」については労基法第91条が金銭的上限を設けており、労働者への経済的打撃を最小限にするための保護規定です。
労基法の罰則は刑事罰(懲役・罰金)であり、行政上の制裁(是正勧告・指導等)とは別物です。両罰規定(第121条)は「実際の違反行為者(管理者・担当者)」に加えて「事業主(法人・個人事業主)」も処罰されるという構造で、組織的な法令遵守を促進する機能があります。
【実務・条文構造】
減給制裁の上限(労基法第91条):
条件①: 1回の減給額 ≤ 平均賃金の1日分の半額(1/2)
条件②: 1賃金支払期の減給総額 ≤ 当期賃金総額の1/10
計算例:
- 月給25万円の労働者の場合:
- 平均賃金の1日分(月給÷平均所定労働日数)≈ 25万円÷21日≒約11,900円
- 1回の減給上限: 約11,900円×1/2≒約5,950円
- 1か月の減給上限: 25万円×1/10=25,000円
- 複数回の制裁があった場合: 各回の減給額はそれぞれ1日分の半額以下かつ月合計が10分の1以下
主な罰則一覧(労基法第117〜121条):
| 違反条文 | 内容 | 罰則 |
|--------|-----|-----|
| 第5条(強制労働禁止) | 暴行・脅迫等による強制 | 1年以上10年以下の懲役または20〜300万円の罰金 |
| 第6条(中間搾取禁止) | 他人の就業への介入で利益収受 | 1年以下の懲役または50万円以下の罰金 |
| 第24条(賃金支払) | 賃金の全額払い違反 | 30万円以下の罰金 |
| 第32条(労働時間) | 法定時間外労働 | 6か月以下の懲役または30万円以下の罰金 |
両罰規定(労基法第121条):
- 違反行為者(担当管理職・使用者)に加え、事業主(法人・個人事業主)も同様の罰金刑
- 免責: 事業主が「違反の防止に必要な措置を講じた」場合は事業主を罰しない
- 目的: 組織的な法令遵守体制の整備を促す
就業規則の制裁規定の位置づけ:
- 制裁の種類・程度を就業規則に明示することは「周知の観点から重要」(明示なしの突然の制裁は信義則違反)
- 懲戒解雇については就業規則の明示が「労働契約法第15条(懲戒の合理性・相当性)」の観点から重要
- ただし最高裁判例では「就業規則の規定がなくても合理的な理由があれば懲戒可」という立場
【試験での位置づけ】
「減給制裁の2条件(1回:1日分半額、総額:10分の1)」は頻出数値として暗記必須です。「両罰規定あり」「最重大罰則は強制労働禁止違反」「退職後の制裁不可」も頻出ポイントです。本問アの2条件の正確な記述(日分の半額・10分の1)を選択肢の数値で問う問題も出題されます。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 「1日分の半額」という基準は「一般的な1日の生活費を一度の制裁で奪わない」という考え方です。また「10分の1」という月合計上限は、複数回の制裁が累積して生活困窮をもたらさないための保護です。この2条件の両方を同時に満たす必要があります。
- イ: 退職後の元従業員への制裁は、労働契約が消滅した後に使用者権限を行使することになるため、法律上も実務上も無効です。なお退職後の競業禁止義務違反への損害賠償は別の法的構成(民法上の約束履行)で請求可能です。
- ウ: 就業規則への懲戒規定明示がない場合でも「従業員として当然守るべき服務規律」(礼節・忠実義務等)の重大な違反には制裁が認められることがあります。しかし「重要な服務規律は就業規則に明示する」ことが安全な実務慣行です。
- エ: 労基法の最重大罰則(強制労働禁止・第5条違反:1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金)は、物理的・心理的強制による労働強制という人権侵害的行為への対応です。通常の時間外・賃金違反の罰則(30万円以下の罰金・6か月以下の懲役)と大きく異なります。「20年以下」「500万円以下」といった誇張された数値に引っかからないよう、正確な「10年以下・300万円以下」を押さえます。
- オ: 両罰規定(第121条)は、法人企業が「担当者が勝手にやった」と責任を逃れることを防ぐための規定です。ただし「相当の注意をした場合」の免責は、コンプライアンス体制整備(内部規程・教育・監査等)を行っている事業主へのインセンティブとなっています。
【根拠法令】労働基準法 第91条(減給制裁の上限:1回=平均賃金1日分の半額以下・総額=賃金の10分の1以下)・第117条(強制労働禁止違反の最重大罰則)・第121条(両罰規定・事業主も罰則対象)
【補足】減給制裁の上限は2条件(1回:日分の半額、総額:月給の10分の1)の両方を満たす必要あり。両罰規定で法人・事業主も処罰対象。退職後の従業員への制裁は不可。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 労働基準法(労基法)第91条(制裁規定の制限)・第116条〜第121条(罰則・両罰規定)。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。