登録販売者 第2章 人体の働きと医薬品 問18:人体の構造と働き(神経系・血液脳関門)
脳・中枢神経系および血液脳関門(BBB: Blood-Brain Barrier)に関する次のア〜オの記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア血液脳関門(BBB)は脳の毛細血管内皮細胞が密着結合(タイトジャンクション)で隙間なく連結されることで形成されており、血中の多くの物質(特に大分子・水溶性物質・タンパク質)の脳への移行を制限する。
- イ脂溶性の高い薬物(例: エタノール・ニコチン・一部の鎮静薬)は血液脳関門を通過しやすく、中枢神経系に作用して鎮静・催眠等の影響をもたらすことがある。
- ウ大脳皮質は認知・判断・記憶・言語等の高次脳機能を担い、延髄は呼吸・循環・嚥下等の生命維持に関わる基本的な自律機能の中枢である。
- エ血液脳関門(BBB)は、グルコース・アミノ酸等の栄養素についても厳密に遮断するため、脳へのグルコース供給はBBBを通過できず、脳は主に脂肪酸をエネルギー源として利用する。正答
- オ脳脊髄液(CSF)は脳室の脈絡叢で産生されて脳・脊髄を循環し、中枢神経系の物理的保護・栄養補給・老廃物除去の機能を担う。
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正答はエです。「BBBはグルコースを厳密に遮断し、脳は主に脂肪酸をエネルギー源として利用する」は誤りです。
脳はエネルギー消費量が多く(全身の約20%)、グルコースを主要エネルギー源として使用します。BBBにはグルコース輸送体(GLUT1)が高発現しており、血中グルコースを脳内に積極的に輸送します。「栄養素も遮断する」という部分が誤りで、必要な栄養素はトランスポーター(担体)を介してBBBを通過できます。
他の選択肢はすべて正しい記述です。アのBBBの構造(密着結合)、イの脂溶性薬物のBBB通過、ウの大脳皮質と延髄の機能分担、オの脳脊髄液の産生・役割はすべて正確な記述です。
各選択肢の詳細解説:
- ア(正): BBBの主要構成要素は脳毛細血管の内皮細胞のタイトジャンクション(claudin・occludin等のタンパク質による密着結合)です。加えて、周皮細胞(pericyte)・アストロサイト(足突起がBBBを包む)・基底膜が「神経血管ユニット(NVU)」として協調してBBBの機能を維持します。分子量500Da以上・水溶性・タンパク質は基本的にBBBを通過できません。
- イ(正): 脂溶性が高く分子量が小さい物質はBBBを受動拡散で通過します。エタノール・ニコチン・モルヒネ・ジアゼパム(ベンゾジアゼピン系)・一部の抗ヒスタミン薬(第一世代: ジフェンヒドラミン等)が代表例です。第一世代抗ヒスタミン薬の「眠気が強い」理由はBBB通過による中枢抑制です。
- ウ(正): 脳の機能局在の基本: 大脳皮質(認知・記憶・感情・随意運動等)・大脳辺縁系(情動・記憶の統合)・小脳(運動協調・バランス)・脳幹(延髄・橋・中脳)(呼吸・心拍・嚥下・意識の維持等の自律機能中枢)。延髄は生命維持に直結した機能の中枢です。
- エ(誤・正答): 脳はエネルギー代謝の面で特殊で、通常時はグルコースをほぼ唯一のエネルギー源として使用します(脂肪酸は通常時BBBを通過しにくく・脳での代謝も限定的)。BBBにはGLUT1(グルコース輸送体1)が高発現し、血中グルコースを積極的に脳内に取り込みます。ただし飢餓・長期絶食時には肝臓でケトン体が産生され、脳もケトン体をエネルギー源として利用できます。
- オ(正): CSF(脳脊髄液)は脳室(側脳室・第3・第4脳室)の脈絡叢(ependymal cells + 毛細血管)で産生(1日約500mL)し、クモ膜下腔→矢状静脈洞のクモ膜顆粒で吸収されます(常時約150mL存在)。衝撃緩衝・物質輸送・老廃物除去(グリア系:グリンパティックシステム)を担います。
BBBの選択的透過性まとめ:
| 物質 | BBB透過性 | 機序 |
|---|---|---|
| グルコース | 高(能動輸送) | GLUT1トランスポーター |
| アミノ酸 | 高(能動輸送) | LAT1等のアミノ酸トランスポーター |
| 脂溶性小分子(エタノール等) | 高(受動拡散) | 脂質二重層を直接通過 |
| 水溶性大分子・タンパク質 | 低(ほぼ不透過) | タイトジャンクションにより阻止 |
【BBBの細胞生物学:神経血管ユニットとアストロサイトの役割】
BBBは単純な「壁」ではなく、複数の細胞が協働する動的な系統です(神経血管ユニット: NVU):
構成要素と役割:
1. 脳毛細血管内皮細胞: タイトジャンクションによる物理的バリア・多数の輸送タンパク(トランスポーター)を発現
2. 周皮細胞(pericyte): 内皮細胞の分化誘導・血流調節・BBBの維持に関与
3. アストロサイト(星状膠細胞): 足突起が毛細血管を取り囲む。内皮細胞へのシグナル(TGF-β等)でタイトジャンクションを強化
4. ミクログリア: 脳内のマクロファージ様細胞。炎症時にBBBの破壊を促進/修復に関与
5. 基底膜: ラミニン・コラーゲンⅣ等の細胞外マトリックス・物理的支持
BBBの輸送システム(薬物設計に重要):
| システム | 方向 | 例 |
|---|---|---|
| 受動拡散 | 血液→脳 | 脂溶性・低分子薬物(ジアゼパム等) |
| SLC(溶質キャリア)輸送体 | 血液→脳 | GLUT1(グルコース)・LAT1(アミノ酸)・MCT1(ケトン体) |
| ABC輸送体(P-糖タンパク・Pgp/MDR1等) | 脳→血液(排出) | 多くの薬物を脳から排出(多剤耐性の原因) |
| 受容体介在性エンドサイトーシス | 血液→脳 | トランスフェリン・インスリン等の大分子 |
P-糖タンパク(Pgp/ABCB1)とBBBの薬物排出:
- 脳毛細血管内皮細胞に高発現するABC輸送体
- 脳に入った薬物を能動的に血液側に排出(脳内濃度を低く保つ)
- 脳腫瘍の化学療法耐性の原因の一つ(がん細胞もPgpを高発現)
- 一部の薬物はPgp阻害薬と組み合わせてBBBを越えさせる戦略がある(研究段階)
【中枢神経作用薬とBBB通過性:OTC薬の「眠気が出る/出ない」の理由】
第一世代抗ヒスタミン薬(古いタイプ)vs 第二世代の違い:
| 世代 | 代表薬 | BBB通過性 | 中枢抑制 | 眠気 |
|---|---|---|---|---|
| 第一世代 | ジフェンヒドラミン・クロルフェニラミン | 高(脂溶性・BBB透過) | 強い | 強い |
| 第二世代 | フェキソフェナジン・ロラタジン・セチリジン | 低(P-gpにより排出等) | 弱い〜ほぼなし | 少ない |
第一世代抗ヒスタミン薬の「眠気が強い」実用的意味:
- 乗り物酔い防止薬: ジフェンヒドラミン(中枢抑制を積極的に利用)
- 睡眠改善薬(OTC): ジフェンヒドラミン塩酸塩(BBB透過+中枢のヒスタミン抑制で眠気誘導)
- 感冒薬・アレルギー薬: 「眠気が出る」という副作用が問題→自動車運転を避けるよう注意喚起
【脳血液関門の破綻と疾患:BBBが壊れるとどうなるか】
BBBの破綻を来す病態:
| 病態 | BBBへの影響 | 結果 |
|---|---|---|
| 脳炎・髄膜炎(細菌・ウイルス) | 炎症性サイトカイン→タイトジャンクション破壊 | 脳浮腫・脳圧上昇 |
| 虚血性脳梗塞 | 低酸素→内皮細胞壊死→BBB崩壊 | 出血性梗塞・脳浮腫 |
| アルツハイマー病 | アミロイドβによる血管周囲への沈着 | BBB機能低下・神経炎症 |
| 多発性硬化症(MS) | T細胞のBBB通過→中枢神経への自己免疫攻撃 | 脱髄 |
グリンパティックシステム(近年注目の脳の老廃物排出機構):
- アストロサイトのアクアポリン4(AQP4)チャネルを介した脳脊髄液の流れ
- 睡眠中に活性化し、アミロイドβ等の老廃物を脳外へ排出する機構
- 睡眠不足がアルツハイマー病のリスク因子になる可能性の生物学的根拠
登録販売者として知るべきBBBと薬物の実務的知識:
1. 「眠くなる薬」の説明: 「こちらの抗アレルギー薬は、脳にも作用して眠気が出やすいです。運転には向きません」
2. 「眠くなりにくい薬」の理由説明: 「この薬は脳に入りにくいので眠気が少ないです」
3. アルコールとの相互作用: エタノールはBBBを容易に通過→中枢神経抑制薬(睡眠薬・抗不安薬等)との相乗的な中枢抑制→危険
4. 高齢者: 加齢でBBBの機能が低下→薬物が脳に入りやすくなる→中枢作用副作用が出やすい(特に抗コリン薬・ベンゾジアゼピン系)
BBBの概念の理解は、第3章の中枢作用薬(鎮咳薬のコデイン・睡眠改善薬・乗り物酔い防止薬・抗アレルギー薬)の「なぜこの薬は眠気が出るか」「なぜアルコールと一緒に飲むと危険か」を論理的に説明できる基盤です。
<!-- 監修確定 2026-06-06(legal-reviser): 正答エ(BBBがグルコースも厳密に遮断し脳は主に脂肪酸を利用=誤り。脳はグルコースを主エネルギー源とし、GLUT1で能動輸送される)で一意。ア(BBB=タイトジャンクション)・イ(脂溶性薬物のBBB通過)・ウ(大脳皮質と延髄の機能分担)・オ(脳脊髄液の産生と役割)はいずれも正しく、誤りはエのみ。第一世代抗ヒスタミン薬の眠気=BBB通過、飢餓時のケトン体利用、の記述も正確。段差性維持。 -->
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(各都道府県が公表する試験問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 厚生労働省「試験問題の作成に関する手引き」(令和8年4月版)第2章 第7節「神経系」 厚生労働省「試験問題の作成に関する手引き」(2026版相当)に準拠し、章節を明記しています。