登録販売者 第5章 医薬品の適正使用・安全対策 問49:医薬品の適正使用・安全対策(添付文書「相談すること」アドレナリン作動成分別表)
一般用医薬品の添付文書における「相談すること」の記載に関して、糖尿病・甲状腺機能障害を有する人とアドレナリン作動成分の組み合わせについての次のア〜オの記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- アメチルエフェドリン塩酸塩はアドレナリン作動成分であり、肝臓でのグリコーゲン分解促進や交感神経刺激による血糖上昇のおそれがあるため、糖尿病の診断を受けた人は服用前に相談が必要とされている。
- イプソイドエフェドリン塩酸塩を含む鼻炎用内服薬は、アドレナリン様作用により甲状腺機能亢進症の患者で動悸・頻脈・血圧上昇等の症状が増強するおそれがあるため、「相談すること」に甲状腺機能障害が記載される。
- ウアドレナリン作動成分を含む点鼻薬は、鼻粘膜に局所適用するのみであり全身への吸収がないため、糖尿病・甲状腺機能障害の患者でも「相談すること」の対象とはならない。正答
- エマオウ(麻黄)を含む漢方処方薬(葛根湯・麻黄湯・小青竜湯等)は、エフェドリン系アルカロイドを含みアドレナリン作動作用があるため、糖尿病・甲状腺機能障害の患者に「相談すること」と記載される。
- オ甲状腺機能亢進症の患者がアドレナリン作動成分を含む製品を使用するリスクは、甲状腺ホルモンが交感神経β受容体の感受性を高めており、アドレナリン様作用が相乗的に増強されることによる。
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正答(誤っている選択肢)はウです。
点鼻薬(アドレナリン作動成分配合)であっても、鼻粘膜からの吸収によって成分が全身循環に入ることがあります。「局所適用だから全身への影響はない」は誤りです。したがって糖尿病・甲状腺機能障害の患者に対しても「相談すること」の対象となる場合があります。
アドレナリン作動成分(メチルエフェドリン、プソイドエフェドリン、フェニレフリン等)の「相談すること」の対象疾患:
- 糖尿病(血糖上昇リスク)
- 甲状腺機能障害(動悸・頻脈の増強)
- 高血圧(血圧上昇リスク)
- 心臓病(心拍数・心収縮力増大)
アとイとエとオはいずれも正しい記述です。
「相談すること」アドレナリン作動成分×糖尿病・甲状腺の別表対応:
| 成分 | 糖尿病への影響 | 甲状腺機能障害への影響 |
|---|---|---|
| メチルエフェドリン塩酸塩 | β2刺激→肝グリコーゲン分解(血糖上昇)、インスリン分泌抑制 | β1刺激→動悸・頻脈増強 |
| プソイドエフェドリン塩酸塩 | 同上(やや弱い) | 同上 |
| フェニレフリン塩酸塩 | α1刺激主体・血糖への影響は軽微だが注意要 | α1刺激→血圧上昇 |
| エフェドリン塩酸塩(処方薬だが漢方含有として) | β2刺激による血糖上昇 | β1刺激による心血管症状増強 |
| マオウ配合漢方(葛根湯・麻黄湯・小青竜湯等) | 含有エフェドリン類による血糖上昇 | 同上 |
各選択肢の解説:
- ア(正): メチルエフェドリン塩酸塩のβ2アドレナリン受容体刺激は、肝臓でのグリコーゲン分解(グルカゴン類似作用)と膵臓のβ細胞からのインスリン分泌抑制(β細胞にはα2受容体もあり、アドレナリン系の刺激によりインスリン分泌が抑制される)を介して血糖を上昇させます。糖尿病の血糖コントロールを乱すリスクがあります。
- イ(正): 甲状腺機能亢進症(バセドウ病等)では甲状腺ホルモン(T3・T4)過剰によってβアドレナリン受容体の感受性・数が増加し、交感神経系の反応性が亢進しています。この状態でプソイドエフェドリン等のアドレナリン作動成分が加わると、動悸・頻脈・血圧上昇・不整脈が相乗的に増強します。
- ウ(誤): 点鼻薬に含まれるアドレナリン作動成分は鼻粘膜から吸収され血中に入ります。特に鼻粘膜の血管は豊富で吸収効率が高い場合があります。「局所投与のため全身への影響なし」は誤りであり、点鼻薬においても糖尿病・甲状腺機能障害の患者への「相談すること」記載は適用されます。
- エ(正): マオウ(麻黄)はエフェドリン・メチルエフェドリン・プソイドエフェドリン等のアルカロイドを含み、アドレナリン作動作用を有します。葛根湯・麻黄湯・小青竜湯・防風通聖散等のマオウ含有漢方処方は、糖尿病・甲状腺機能障害・高血圧・心臓病・腎臓病の患者に「相談すること」と記載されます。
- オ(正): 甲状腺ホルモン(特にT3)はβアドレナリン受容体遺伝子の転写を促進し、受容体の発現量(密度)を増加させます。これにより交感神経系への感受性が病態生理学的に亢進しており、アドレナリン作動成分との相乗効果が生じます。
【アドレナリン受容体サブタイプ別の効果と糖尿病・甲状腺への影響機序を体系化する】
添付文書の「相談すること(糖尿病・甲状腺機能障害)」は、アドレナリン受容体のサブタイプ別作用と内分泌疾患の病態生理が交差する点を理解すると、個々の成分の記載理由が論理的に把握できます。
1. アドレナリン受容体サブタイプとその主要な生理効果
| 受容体 | 主要臓器 | 生理的効果 |
|---|---|---|
| α1 | 末梢血管(皮膚・粘膜・内臓)、虹彩散瞳筋 | 血管収縮→血圧上昇、散瞳 |
| α2 | 膵臓β細胞、シナプス前終末 | インスリン分泌抑制、ノルアドレナリン放出抑制 |
| β1 | 心臓 | 心拍数増加(陽性変時)、心収縮力増大(陽性変力) |
| β2 | 気管支平滑筋、骨格筋血管、肝臓 | 気管支拡張、骨格筋血管拡張、肝グリコーゲン分解→血糖上昇 |
| β3 | 脂肪組織 | 脂肪分解(体温維持) |
2. アドレナリン作動成分が糖尿病に影響する機序
糖尿病(特に2型)の患者でアドレナリン作動成分使用が問題になる理由:
経路1: β2受容体刺激による肝グリコーゲン分解
- β2刺激 → 肝細胞のcAMP増加 → グリコーゲンホスホリラーゼ活性化 → グリコーゲンを分解してグルコース放出
- 血糖値を急速に上昇させる「反糖節ホルモン」としての作用
経路2: α2受容体刺激によるインスリン分泌抑制
- 膵臓β細胞のα2受容体が刺激されるとcAMP産生が抑制
- インスリン分泌が減少 → 血糖上昇
- アドレナリン作動薬は直接的にインスリン分泌を抑制する
経路3: β2受容体刺激による末梢のグルコース取り込み抑制
- 骨格筋への血液分配の変化・インスリン感受性の低下
これらが複合することで、糖尿病患者では血糖コントロールが著しく乱れる可能性があります。経口血糖降下薬(スルホニルウレア系等)やインスリンで管理されている患者では、予期しない高血糖が危機的状況(糖尿病性ケトアシドーシス等)に発展するリスクがあります。
3. アドレナリン作動成分が甲状腺機能亢進症に影響する機序
甲状腺機能亢進症(バセドウ病・甲状腺腺腫等)の病態:
- 甲状腺ホルモン(T3・T4)の過剰産生・分泌
- 全身の代謝亢進・交感神経系の感受性増大
甲状腺ホルモンとβ受容体の関係:
- T3はβ1アドレナリン受容体遺伝子の転写活性化因子として機能
- β1受容体の発現量(mRNA・タンパク質)が増加 → 心臓の交感神経感受性増大
- 結果:同量のアドレナリン様刺激でも心拍数増加・心収縮力増大が増幅される
症状として現れるリスク:
- 頻脈(安静時心拍数100超)・動悸の増強
- 心房細動・心房粗動の誘発
- 高血圧
- 手の震え・発汗過多の増強
バセドウ病の患者が市販の鼻炎用内服薬(プソイドエフェドリン配合)やかぜ薬(マオウ含有漢方配合)を自己判断で服用すると、上記の心血管系症状が急激に悪化するリスクがあります。
4. 点鼻薬の吸収と全身影響(ウの解説の深掘り)
鼻粘膜からの薬物吸収の特徴:
- 鼻粘膜は薄く(10〜15μm)、表面積が広く(約150cm²)、血流が豊富
- 肝臓の初回通過効果を受けずに全身循環に到達(バイオアベイラビリティが高い)
- 吸収速度が速く、内服に近い速度で血中濃度が上昇する場合がある
点鼻薬として使用するアドレナリン作動成分(フェニレフリン・オキシメタゾリン・ナファゾリン等):
- 鼻粘膜のα1受容体を刺激して血管収縮→鼻閉改善
- 一部は全身循環に移行し、心血管系・内分泌系に影響する可能性がある
- 長期使用や過量使用でリバウンド現象(反応性充血)が生じるが、それとは独立に全身吸収の問題がある
登録販売者の実務上の対応:
- 「外用だから全身への影響なし」という患者の誤解を積極的に訂正する
- 糖尿病・甲状腺機能障害を申告した患者が点鼻薬を希望した場合は「相談すること」の記載があることを伝え、医師・薬剤師への確認を促す
- 特に甲状腺機能亢進症の治療中で甲状腺薬(チアマゾール等)を服用中の患者への鼻炎用製品の提供は慎重に
5. 「相談すること」の実務的意味と購入者への説明
「相談すること」は「使用禁止」ではありません。しかし登録販売者の現場では:
1. 基礎疾患の自己申告がなければ購入者から能動的に聴取する
2. 該当する場合は「かかりつけ医または薬剤師への相談」を強く勧める
3. 緊急性が高い(例:激しい動悸・高血糖症状)場合は「受診勧奨」に切り替える
アドレナリン作動成分を含む製品は市販のかぜ薬・鼻炎薬・漢方薬に広く含まれており、「相談すること」の対象者が来店する頻度は高いと言えます。糖尿病・甲状腺疾患の有病率が高い日本の現状(糖尿病有病者約1,000万人・甲状腺機能亢進症は人口の0.2〜0.5%)を踏まえ、日常の販売対応として定着させることが求められます。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(各都道府県が公表する試験問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 厚生労働省「試験問題の作成に関する手引き」(令和8年4月版)第5章 第1節「添付文書等への記載事項」(使用上の注意「相談すること」基礎疾患別表・アドレナリン作動成分) 厚生労働省「試験問題の作成に関する手引き」(2026版相当)に準拠し、章節を明記しています。