登録販売者 第2章 人体の働きと医薬品 問12:人体の構造と働き(呼吸器系)
呼吸器系の構造と機能に関する次のア〜オの記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア鼻腔の粘膜は豊富な毛細血管で覆われており、吸入した空気を体温に近い温度に加温・加湿するとともに、鼻毛や粘液が異物・微生物をトラップする防御機能がある。
- イ気管は軟骨リング(気管軟骨)によって管腔が保たれており、左右の気管支に分岐した後も、末梢の細気管支に至るまで全区間に軟骨が存在する。正答
- ウ肺胞は毛細血管(肺毛細血管)と密着した薄い上皮で覆われており、ここで血液中のCO₂と吸入したO₂が交換(ガス交換)される。
- エ気道の粘膜(気管・気管支)は繊毛上皮で覆われており、繊毛運動によって異物・細菌を含む粘液を咽頭方向(上方)へ移動させて排除する(粘液繊毛輸送)。
- オ肺は左右に分かれ、右肺は3葉(上葉・中葉・下葉)、左肺は心臓の位置関係から2葉(上葉・下葉)で構成されている。
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正答はイです。「末梢の細気管支に至るまで全区間に軟骨が存在する」は誤りです。
気管・気管支の上〜中位まで(主気管支・葉気管支・区域気管支)には軟骨が存在しますが、細気管支(直径約1mm以下)では軟骨がなくなります。細気管支は平滑筋と弾性組織で管径を調節しています。喘息では気管支(特に細気管支)の平滑筋が収縮して気道が狭くなります。
他の選択肢はすべて正しい記述です。アの鼻腔の加温・加湿・防御機能、ウの肺胞でのガス交換、エの繊毛運動による粘液輸送(粘液繊毛クリアランス)、オの右肺3葉・左肺2葉の解剖はすべて正確な記述です。
各選択肢の詳細解説:
- ア(正): 鼻腔粘膜の血管は「海綿体様」の構造を持ち、空気の温度・湿度を調整します。鼻毛(鼻腔前庭部)と粘液(鼻粘膜腺からの分泌)が10μm以上の粒子をトラップします。鼻腔通過時に吸入空気はほぼ37℃・100%湿度に整えられます。
- イ(誤・正答): 気管(trachea)から主気管支・葉気管支・区域気管支(直径約4mm程度まで)には気管軟骨が存在しますが、細気管支(bronchiole、内径約1mm以下)では軟骨がなくなります。軟骨がある気管支=「気管支(bronchus)」、軟骨のない部位=「細気管支(bronchiole)」の区別は解剖学的に重要です。
- ウ(正): 肺胞(alveolus)の上皮は2種類の細胞で構成されます。Ⅰ型肺胞上皮細胞(扁平・ガス交換担当・約95%を占める)とⅡ型肺胞上皮細胞(肺サーファクタント産生・表面張力低下)。ガス交換は分圧差による拡散で行われます(O₂: 肺胞→血液、CO₂: 血液→肺胞)。
- エ(正): 粘液繊毛輸送(mucociliary clearance)は気道の重要な防御機構です。繊毛は毎秒10〜15回程度打動し、粘液層(ゾル層+ゲル層の二層構造)とともに異物・細菌を上方(口腔方向)へ輸送します。タバコ煙・大気汚染物質はこの繊毛機能を障害します。
- オ(正): 右肺3葉(上・中・下)、左肺2葉(上・下)は基本的な解剖です。左肺は心臓の左偏在から心切痕があり、より小さい(右肺より容量が少ない)。
呼吸器系の区分:
| 区分 | 解剖学的構造 | 軟骨の有無 |
|---|---|---|
| 上気道 | 鼻腔・咽頭・喉頭 | あり(喉頭軟骨等) |
| 下気道(伝導部) | 気管〜区域気管支〜細気管支 | 気管〜区域気管支まであり / 細気管支なし |
| 下気道(呼吸部) | 呼吸細気管支〜肺胞管〜肺胞 | なし |
【ガス交換の物理化学的基盤:拡散とヘモグロビンの役割】
肺胞でのガス交換は「拡散(受動輸送)」で行われ、フィックの拡散法則に従います:
J = A × D × (P₁ - P₂) / d
- J: 単位時間のガス拡散量
- A: 拡散面積(肺胞の総面積: 約70〜100m²)
- D: 拡散係数(CO₂の方がO₂より約20倍高い→CO₂の方が拡散しやすい)
- P₁-P₂: 分圧差
- d: 拡散距離(肺胞上皮+基底膜+毛細血管内皮: 約0.5〜2μm)
酸素の分圧(mmHg):
- 大気: 約159mmHg(O₂ 21% × 760mmHg)
- 肺胞内空気: 約100mmHg(換気・水蒸気での希釈)
- 静脈血(肺毛細血管入口): 約40mmHg
- 動脈血(肺毛細血管出口): 約100mmHg(肺胞と平衡)
O₂輸送とヘモグロビン(Hb):
- 血中O₂の約97%はHbと結合(HbO₂: オキシヘモグロビン)・約3%が血漿溶解
- 酸素解離曲線(シグモイド型): O₂分圧が低いほどHbからO₂が解離しやすい
- ボーア効果(Bohr effect): CO₂増加・pH低下・温度上昇でHbのO₂親和性低下→組織へのO₂供給増加
- CO₂の輸送: 重炭酸イオン(HCO₃⁻)として70%・HbCO₂(カルバミノ化合物)として20〜25%・溶解型5〜10%
【繊毛機能とその障害:OTC薬の喀痰溶解薬との関連】
繊毛運動の詳細:
- 繊毛は単一細胞に約200本存在(1cm²当たり数億本)
- 動力源: ATP(ダイニンATPアーゼが軸糸を動かす)
- 9+2構造(微小管): 外周9対の二連微小管+中心2本
- 打動パターン: 能動期(速い打動・異物を口側へ)と回復期(遅い復位運動)
繊毛機能を障害する要因:
| 要因 | 機序 |
|---|---|
| タバコ煙 | アクロレイン等が繊毛を直接傷害・粘液産生過多 |
| 乾燥した空気 | 粘液ゾル層の水分蒸発→繊毛打動障害 |
| ウイルス感染 | 繊毛上皮細胞の破壊 |
| 一次繊毛ジスキネジア(PCD) | 遺伝性の繊毛構造異常(ダイニンアームの欠損等)→慢性気道感染 |
OTC薬「去痰薬」の作用機序と繊毛との関係:
- ブロムヘキシン: 気道分泌腺を刺激してサラサラした分泌物を増やす→繊毛輸送を助ける
- アセチルシステイン(海外のOTC・日本は処方): ジスルフィド結合を切断→粘液のジェル構造を壊す→粘液を液化
- カルボシステイン(ムコダイン等): 杯細胞から産生される粘液の組成を改善→繊毛輸送を正常化
登録販売者実務: 「たんがからむ」訴えに対して、喫煙者・加齢・感染後等の背景を聞き、長引く場合は受診勧奨を行う。OTC去痰薬(鎮咳去痰薬)の適切な情報提供が求められます。
【肺サーファクタントと呼吸窮迫症候群(RDS)の原理】
肺サーファクタント(界面活性物質):
- 産生: Ⅱ型肺胞上皮細胞(肺胞の表面を覆う単分子層)
- 成分: DPPC(ジパルミトイルホスファチジルコリン)等のリン脂質が主成分
- 機能: 肺胞の表面張力を低下させ、小さい肺胞が虚脱するのを防ぐ
ラプラスの法則との関係: 球形の膜の内圧 = 4T/r (T=表面張力、r=半径)
→ 半径が小さい肺胞ほど大きな圧力が必要→サーファクタントなしでは小さい肺胞が虚脱し、大きい肺胞に空気が逃げる(無気肺の形成)
新生児呼吸窮迫症候群(nRDS/IRDS):
- 原因: 早産児(妊娠34週未満)でサーファクタント産生が不十分
- 症状: 生後数時間以内の呼吸困難・チアノーゼ
- 治療: 人工的サーファクタントの気管内投与・人工呼吸
この知識は登録販売者試験の範囲を超えますが、「なぜ鼻呼吸が重要か」「なぜ去痰薬が粘液の性状を変えるか」「なぜ早産児は呼吸が苦しいか」という背景理解として、実務での説明力向上に役立ちます。
【呼吸器系OTC薬の選択と気管支・細気管支の薬理学的背景】
気管支の緊張(攣縮 vs 弛緩)の調節:
- 交感神経(β₂受容体): 気管支拡張(喘息薬: β₂刺激薬の標的)
- 副交感神経(ムスカリン受容体): 気管支収縮(抗コリン薬で拡張できる)
- ヒスタミン(H₁受容体): 気管支収縮(アレルギー性気道炎症の主役の一つ)
OTC鎮咳薬・去痰薬選択の考え方:
- 空咳(痰のない咳): 咳中枢を抑制する鎮咳薬(コデイン・ジヒドロコデイン・デキストロメトルファン等)
- 湿性咳(痰がらみ): 去痰薬(粘液の溶解・排出促進)を中心に使用
- 喘息様の息苦しさ・ゼーゼー: OTC薬の限界・受診勧奨が必要
これらの判断の根拠として、呼吸器系の解剖・生理の正確な理解が登録販売者の実務力の基盤となります。
<!-- 監修確定 2026-06-06(legal-reviser): 正答イ(末梢の細気管支まで全区間に軟骨が存在=誤り。軟骨は気管〜区域気管支までで細気管支にはない)で一意。ア(鼻腔の加温加湿防御)・ウ(肺胞ガス交換)・エ(粘液繊毛輸送)・オ(右肺3葉/左肺2葉)はいずれも正しく、誤りはイのみ。肺胞Ⅰ型/Ⅱ型細胞・サーファクタント・去痰薬機序は手引き範囲を超えるが事実として正確。段差性維持。 -->
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(各都道府県が公表する試験問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 厚生労働省「試験問題の作成に関する手引き」(令和8年4月版)第2章 第2節「呼吸器系」 厚生労働省「試験問題の作成に関する手引き」(2026版相当)に準拠し、章節を明記しています。